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基本に戻って


 さて、アークゥエスミィへ行く前に、にゃん娘がパン・セリンで護衛官デビューしたいと言うので、何か一仕事二仕事してから出発、ということになった次第。

 まあ元々シェルニーは、護衛官としてパン・セリンデビューするつもりでこっちに来たところを、俺らがスカウトしてウーゴ・ブオールの案内役してもらってたんだから、やっと本来の目的を達成できることになったわけだ。


「まぁここはうちに任しとき。勝手知ったるなんとやら、やしな」

「よろしくお願いしにゃすセンパイ!」


 と、ナオが先輩面してくるので、地元の先輩にお任せしておこう。


 時にナオさんや、家には顔見せせんでええのん? 近場だけど。


「まぁ……ええやろ。どっせ護衛官になったら、年イチで帰れたらええぐらいのもんやったしな」


 一抹の寂しさも感じさせない笑顔で、ナオは答える。


 ――俺らも、久々に冒険者(護衛官)ギルドの依頼ボードを見る。

 すでに朝一の依頼争奪戦は終わり、今は「なんか適当なのないかいなー」と、流して見ているような連中しかいない。


「お、これなんか適当でええんちゃう?

 森のゴブリン退治やて。大規模(レイド)討伐やから参加パーティ募集中やて」


 ……大規模ゴブリン退治か……。

 ロクでもねえ思い出が蘇るぜ……。


「ケンが鮮烈デビューを果たしたのも、こんな感じのゴブリン退治だったよねー」


 おいやめろ。余計なことを言うんじゃあないッ!

 どこでフラグ神が見てるか解らんのだぞ!


「何やのん、ふらぐ神って……」

「ほら、悪いことばかり考えてるとそれが本当になるっていう。そういう悪運を司る神らしいよ」

「ああ、負け法則の神か……」


 負け法則て。

 フラグは別に悪い方にばかり立つわけじゃないぞ!

 いい方向にだって立つんだからな!


「立つ立つって、何が立つのさ?」

「フラグ……旗だよ旗」

「旗? 旗がなんの関係あんねん」


 つまりだな……


 「フラグ」の概念を説明するのはめんどくさい。

 そもそもがここで言う「フラグ」って、コンピュータ用語だ。

 似たような用語で「フラグメント」というのもあるが、それは「断片」とかいう意味で、「デフラグ(メンテーション)」の方に使われるやつで、こっちとは関係ない。


 プログラムでイベント終了チェックをする際に、「イベント管理ビット」というのが用意されて、最初はそこに0が入っているのだが、イベントを消化すると「1」になる。

 この「1」のフォントの形が「(フラグ)が立っている」状態に似ているから、0→1への変化を「フラグを立てる」と言うようになった、という説が有力らしい。

 このフラグを「イベントフラグ」と業界では言っていたわけだが、イベントフラグが条件を満たすように立つと、次のイベントが発生する――というところから、「フラグを立てる」=「何かイベントが起きる(イベント条件が成立する)」というテンプレに変化し、それがハリウッド映画のお約束と重なって「あの台詞を言うと死ぬ」とか「ああいう行動をする奴は死にそうなくせに最後まで生き延びる」とか、そういうパターンがいくつか出来上がった。

 有名なのが、戦争映画で「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ……」とか仲間内に話してた奴は必ず死ぬとか、バトルで相手を倒したと思って「……やったか?」と呟くと、敵がより強くなってまた襲ってくるとかだ。もはや様式美と言っていい。

 それがいつの間にやら、某掲示板でネタにされて、一般にも広まったわけだが。


 なので、ちょっと解りにくい例えとして、こっちでは「占領した城や砦に旗を立てる」という言い方をしている。

 一つ城が落ちれば、戦の潮目も変わる――そういう変化の切っ掛けとして、旗というものの存在があるから、「何か起こる(変わる)かもしれない状況」を「(フラグ)を立てる」と言うということだ。

 これだと、軍関係の人間だと大体理解してくれるし、戦争に関わったことがある奴なら解ることが多い。


 まあフラグの話はどうでもいい。


 ではここらで、ゴブキンキラーの実力を見せてやるとしようかの!

 一応こっちは正面から倒したんだし!


「まあそやな……うちらの方がむしろ、最初のゴブ狩りはイマイチやってんな。ゴブキンにも殴られて一回転したし……」

「だねー。そういえば、ゴブ狩りってまだ二回目だよねボクら」

「そういえばそうね……盗賊はともかく、オーガとかオーガとか、骨オーガとか……」

「鬼退治ばっかやったな……あと野菜退治」

「野菜の話はするな」

「冒険者の仕事じゃないよね、野菜退治って。それに実際鬼退治したのも、ほとんどケンとビュスナだしねー」

「あとはゾンビの始末か……」

「あれ結局、ボクらは始末してないよね」

「……だなあ……ひでえ体験ばっかりだな」

「ほんまや……ウチらまともに冒険者してないんちゃうん?」

「ナオなんか、その鬼であるコーチに殴られたしな」

「いや、あれはやな……」


 さっきまでの先輩面はどうした。

 ……まあ冒険者というには、ちょっと異色のミッションが多すぎたっていうか……


 今更それをどうこう言っても仕方ない。

 とりあえずゴブ狩りしようぜ!


 ほんと俺ら、まっとうな冒険者活動、ロクにしてねえな……。


 ――そんな風に思っていた時期が、俺にもありました。

 だけどもうそんなの関係ねえ!

 ゴブ狩りしたったらええねん。

 ドーンでもスパーンでもバキューンでもなんでもええから。


「普通、デビュー直後の冒険者なんて、採取から始めるもんなんだけどね……」

「せやな……まあ一応、ウチは最初の頃、採取やってたで?」

「マジで?」

「マジやで。西部の森は赤ヒール草の名産地やからな。『赤草のナオ』いうたら、あの当時でもちっとは知られた名前やってんで?」

「あんまカッコよくねえな……」

「野菜キラーよりはいいよ」

「野菜や草取りより肉取りの方が良くにゃい?」

「食える肉なんてそんな簡単に取れへんわ……初心者はまず薬草取りから始めんねんで。

 草取りに始まり草取りに終わる、それが冒険者ってもんやで」

「護衛官の名がどっか行ってるにゃ……」

「護衛官っつってもなー、もう護衛の仕事ばっかりじゃないしなー」

「冒険者だって、危ないことばっかりしてるわけでもないしね」

「いやシェラ君よ、君はまさに冒険者じゃないかね? アブナイ仕事ばっかしてさー」

「そうかな?」

「感覚がマヒしてるわね……」

「うーん、死ぬか死なないかの二択ばかりだったからねえ……」

「死んでなきゃ安全ってそんなわけあるかーい! 死ぬギリギリばっか体験すんのは臨死体験っちゅーんじゃ!」

「ケンが言うと重みあるねぇ……」

「危険人物とはこういうの言うんやな……」

「危険が向こうから寄ってくるだけだ危険人物って呼ぶな」

「もうケンじゃなくてキケンって名前変えたら?」

「せやな。どんな奴か一発で解るし」

「アホか。よけー人生危ない目だらけになるわ」

「ただのゴブ狩りが、キング狩りになるぐらい危ないからねえ……」

「それは危ないにゃし。初心者がやる仕事じゃないにゃし」

「言っとくがあれは俺のせいじゃないからな? それにオーガの一件だって、俺が原因じゃねーし」

「でもコーチの件はそうだよね?」


 んぐッ!

 ……こ、コーチの件はオーガだって解ってたら別の対応したわい!

 それに半分はナオのせいだろ!


「ほんとかなぁ……結局抱え込む気がするんだけど?」

「ウチもそう思うで。ヤケクソになって承知するとこなんかなー」


 こいつら……

 いや、厄介事に関してはナオさん、あんたも俺と同等よ?

 コーチに関しては特に――顔背けんな。現実(コーチ)を見ろ。


「……俺はお前に感謝しているぞ、ケン」


 コーチが、ぽつりとそう口を挟み、口角を上げた。


「結果として、それが我らオーガの未来を開くことにもなったのだからな」


 ……結果としては、だがな。


 だが、結果としてこうなった以上、「どうしてこうなった……」はもう言うまい。

 言ったところで、現在が変わるわけでなし。


 ま、ある意味「冒険者らしい冒険者」になったとも言えるからな。

 それはそれで、俺が望んだ未来が現実になったわけだから。



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