結び手(後)
「俺たちは、ジシィ・マーダ、ククリグ冒険者ギルド所属、《ギガントバスタ》。
リーダーはこいつ、ビュスナ。
俺はケン、こいつがナオ、そっちがシェラザッド、でっかいのがコーチ、にゃん娘がシェルニーだ」
「にゃん娘言うな」
「……猫娘?」
「……合ってるけどなんか違う気がする」
鋭いなこ奴。
――すると、カミオロが驚いた顔で。
「ははあ、あなた方が《ギガントバスタ》でしたか。
いやいや、出発前にいろいろと噂を聞きましてね。ジシィ・マーダといえばセルバイヤからも近いのでね。
有名な盗賊団を捕まえたり、ゴブリンキングを倒したり、果てはオーガまで倒したとかなんとか。キング・キラーにオーガ・キラーのケンといったら、私でも耳にしているほどに高名な、若手で最も有名な冒険者だと。もちろん父も兄も存じておりましたよ、ええ。
お帰りの際には是非、デルマリット商会をご利用ください。都市国家の中だけでなく、ジシィ・マーダやヤン・ドール・ザンにも支店がございますので、お立ち寄り頂ければ幸いでございます。
冒険者の方々にもご利用頂けるだけの品は取り揃えてございますよ」
「へぇ、ジシィ・マーダにも支店あるんだ」
「ほしたら帰りに覗いてみよか」
「私、カミオロの紹介と言い添えて頂ければ、お値段も勉強させて頂きますよ。首都の支店には兄が修業中ですので」
「巧いなぁ。そゆとこはさすが商人やな」
「ははは、ナオ様は商売上手の多いパン・セリンのお生まれですか、さすがにそこは厳しい評価をされそうですな。私もせいぜい精進致しましょう」
ほんとまあ……なんというか、コミュ力の高さを感じさせる会話術というか。
次から次へと、よくもまあこう言葉を巧いこと捻り出せるもんだ。
「それでは、私からも改めて自己紹介を。
デルマリット商会、商会長デミオロ・デルマリットが三男、カミオロ・デルマリットにございます。
商売仲間では、『結び手のカミオロ』としても知られております。
人と人との縁を繋ぐのに色々と才能があったようで、ご紹介に顔つなぎに口利き、そういったところで地元では少々実績もございます。
皆様とのご縁もまた、結び手としては非常に大切な良縁であると信じ、大切にしてゆく所存にございます。
皆様もまた、商売方面で入り用がございましたなら、是非ともわがデルマリット商会をご贔屓にして頂ければ幸いにございます」
……「結び手」か。
なるほど、俺の勘が告げたのはそれか。
「管理者」が言ってた、「コンタクトマン」。
……多分、こいつとは長い付き合いになるか、それともこいつから繋がる重要人物がいるのか――それも追々解ることなんだろう。
――カミオロを連れた旅は、何の障害もなく進み、国境もなんとか越える。
「いやあ、やっとこさ戻って来ましたよ」
パン・セリン最南端の国境の町、ペルパイブン。
その商業ギルド前に、俺たちは来ていた。
「では、話をつけて参りますので、どなたかご同道を」
まあここは言いだしっぺの俺が行こう。
「いらっしゃいませ――おや、確かあなたは……カミオロさんでしたか、デルマリット商会の」
いきなり、ギルドの職員に名前を言われた。
相当印象深かったんだな……こいつ、話始めると止まらないタイプだからな。
「ああどうもどうも、先だってはいろいろと便宜を図って頂きまして。
実は商売の件はともかく、少々厄介なことに……ああいえ、こちらの方は私の護衛のようなものですハイ。
ええと、実はですね」
……結果から言えば、話はうまくまとまった、といえよう。
商業ギルドには「商業相互保険制度」があって、事故や盗難などで事業に失敗した際に、商人が出し合った出資金から、その出資額(口数)に応じた補償金が得られる。
そのおかげで、カミオロはすぐに補償金の一部を支払ってもらえた。
……そこはさすが大店の息子、「保険出資証明書」は肌身離さず隠して持ち歩いていたため、盗賊に奪われずに済んだそうだ。
だがこの証明書、ウーゴでは使えず、それであのような体たらくだった……というのは余談である。
俺たちの前でも出さなかったのは、商人がゆえの用心深さだろうか。
「いやいや、皆様にはなんとお礼を言ったら良いか。
ははは、まあそんなことより謝礼をお支払いするのが先ですな。
ではまず、道中の経費をば。謝礼は改めてククリグの冒険者ギルドを通してお支払いいたしますゆえ」
――カミオロは律儀に、ここまでにかかった経費の倍額を、俺たちに支払おうとするが。
「一つ聞きたいんやけど――あんたの手元に、どれくらい残るん?」
「ははあ、手元資金のご心配ですかな? いやいやご心配には及びません。
我が家はそれなりに信用ある商会でして、出資証があればいくらかは融通していただけるのですよ。もちろん借りた分は利子を付けて返す必要がありますが、なあにそれくらいすぐに稼いでみせますよ。
それくらいのことができなければ、こうして旅商人で商才を磨くなんてことも叶いませんし、修行を了解してくれたわが父にも顔向けできませんのでね」
どうやらカミオロは、俺たちが考えている以上に強かな商人のようだ。
ウーゴの出来事は、ちょっとばかし想定外だっただけなのだろう。
「ははは、そうですなあ――ウーゴ・ブオールの出来事はいい経験でした。
何せ、商業ギルドのネットワーク外の世界を回るということは、ああいう事態にも自力で対応しなければならないということ。それを身を以て思い知っただけでも、この旅の十分な収穫です。
まあ、ここまで来られれば楽なもんです。いつもの通りの商売で、いつもの通り儲ける。今の私なら、それで損は出しませんよ。
ご心配には及びません、ここで同じ失敗を繰り返すようであれば、その時点で商人失格、と父には言われてしまいます。そんなことでは家の門は潜れませんからな」
――気持ちさえ折れていなければ大丈夫。
そういう商人の強さを、改めて思い知らされた。
特にこいつは、それだけのものを持っているのだろう。
俺たちは、カミオロから経費を受け取り――一応、今後の予定を聞いておく。
「そうですな、私はしばらくここで商売をしまして、元手ができましたら元来たルートを遡って国元へ戻ることに致します。
皆様はどちらへ? アークゥエウスミィへ行かれると。そうですか――では、一つだけ、『結び手』としての言葉をお伝えしましょう」
「結び手」としての言葉?
「皆様にはお伝えしてもよろしいでしょう。
ああでも、できれば他言無用に願います――『結び手』というのは、二つ名ではありますが、これ、私の『従 者』の力なのです」
従 者――なるほど、こいつは「誰といつ、どこで出会うか」「誰と誰を引き会わせるか」を、ある程度予測できる能力があるらしい。
それで、俺たちとの邂逅も予測していたと?
「ははは、種明かししてしまえばそういうことです。
ですが、私のこのギフトを以てしても、正確な日時までは知り得ませんでして。
あのままもう一日経過していたら、本当に野垂れ死にしてしまうところでした」
……そういうところは、本人の強運もあるんだろう。俺と違って。
「皆様、アークゥエウスミィからジシィ・マーダへ戻られるかと思いますが、でしたらそこからさらに北へ――そう、ゲート・シティへ行かれるとよろしい。新しい方の、ね。
そこで――キング・キラー殿は、あなたの知りたいことを教えてくれる人物に出会うことができるでしょう」
――俺の知りたいこと?
「行けば解ります。そうですな、その間の道に山が見えますので、山が何か関係しているかと思われます。越えるべき山という象徴なのか、それとも地形としての山なのかは解りませんが、関係ありそうなのはそれぐらいでしょうかね。
私には、誰と誰を会わせよ、と断片的な情報が見えるだけで、全てを知り得るわけではありません。
それであなたが何を得るのか、それも解りませんが――あなたにとっては、人生を変える出会いになることは確実です。
ああ、すぐにではなくても大丈夫ですよ、相手はゲート・シティにいます。
あなたが行けば、必ず会えます」
運命である、とでも言うのだろうか。
さすがコンタクトマンだ。
「大丈夫です、悪いようにはなりません。それだけは解ります。
ただ、そこに至るまでに少々苦労はあるとは思います。そこはご注意を」
迷わず行けよ、行けばわかるさ――某プロレスラーじゃないが、そういうことだ。
「わかった。いずれ行ってみよう」
「願わくば、それが良き出会いとなりますよう、お祈り申し上げます」
カミオロとは、商業ギルドで別れた。
あいつはここで商売のネタを探して、再起を図るそうだ。
そして、俺たちは――
「ほな、とりあえずなんか一仕事してからアークゥエスミィ目指そか」
「そうね。ここんとこ何もなかったし」
「強い奴がいたら俺に回してくれ」
「そういやそんな話もあったな……マシュさんらと合流したら、次はそれだな」
「当てはあるん?」
「……あたし、解った」
「あー……ボクもなんとなく」
「渡りつけるのが面倒なんだよな……」
「……多分、向こうから来ると思う」
「……そんな感じするな……」
「あっちも強い奴大歓迎なんじゃない? なんて言ったっけ――そうそう、『タイマン上等』っていう」
「それはちょっと意味違う……間違ってもいないか」
別にタイマンじゃなくても、こっちから渡りつけなくても向こうから寄ってくるような気がする。
避けようとしても絡むことになると思うので、黙って待ってりゃいんじゃね?
それに――カミオロの言う「相手」が俺に何を教えてくれるのかは知らないが。
「行けばわかるさ」――それに尽きるな。
いつ到着になるかは知らんけど。
そういえば、祥子さんも先に行ってるんだったな。
多分、解るようにはしてくれると思うけども――行く先々で確認しないとな。
そういや、ボールグ転生者たちは上手いことゲート・シティへ向かっているんだろうか……。
まあ心配してもしょうがない。いずれ会うなら会えるだろう。
――そして、また、俺たちは出会うことになる。




