大事なこと
……オーガと獣人との間に起こった「第二次大戦」前哨戦みたいな紛争は、大戦になる前に終了した。
「オーガの神」を名乗った「種族担当管理者」が、種族数の調整に失敗して、なんとか挽回しようとしてさらに失敗を重ねたのが原因だった……なんて報告したところで、獣人たちが納得するとは思えないし、そういう裏事情的なところもできれば言いたくはない。
それに付随する「神対応」も。
だって面倒じゃん? 超面倒じゃん?
そこまで言ったら、俺自体が転生者だとか、そんなとこまで説明しなきゃならんっぽいじゃん? 俺の一生物語話せってか?
だから「状況だけ説明して」終わりにしよう。
それ以外の細かいことは知らん! 存じません! で通す。
まあある程度の話の微調整は必要だが……オーガサイド、グルーガたちにもある程度は辻褄の合う話をしておかなきゃならんし。
さらに面倒なのは、国交交渉使節団への説明だ……ミーチャリアル様とか、適当な説明で済ませられる気がしねえ。
なので、俺たちはそのまま、西の端まで行き、そこからボールグ自治区へ入り、オーガ勢力を説得して帰国させる方向にさせたいのだが……
「帰国させるったって、どうやるんだよ」
『それは任せておけ』
グルーガに名案がある、というので一度やらせてみることになったのだが……
一応、オーガたちの集まる本部みたいな場所があったので、グルーガ隊がそこに乗り込んでいき。
俺は一応、ステルス状態でグルーガに付き従ってみた。状況だけは把握しておきたいかったので。
本部には、かなりの数――千数百のオーガが集まっていた。
「とにかく全員を集めろ、上からの命令だ」という指示を、司令官らしきオーガに伝え、なんだか解らないまま、練兵場みたいなところに集める。
その端の、演説台みたいなところに、グルーガが立ち、<拡声>魔法を使って、声を張り上げた。
「今からしばし後、本国でデル・オーガ最強決定戦が行われる!」
グルーガの言葉に、デル・オーガたちが一斉に反応した。
指揮官のハイ・オーガたちは「え?」って顔だったけど。
「貴様ら、誰が最強か、自分の拳で語ってみたくはないか!
最強になってみたくはないか!」
デル・オーガたちの鼻息が、ふんすかと荒くなっている……
「今更、ボールグだの獣人だの、弱い奴らを相手にしてどうする!?
最強を決めるなら、強い奴を相手にせねば始まらんだろう!
強い奴とは誰だ!?
そう、同じオーガでなくては、強い相手とは言わんのではないか!!」
ウオオォー!とオーガの歓声というか、吠え声が上がった。
「ならば見せてもらおう!
我らオーガの中で、最強は誰だ!
獣人や人間などを相手にしているような小物ではなく!
同じ最強種族たるオーガを相手にして、本当に強いことを証明できる奴を!
本物の最強が貴様であることを!
その拳で、証明してみせろ!!
貴様こそが、この俺こそが最強であると!!
拳で語ってみせろ!!!!」
ウオォォォォォォォォオオオオオオオ――!!!!
オーガたちが吠えた。絶叫した。
デル・オーガ全員が、その言葉に従って、国へ戻った。
……こう言っちゃあなんだけどさ……大丈夫なの、あの連中?
チョロすぎなんだけど……。
『御しやすい方がお主らにとっても都合が良かろう?
勝てば食い切れないほどの肉をやる、と付け加えれば、誰も文句は言うまいよ』
……発想と行動が原始人……。
まあでも、グルーガのアイディアは悪くなかった。
デル・オーガが乗せられてごっそり戦力が減ったことで、指揮していたハイ・オーガらも投降した。
そもそもハイ・オーガたちは、「この戦い、勝ち目あるか?」「勝たなきゃしょうがないんだよ」と、「神(管理者)」にやんわり追い詰められて、仕方なく参戦していたそうだ。
この一件ではハイ・オーガには、「今回に限り」素直に帰るなら、今後今回のことについては追及はしない、という帝王勅許状も出してもらっていて、それを見せたことで、ハイ・オーガ全員も説得完了した。
あ、まだ一部、前線のデルを説得してもらわにゃならんので、そいつらはグルーガ隊に同行することとなった。
エグゾは今回関わっていないので、関係なし。
で、オーガはそれでいいが、ボールグは――
「わ、我々は、オーガに脅されて仕方なく……」
……ボールグ自治政府の長は、「自分の責任ではない」ことを強調し、停戦、戦力の即時撤退を了承した。責任も追及しないと言うと、すごく安堵した顔をした。
反応が豚野郎だな……見た目だけじゃなくて。
――ボールグ自治政府には、ディシュマンドラの破壊された家屋の修復費用と軍の出動費用だけは請求したが、それ以上の賠償は求めないことで、ウーゴ・ブオール政府も最終的には了承した。
だが、ボールグ自治政府は、今後自治領の政治的・経済的開放も要求され、それを飲まざるを得なかった。
実質、自治政府機能の崩壊である。
だが元々ボールグ自治政府は、オーガに与したことの後ろめたさから発生したもので、特に自治意識が高かったわけではない。
それが今回の紛争で、ボールグの民からも「自治政府なんてもういらんだろう」と、実質獣人国への復帰を望む声が高まり――結局この数年後には、ウーゴ・ブオールへの再帰属を果たすこととなる。
まあ、それでボールグという種族の評価が変わったわけではないが――その後、実際にボールグとともに生活して、「ボールグは言われていたほど怠け者ではない」とウーゴ・ブオールでも認識されるようになり、多少はその評価も上げていったので、結果としては良かったと思われる。
結果として、ボールグという種族にとっては、プラマイゼロぐらいだろう。
ま、ゼロから再スタートしたらいい。
オーガ・ボールグ問題が片付いたことで、当然魔導士ギルドの非常招集も終了となった。
百年に一度の招集ではあったが、終わってみればなんかgdgdな招集だったな……招集外の俺が一番苦労したような気がするのは、気のせいじゃないと思うがどうか?
自業自得と言うなかれ。結果としては成果も出したんだし、請求できるものは色々魔導士ギルドに請求しとこう。
タダ働きなんて御免被るわ!
この紛争によって、暗礁に乗り上げたかと思われた獣人とオーガとの国交問題であったが、無事成立の運びとなった。
実質、紛争中に使節が派遣されて話し合いをしていたぐらいなので、オーガ帝国の内部事情も理解されていたこともあり、正式発表自体は予定よりも後ろ倒しにはなったが、正式な国交樹立は成った。
この数年後には、ウーゴ・ブオールを通してパン・セリンとも国交が成立。
オーガ帝国は、人類とも交流可能な「知的種族」として認識されるようになる。
人類国家との直接交流はまだ先の話だが……そのオーガとの交流で起こる様々な問題は、また別の話。
ともかく、これで俺ら<ギガントバスタ>が抱えた、オーガそして獣人国での問題は、全て解決!
やっと「いよ~ぉ(パン!)」の大団円、終幕である。
……おかしいな、俺ら観光で「遊びに来た」だけだよね?
観光以外ですっげぇ疲れたんだけど……?
「今更やな……」
「だよねぇ。『どうしてこうなった』はボクらが言いたいぐらいだし」
「まぁでも結果オーライにゃし」
「だな。オーガ側も、大きい問題が片付いたしな」
……久々にヴァーンドレッカへ戻り、俺たち<ギガントバスタ>一行は、弛緩した空気で、ミーチャリアル様のお屋敷、庭が見える一室でのんびりとした時間を過ごしていた。
……ヴァーンドレッカでは、国交樹立交渉の成果を以て帰国した使節団長ミーチャリアル様は、もはや次期国王最有力候補、みたいな持ち上げ方で、地元住民に熱烈歓迎されていた。
まあ歴史的怨讐を乗り越えて、国家戦略としての国交樹立を最前線で成し遂げた立役者とあっては、地元も国も放置してはおけない。さすがに次期国王はないが、王族との縁談とかはすでに内内で来ているらしい。
あと、中北部をとりまとめる「辺境伯」への陞爵も決まったらしい。
やり手やのう……国王はないかもしれんが、次代王妃はあるかもしれんな。
てなわけで、ミーチャリアル様は今、また王都へ向かっている。
鬼嫁ブレンダさんも、オルガネラ使節として同行だ。コーチの手を握って、行きたくなさそうな顔をしていたのが印象的だったが、コーチはその手をそって離して、「今は使命を果たしてこい」と説得したことで、渋々ながら出かけて行った。
それを見送るコーチの顔に、安堵の表情が見えていたが、あえて指摘はすまい。
で、ミーチャリアル様は「私が不在の間、屋敷でくつろぐといい」と、王子スマイルで提案してくれたので、ありがたく受けることにしました。宿とか取るとバカにならんしさ。
まあコーチだけは、留守を任された騎士団と毎日、嬉々として「稽古」に励んでいたが……頑張れ騎士団諸君。きっと君らは強くなる。精神的にも肉体的にも。
「さて……これからどうするかねえ」
「……元々観光で来たんやし、もうちょい見て回ってもええけど」
「とはいっても、地獄谷も、ボールグの町も、王都も行ったしねえ……ウーゴニアスリータに至っては、参加までしたし」
「……そういえばそうね。聞いてた主要な観光スポットは見て回ってるのよね」
「あとは国内では、南部で多少知られたとこぐらいにゃしね……」
獣人国での観光も一段落とくれば……
あとはまあ、地球との接点を求めた転生者たちの旅路を追って、また東へ向かうのがいいか……。
「同郷の奴らが地元帰るって言ってたからそれ追っかけようぜ!」とは言えないが、あいつらの噂探しながら戻るのもいいだろう。
後方で自治政府が崩壊して多少自由にはなったとはいえ、苦労はしてそうだしな……。
「じゃ、ミーチャリアル様の帰りを待って、マシュさんとこ経由して、ジシィ・マーダへ戻るコースかな」
「せやな」
「それはいいんだけどさ、何か忘れてやしませんかケンさん?」
「へ?」
なんだろ……シェラちんに指摘される何か……魔法の売り上げの分け前? は分配したよな……他に何か……冒険者ギルド関係への報告は、まあ追々でいいし……魔導士ギルドはライ・マーストへ行ってからだし?
あとは、マシュさんとかリリエラさんとか……ライ・マーストと言えばあの特殊部隊の絡みもあるけど、特に気にすることない……よな? 土産ぐらい買ってく?
するってぇと、何が……
「ミューラのこと」
…………ああ――ッ!?
「……忘れてた……」
「え、誰?」
「あー、あいつかぁ……」
「そういえば、狙われてたわね……」
「狙われてる!?」
「ほう、どういうことだ?」
にゃん娘とコーチは知らんかったな……
話しとかないと、巻き添え食うか……。
というわけにもいかないので、ここに至る一連の事情は話した。
あいつしつこいねん……。
……あいつが忘れるまで、俺こっちで暮らそうかな……
「またそんなこと言って……」
「そんなの忘れるわけないじゃん? ボクが言うのもなんだけど、あいつしつこいよー。むしろこっちの方がギルドの追っ手が派遣しにくいから、喜んで追いかけてくるかもね」
「おいやめろ冗談じゃねえ」
「だから、今はともかく、今回の噂が広まったら、居場所特定されて、気が抜けてるところを一刺し、ってのもありえるんだよねぇ」
「シャレにならねぇ……これだから暗殺者は!」
「まあこれは逃がした魔導士ギルドの失態だから、そこはつついておいた方がいいわね」
「魔導士ギルドだって失態をそのまま放置はできないから、全力で追ってはいるんだろうけど……捕まった、って報告がないのは、まだ追ってるってことだろうね」
なんて嫌すぐる推察……だがもしかしたら、パン・セリンへ戻ったら「あ、捕まえました♪」とかいう報告になってるかもしれんし?
「暗殺者として魔導士ギルドに捕まって、逃げおおせるような奴だよ?
そう簡単に捕まるとは思わない方がいいよ。
でもまあ……魔導士ギルドがどれくらい本気かにもよるけどね。冒険者ギルドや商業ギルドにも、賞金首通達は行ってるだろうけど、賞金首狩りでもない限り、他のギルドは積極的には動かないと思うよ」
本気出せよ! まだいけるだろ!
「狙ってるのはボクら二人だけだしね……護衛つけた方が安上りで、しかも確実に犯人を見つけられるとあれば、狙わせた方がいいかーって思ってるかもよ?
パン・セリンとかアークゥエスミィで護衛が新規につけられたら、その線を疑った方がいいね」
囮捜査とか冗談じゃねーぞ。
囮にされる俺らが一番危険じゃねぇか!
「まぁ一応、一撃で死なないようにはしてくれるとは思うけどね……」
一撃でダメならもう一撃、とか繰り返すような相手じゃん!
あいつ「死ぬまで何度でも襲撃したら必ず殺せる」的な考え方してるよな!?
そういう根性論的発想はアカンて……ブラックワーカー特有のダメ根性論だよ!
「……まあ最悪、ボクが差し違えるから。ケンだけはなんとか守るよ」
……シェラはそう言うのだが。
俺守って死なれたりしたら寝覚め悪すぎるやろがい!
そんなのパパ許しませんよ!
「またパパ出てきたな……」
「このパパ、都合のいいとこに出てきたりするけど、たまーに正論言うしね……」
たまーにって何や。
いつも正論しか言わんぞ俺は。
「正直を正論っていうならそうだけど」
「そのまま言えばいいってもんじゃないにゃし」
「せやな」
……この際、日中はずっとステルス状態で移動しようかな……
そしたら絶対バレねーし?
「ステルス状態でいること自体がバレたら、多分宿で脱いだところを狙われるよね。ボクら追けてくれば行き先は解るし」
……クッソメンドクセエ!
逆転の発想!
いっそ、こっちからあいつ狙ったろかな……
その方が精神衛生上楽かもしれん。
「ボクの経験も踏まえて言うけど、魔導士ギルドが追いかけてるのに見つからないとなると、あいつ全力で逃げてるからね。多分、魔法で全力捜索でもしないと、簡単には捕縛できないと思うよ」
……シェラちん、一応聞いておくけど、シェラちんが魔導士ギルドから逃げたら、どうにかなる?
「うーん、ギルドの本気度にもよるけど……まあ地方のギルドが片手間に探す程度じゃ、絶対捕まらない自信はあるよ。魔法対策もある程度は知ってるし」
あ、そう……厄介極まりないのは解った!
「だから、ギルドの本気度によって変わるってことなんだよね。
あちらさんも、今ケンがウーゴ・ブオールにいるってことは知ってるし、だったらパン・セリンに戻ってきてから本気出す、とか考えてるっぽいよね。
ついでにいうと、多分そのステルスアーマー。ミューラ対策のために寄越したともとれるんだよね……ほら、ケンの所持金も知ってるだろうし、予算も把握してるから、個人的に造りたい!と思わせるように誘導してたのかもねー」
……クッソ、こんな便利なもん都合よく寄越すと思ったら……!
「ま、寄越したなら都合よく使わせてもらおうじゃない?
ベンノさんも言ってたでしょ? 返すのは注文に来たときでいいって」
……後にオルガネラから帰って、ベンノ氏にステルスアーマーの返却について話したら、「そのまま使って、使用感覚をレポートしてくれないかな? 上手く扱ってるから」と打診されたので、そのまま持っている。
どうやら俺が一番こいつを上手く使えるらしい……実戦でもさんざん使い倒し、その有用性を確認したので、魔導士ギルドはこれからあちこちに売り込むんだそうだ。アーマー型でなく、もっと自由に使うために、どんな装備でもステルス(+飛行性能他)が発揮できる汎用装備に改造するとのこと。
なので、俺は引き続きこいつのモニター役を、と頼まれている。
よし、このアーマーは「アーマードガン○ム」と名付けよう。
俺が一番こいつを上手く扱えるんだ……!
いや俺、あんな天パ偏屈パイロットちゃうわ。新型でもないし。
……いや、ある意味新型以上かもしれんけど。
他人の考えてる事なんてわからんけどな。
この命名はさておいて……
つまり、これを使って暗殺対策もしてみせろと……そういうことかいなも?
「まあ……そういうことだろうね」
……いいように使いやがって……
ミューラ捕まえたら、絶対このアーマーガメてやるからな!
失態の賠償として!
「まあ、多分そのままくれると思うよ。実際、ケンは結構想定通りの使い方もするし」
……それはそれで面白くないな……
「もっとギルドから厄介な案件持ち込まれた方がいい? どっかの国王でも暗殺してこい、とか」
ノーセンキューです!
「……ま、当面は大丈夫だろうけど、とりあえずパン・セリンが近くなったら、用心しないとね」
ぐぬぬ……
はよあいつ捕まらんかな、マジで……。




