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百均勇者。 -百均スキルで異世界チートは難しい気がする-  作者: 木持河類
第一章 転生したらチート勇者だった……はずが。
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夜襲4 開眼


 どっちだ?


 どっちだ!


 ――俺は、棍棒に向けて〈絶対防衛線〉を放った。縦長、二十センチ×五ミリ幅で。

 迫る棍棒が、縦長の〈絶対領域〉に阻まれ――俺の二メートルほど前で、折れた。

 これで棍棒は使い物にならない――と思った瞬間。


 真上から、強烈な衝撃が襲ってきた。


 予想はしていたが、棍棒で殴られるよりはマシ、というレベルの強打。

 足裏と膝、そして受けた肩と頭が砕けそうになる衝撃――それをギリギリで耐えるも、膝が落ち、地面に叩きつけられ、呼吸が止まる。

 ――ゴブリンリーダーが、痣だらけの身体で、ゆっくり近づいてくる。

 押さえつける〈シールド〉が、呼吸を妨げる。

 奴の足が、俺の前で止まり、ゆっくりと持ち上げられ――踏み潰す気だ。

 踏まれたら、終わる――そうだ、この〈シールド〉を!

 〈絶対領域〉で、押さえつけている〈シールド〉を持ち上げるように発動――上から押さえつける力がふっと緩み、そして〈シールド〉が弾け飛ぶ。

 同時に、俺は自由になった身体を横へ思いっきり転がす。

 ――ドズンッ!と、一瞬前の俺のいた場所へ、ゴブリンリーダーの踵がめりこんでいる。


 あっぶねぇー! 頭潰される!


 こいつ、まだ全然くたばりゃしねえ! むしろこっちは四人もいて倒しきれてねえのか!

 くっそ、何が「たかがゴブリン」だ――俺こそが「たかが新人冒険者」じゃねーか!

 「たかがゴブリン」をタイマンでも倒せねえで、成り上がりなんか――勇者ができるか!

 ――だが、続く攻撃がない。その間に、俺は起き上がって相手を観察する僅かな時間を得られた。


 ……なんだ、こいつ――よくよく見れば、こいつも満身創痍だ。

 ビュスナの魔法を何発か食らい、俺の〈絶対領域〉打撃を何度も食らい――息も荒く、腕も一本利かなくなり、出血と打撃ダメージの蓄積で足元もおぼつかない。表情もよくは判らないが、憎しみに満ちた雰囲気からして、体力も魔力も少なからず削られているんだろう。

 ――ここで、俺が止めを刺さなきゃ、こっちが殺られる!

 考えろ、考えろ――奴を仕留める「最後の一撃」を。

 俺にできることは……魔法――一般魔法。剣――落した。

 奥の手――〈絶対領域〉での打撃じゃ倒しきれない。頑丈にすぎる。

 何か、何か、何か――最後の一手が欲しい。


 ――バオオオオォォォォォォォォォォオオオ――――――――ッッッ!!!!


 やべえ、奴が「気合い入れ」やがった――奴も同じこと考えてやがる!

 一歩、また一歩、奴の巨体が近づいてくる――使える左拳を振り上げ、正面から俺をブン殴って殺るつもりだ。

 何か――何かできること!

 奴の拳の、勢いに合わせて――カウンターになる一発!

 俺は力の入らない腿を叩き、なんとか立ち上がり――右拳を腰に矯め、左手で手招きする。


「――来いよ!」


 とはいえ、俺も息は上がっているし、こいつの攻撃で身体のあちこちが痛い。頭も少しフラつく。

 それでも、虚勢を張ってでも、今ここでこいつの意識全てを俺に向けさせる。

 ――その全力の挑発に、ゴブリンリーダーの歪んだ口元に、ほんの少し「笑み」が浮かんだように見えた。

 奴の振り上げた左拳の前に、〈シールド〉が展開。

 俺はその拳に、真っ向からカウンターを合わせる。

 単純な力だけじゃ、確実に俺は負ける――だが、俺の〈絶対領域〉は、魔法じゃない。

 奴が〈シールド〉を展開しても、それごと奴の拳を貫いて――貫いて……?

 もしかして、奴はそれを承知で、俺に殴りかかろうとしているのか?

 この「小さい領域」に打たれようとも、それを無視して、腕が壊れても、圧倒的な「力」で押すつもりじゃ――


 ぞわり――


 背筋にいやな悪寒が走る。

 俺が「勝った」と思うのは――すでにあいつの「罠に嵌った」から?

 そう考えた瞬間。

 俺は「左横」から、「全身を殴られた」。

 ――横!?

 ――やられた――〈シールド〉――左からぶつけられた――ダメージ目的じゃない、俺の注意を逸らすため――!!

 そのバランスを崩して、よろめいた一瞬――すでにゴブリンリーダーの巨大な拳が、俺に向けて振り下ろされていた。

 時間が、急激に遅く感じられる。世界がモノクロになり――ああ、これは事故とかで起きるっていう、認識の加速現象。世界がモノクロになるのは、カラー情報をカットして、情報量を減らして、物体の認識を優先するから、とか――


 ……ってことは、これ、俺、超ヤバイ?


 「死ぬ前にこういうの見た」って、ギリで生き残った奴が言ってるアレだ。

 ……ああ、これが「油断する」ってこと、「慢心」ってやつだ。

 俺のよろめいた先へ、あのデカい拳が全力で向かってきている。

 あれが命中したら――もうダメだな……。

 そんな絶望感が、全身を支配しようとした、その瞬間。

 ゴブリンリーダーの顔に、「閃光」が生じた。


「グィヤッッ!!」


 それが影響したのか、ゴブリンリーダーの拳が「傾いた」――


 俺も本能的に、飛ばされた右方向へ、全力で一歩飛ぶ――


 ゴッ……俺の左肩をゴブリンリーダーの拳が掠め、俺の身体が勢いで回転する。

 だが、地面に転がった衝撃で、世界のスピードが元に戻る。

 ――ビュスナが、片膝をついて、ゴブリンリーダーに「やってやったぜ!」という笑みを向けている。

 あいつ――と、感謝の念を向ける間もなく、ゴブリンリーダーの視線がビュスナへ向けられる。

 ゴブリンリーダーが、今度はビュスナへ左拳を向ける――大きく二歩、その拳が届かない位置から、〈シールド〉を叩きつける。

 それに抗うこともできす、ビュスナはその打撃をまともに受け――闇に転がった。


「ビュスナぁ!!」


 その声に、ゴブリンリーダーが顔を半分だけ俺に向けて――こう言うかのように、牙を剥き出した。


「心配すんなよ――コイツを始末したら、最後にてめえをブチ殺してやるからよ」


 ――さ、せるか、よォ――!!

 〈絶対領域〉を、ゴブリンリーダーの向こう、限界まで遠距離に発生させ、一気に引き寄せる。

 踏み出そうとしたゴブリンの腹に、〈絶対領域〉の一撃がめり込む。

 ゴブリンリーダーの身体が折れ、後ろに一歩強制的に下げられる。


「……鬱陶しいヤロウだな、てめえは。そんなに死にてェのか!」


 振り向いたゴブリンリーダーの顔は、僅かな光の中、そう怒鳴っているかのような、凶悪な憤怒に満ち満ちていた。

 だが、ビュスナより俺に注意が向いた。

 最悪、殺されるのは俺――いいや、ここで奴をぶっ殺す!

 だがどうする?

 〈絶対領域〉も致命打にはなってない――せめて槍でもあれば、奴に対抗も……


 ――そこで、俺は「やっと気がついた」。


 〈絶対領域〉を、「打撃」にだけなぜ使ってきたのか?


 そう、最初に「こちら」に同化したあの瞬間、ヨロイイノシシの一撃を防いで、そこから着想を得た使い方に、どこか固執していた。あの出来事のインパクトが大きすぎたのだ。

 この能力をくれた神が言っていただろ――「使い方次第で、どれだけでも用途は広がる」と。


 つまり――こういうことだ。


 俺は、ゴブリンリーダーに、右手を向ける――だが、拳でも、掌でもなく、「人差し指」だけを。


 「おちょくられた」とでも思ったのだろうか、ゴブリンリーダーの表情が凶悪に歪んでいく。

 全身を震わせる、怒りの咆哮と共に、ゴブリンリーダーの拳が俺に向けて振り上げられる。

 ――だが。


「バン」


 そう――「如何様にも形を変えられる」のであれば――

 「小さな弾丸」のような形状でもいい。尖った、貫通力のある形状――円錐形の楔。

 それを、高速で撃ち出せば――

 ボッ、とゴブリンリーダーの腹に、穴が一つ開く。

 それでゴブリンリーダーの動きが止まる――「なんだ、これは?」という表情が見てとれる。


 いや、違う――こうじゃない。


 ライフリング――銃身内に弾丸を回転させる溝があると、弾丸に回転力が与えられて、ジャイロ効果により直進性と貫通力が増す。旧式の火縄銃なんかと現代のライフルの大きな違いはそこだ。

 〈絶対領域〉の弾丸は俺の意志どおりに飛ばせるが、自信をもって命中させられるのはせいぜい、ざっくり見える範囲、五十メートル程度。

 スコープもないこの世界じゃ、遠距離精密狙撃なんかできるわけじゃないが、俺の意志だけで直進するから、今必要なのは貫通力。


 ――いや、現代銃の完コピの必要すらない。

 俺の〈絶対領域〉なら、どれだけ回転させても、どんな距離でも、射程や直進性に全く影響はない。

 「見ている場所に必ず命中する」。

 ――つまり。


「こう」


 二発目、「弾丸」を「高速回転させる」イメージで、右胸へ一発。

 そして「貫通した」感覚が解った――うん、回転だな。


 もっと、もっと回転力を上げて――三発目。

 ゴブリンリーダーの右膝が、血飛沫を噴いた。膝関節が砕かれ、その場に片膝をつく。


 グオオォォォォォォ――――ッ、とゴブリンリーダーが吼える。だが。砕かれた膝関節が、巨体をその場に押し止める。

 いや、もっと、こう――ドリルみたいな、さらにエッジが際立った弾丸なら、貫通ダメージも高まるだろう。


 四発目。

 「捩れたような命中痕」が、リーダーの腹に生じる。赤黒い液体が、傷口から噴き出す。

 だが、「反対側が吹き飛ぶ」ほどではない。


 そういえば――よくある、水の詰まった風船に銃弾を当てると、衝撃波で反対側が破裂する映像があるが、実際の人間の身体には肉が詰まっているため、水よりも大きな構造抵抗があって、普通の銃弾程度ではああいう破裂はしない、と軍事関係の薀蓄本で読んだことがある。

 あれを人間の身体で実現するには――もっと「強力な弾丸」でなくてはならない。

 例えば、もっと高速でエネルギーの大きい「対戦車ライフルの徹甲弾」みたいな弾丸で人間を撃てば、実験のように破裂して吹き飛ぶらしい。

 そのためには、十分な速度――これは得られる。「一瞬で突っ切る」イメージで――あとは。


「もっと、回転力を――」


 ドリルが高速回転しながら、全てを突き破るイメージで、五発目――鳩尾に一発。


 「捩れた穴」が生じ、ゴブリンリーダーの背中に何かが飛び散るのが、薄い明りの中に見えた。

 速度は一瞬でどれだけでも出る――肉体を破壊するに十分な衝撃波を発生させる、音速以上にも。

 イメージが正確なら、「光速」も超えるかもしれない。


 ゴブリンリーダーの表情からも、怒りが消え――驚愕、そして苦痛の色が見える。

 がふっ、と咳き込んだその口から、茶褐色の液体が吐き出される。

 絞り出そうとした咆哮は、今度は赤茶けた飛沫をさらに吐き出すだけ。

 左手が、俺を掴もうと、虚空を迫ってくる――が、俺との距離を詰めるには至らない。

 足元にぼたぼたと赤い汁を垂らしながら、それでもゴブリンリーダーは、片足を引きずりつつも、一歩、また一歩と迫ってくる。

 放っておいても、もうこいつの寿命は尽きかけている――が。


「……お前には礼を言わなくちゃあな」


 俺は最後にゴブリンリーダーの頭に指先を向けて、そこまでに高めた威力を最大に上げた一発を構築――回転のスピードが上がり、エッジが周囲の空気を引き裂き、水蒸気の渦を巻き上げながら微かに断続的な「衝撃音」を放つ。


「色々気付かせてくれて、ありがとよ」


 空気の破裂音と共に、白い衝撃波の輪が散り、ゴブリンリーダーの眉間に「捩れ弾痕」が生じた直後。


 ――「首のない肉の塊」が、そこに残った。


 いつしか、空は白み始めていた。


『※〈絶対領域〉応用技:バッシュアタックを修得しました』

『※〈絶対領域〉応用技:スクリューバレットを修得しました』


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