夜襲3 一瞬の選択
――という俺の目論見は、すぐに破綻した。
「こい、つッ――」
ゴブリンリーダーの拳の前に発動した〈シールド〉が、〈雷神拳〉を、そしてビュスナの〈光弾〉も全て、ノーダメージで止めている。雷撃の放電が〈シールド〉の上を走り、威力が拮抗する。
〈シールドバッシュ〉――という魔法ではなく、魔法の〈シールド〉を使って打撃効果を出すための「擬似魔法拳」。
この技は、ゴブリンリーダーのような、魔法拳は知らないが魔法は使えるような亜人や怪物が使う技、と聞いている。本能的に、魔法拳に対抗するための技として、時折人型の敵対亜人が使うやつらしい。
〈シールドバッシュ〉は、相手の攻撃を防ぐと同時に相手に対して「魔法障壁での攻撃」を仕掛けることになるため、魔法拳士も時折使う技ではあるが――ビュスナの〈シールド〉を破ったほどのナオの〈雷神拳〉を防ぐとなると、基本的な魔力自体の大きさがなくては出来ない芸当だ。
てことは、こいつはリーダーで確定だ。ファイターは肉弾特化で、魔法を使わないからだ。
――その均衡が、破れた。
ギャリインッ!と金属の弾かれるような音と共に、ナオが斜め上に吹き飛ばされた。
「このッ……!」
ナオが空中で身体を丸め、着地に備えようとした瞬間。
「何か」が、ナオを「上から」叩き落し――一気に、三メートルほどの高さから地面に叩きつけられる。
「ナオ!!」
身体を丸めていたナオは地上でバウンドし、その後再び地面に落ちて倒れる。
上を見ると――〈シールド〉がある!?
「ゴヒュゥ――」
ゴブリンリーダーが一息吐いてゆるりと立ち上がり、右手を上げて――ヴンッ、と振り下ろした。
上空の〈シールド〉が、ビュスナの上に叩きつけられる。そんな使い方ができるのか?
「く、あッ――」
ビュスナは〈シールド〉に対して〈シールド〉で防御を試みるが、いかんせん魔力が不足している。
ヤバイ――と、俺は地面から砂を握り、ゴブリンリーダーの顔へ投げつける。
「ブフォウッ!?」
不意打ちだったようで、ゴブリンリーダーは目を押さえる。
同時に〈シールド〉が消えて、ビュスナが崩れて膝をつく。
ここで殺る!――俺はもう一度、ゴブリンリーダーに向かって走る。
今度は目を擦っている腕、肘を狙って――斬!
「ウゴァァァ――――ッッ!」
今度は狙い違わず、右肘の骨を砕く手応え。
右腕が目から離れ、だらりと下がる。よし! これで棍棒も持てないはず!
――だがここからどうするか?
俺の戦闘力は、この四人の中では最低クラス。攻撃魔法も、ナオやシェラみたいな機動力、パワー、技もない。
こういったパワーモンスター相手には一番分が悪い――だが、それでも、ここで逃げる訳にもいかない。
そう、ここでこそ俺の「奥の手」を使うとき。
今さっき、こいつの〈シールド〉の使い方で、俺の〈絶対領域〉の使い方がもう一つ解った。
〈絶対領域〉を発生させてから、「高速で移動させてぶつける」――目の前のこいつがやったあれ。
〈シールド〉と違って、「見えない打撃技」としてピンポイントで攻撃できる!
つまり――
「こうやればいいってことか!」
拳の前に、〈絶対領域〉を発生させ――「せいりゃッ!」っと、数メートル先のゴブリンリーダーへ向けて、届かない正拳の空打ち。
だが、〈絶対領域〉はグン!と伸びるようなイメージで、その形のままゴブリンリーダーの胸部へ命中。
こう、「鉄棒で突くイメージ」だ。
――ゴブリンリーダーの身体が、押されたように後ろに一歩下がる。
その鳩尾に、小さなアザ。領域の面積が小さい分、打撃が狭いエリアに集中して、貫通力のある打撃になる。
そして、ゴブリンリーダーが前屈みになり、動きを止める。効いている証拠だ。
いける!――俺は、続いて〈絶対領域〉を連打する。顔、腹、膝、足先、目、咽喉――いける! ゴブリンリーダーは手も足も出せず、打たれるがままによろめいているだけ!
――だが、俺は調子に乗っていた。
もう一度腹に、と発射した〈絶対領域〉が――
ガギイィン――〈シールド〉に阻まれた!?
だがそれは一瞬だけで、〈絶対領域〉は〈シールド〉を貫き、破壊した。
よし、魔法にも通じる! こっちの方が威力は上だ!
俺は再度、顔面へ向けて〈絶対領域〉を打ち込もうとした、そのとき。
ゴブリンリーダーが、左手で棍棒を水平に振り回してきた――それと同時に、〈シールド〉が上から叩きつけられようとしている。
同時攻撃、だと――俺は一瞬、どっちを優先すべきか迷った。
棍棒を防いでも、〈シールド〉が叩きつけられる。
〈シールド〉を防げば、棍棒で叩きのめされる。
どっちだ? どっちを止めるのが正解だ?
正解は――後ろに跳んで、棍棒と〈シールド〉を避けつつ、本体へ攻撃。
もしくは、後ろに避けつつ棍棒を避け、〈シールド〉を〈絶対領域〉で破壊。その後反撃。
……なのだが、そこまでの判断を下すまでに、避けられないところまで二つが迫っている。
――どっちだ!?
ここで間違えば、「死」――
ぞわり、と悪寒が走る。
また――死ぬのか?
生き残るには、どっちを潰す?
どっちだ?
どっちだ!




