夜襲
「ケン君、見張りを集めて全員起こしてください。ゴブリンの襲撃です。急いで」
「は、はい!」
ラスさんの指示に従い、俺はすぐ近くの篝火へ走り、そこに集まっていた二組四人に「ゴブリンの襲来」を伝える――と。
ラスさんのいた方向で、ドンドンドン、と連続した「爆音」が響いた。
「小僧、お前は寝てる連中を起こせ! デッシュ、おまえは他の見張りを集めろ! バラン、ナルージャは俺と来い!」
格上らしい冒険者が指示し、デッシュと呼ばれた男が起きている見張りのところへ走る。あとの三人は武器を持ってラスさんの方へ。俺は鼠車の固まっている方向へ走る。
「敵襲――――――ッッ! 敵襲――――――ッッッ! ゴブリンの夜襲だ――――――ッッッ!」
俺は大声で怒鳴りながら、自分がいた鼠車へと走る。
すでに声に反応して、ローディさんやマジェスティさんら指揮官が飛び出してきている。これなら俺は鼠車で寝ている連中を起こしにいっても大丈夫だろう。
……と思ったが、この暗い場所で、もといた鼠車なんてわかんねー!
しかもあちこちから人起き出してきて、余計に位置がわからんー!
「ケーン!」
――呼ばれた声に右を向くと、シェラが鼠車の荷台から、明かり――〈灯火〉を振って大きく手招きしているのが見えた。
「どうしたの? 敵襲?」
「ゴブリンの夜襲だ。今見張りが対応に当たってる。他の連中も出てるから俺たちも行くぞ」
「待って待って。今ボクらが動いても、逆に現場混乱するよ? 邪魔になるだけじゃない?」
う……言われてみりゃそうかもしれん。
「ボクがちょっと行って様子見てくる。こういうのはスカウトの分野だからね。ケンは装備整えて、二人起こして」
と、シェラは荷台からタンッ、と軽やかに飛び出し――装備はしっかり完璧――、あっという間に騒動の中心地へと消えていった。
「……すっげえなアイツ」
シェラの判断力と機動性に感心しつつ、俺は鼠車に乗り込み――くそ、明かりまで持っていかれて暗いわ!
とりあえずこいつら起こすか――と、暗がりに手を伸ばすと。
ぽにょん
……あれ? なんかありえない弾力……なんだこれ……ん? んんんんんんー!?
「ん……」
んッッヒ――――――ッッッッ! あっか――――――ん!!!!
こ、こここここここここれはななななななななナオさんのアレやないですかっぱーい!!
あーいやいやいや不可抗力不可抗力!
とりあえず深呼吸だ、そして素数を数えろ。2・3・5・7・11……
ちゃうわ!
こいつら起こすんが先や!
「おーい、二人とも起きろよー、非常事態だぞー……」
なんか小声になる……しゃーないんや、女子二人を暗闇で起こさなあかんねんで!
しょうがないので、もう一度深呼吸。
「おーい、起きろ、襲撃だぞー」
俺はもう一度、今度はナオの肩を揺さぶってみる。
――すると、ナオが再び「ううん……」とか声を出した。なんかエロス……と思う間もなく、肩にかけた手を、いきなり引っ張られた。
むぎゅっ――
……むぁっは――――――――ッッッッ!!!!
ちょ、ちょちょおまっ、離せこりゃ――――ッ!!
そ、そそそそそげな風に抱き抱えられたら俺の顔むっふーが苦しくてあれやらくぁwせdrftgyふじこちゃーん!!
……いやまておちつけおちけつおれ!
これはあれだ、そう、物体、ただの脂肪の塊!
「コラーゲン入りバイオクッション」でござる!
そ、そそそうだそうだ、俺起こしに来たんだから起こさねばいかんのでござる!
「……ぉぃろー……」
声が出せないでござる! バイオクッション恐るべし! 男をダメにするクッション!
しかもこの抱きつき力の強力なこと! 逃れられぬ! 逃れたくないのではなく、逃れられぬのです! そう、逃れられぬのです! 決してこのままでしばらくホーミーターイプリーズなわけではないのです!
……むっはー。
いやいかんいかん! この非常時に何を暢気な!
こうなったら致し方ない……俺は動かせる肘から先を総動員し、指先でナオのうなじをさわさわっと……
「……っふッ!」
おごごごご、締まる締まる死ぬる死ぬる!
だ、だが起きるまでは止めるわけには……!
「……なにしてんのあんたら」
……あれ?
なんか、「ものすごく恐ろしい魔物」みたいなオーラを感じるんですけど……ゴブリンでも逃げ出しそうな感じの……
……あれ、視界の端が明るい……誰か「明かり」点けたかな?
「……あれ?」
……締める力がふっと緩んで……やっと、解放された……。
と思ったらなんか!
ゴブリンより怖い「鬼」みたいなのがいる――――!!
「……もう一回聞くわよ。あんた、そこでナニしてんの」
……いやいやいや、違いますねんツン子さん!
親父様も言うておられたでげしょ! 考えないで突っ走る癖があると!
だから俺が手綱引き締めてって言われたその俺が原因やないかーい!
「いやマテマテ、これは、あれだ不可抗力、不可抗力!」
「どこがどう不可抗力なのさ」
ビュスナさん、あなた表情が豊かだって普段よく言われてますよね? どこへ置き忘れてきたんですか? いつもみたいに、怒るなら怒るなりの表情してくださいよ! 無表情&抑揚のない声で問い質すの止めてもらえませんか!!
目が! 目がコワイー!!
「ちょっとー、そろそろヤバいよ。いつまでも遊んでないでさー。お仕事お仕事」
……いつの間にか戻ってきたシェラが、鼠車の後ろから修羅場の雰囲気を見事にブチ壊してくれた……ありがとうシェラちゃん! あとで好きなだけハグしちゃるけんね!
「で、話は聞いた? ゴブリンの夜襲なんだけど」
「ゴブリンが? 夜襲?」
ビュスナが表情を取り戻して、シェラに問い返す――とりあえずそっちの方が興味を引くらしい。よかったよかった。ゴブリン君ありがとう! 押し付けた甲斐があったよ! でも君らは倒すよ!
「そ。普通なら、あっちから夜襲なんてありえない話だからさ、こっちに攻撃仕掛けるだけの知恵がついたリーダーが確実にいる。それも複数。この数だと、下手したらロードいるかもよ」
「ちっ……まあいいわ。実戦上等よ」
ビュスナは手早く魔導服を着込み、鼠車を降りる。
ナオもその段になって目が覚めたようで、手早くナックルガードと鎧を装備。俺も剣だけは持ち出す。
「もう乱戦になってる。奇襲で相当数が一気に周囲から押し寄せてきたみたい。まあ、並のゴブリンならタイマンでも大丈夫だろうけど、リーダーやファイターには三人以上であたれ、ってさ。ローディさんから」
「はン、リーダーごときあたし一人で十分だってーの!」
真面目にやらないとゴブリンがかわいそう(´・ω・`)




