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百均勇者。 -百均スキルで異世界チートは難しい気がする-  作者: 木持河類
第一章 転生したらチート勇者だった……はずが。
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前夜


 その夜のミーティング。

 ローディさんが、これからの偵察任務について、新人パーティを前に最終確認を行う。


「明朝、先行偵察隊を出す。奴らは基本、リーダー級がいなければただの集団に過ぎないが、群れの規模が大きくなれば見張りを出している可能性がある。

 その見張りの数や位置から、本体の群れの位置を探るための偵察だ」


 ――その偵察任務こそ、俺たち新人冒険者の初任務だ。


「偵察隊は二部隊。《竜の鱗(ドラグ・スケイラ)》のバードリンとアゼルがそれぞれの指揮を執る」


 〈竜の鱗〉のスカウト、バードリンさんとアゼルさんがローディさんの隣に控えている。この二人には、同じく〈竜の鱗〉から魔法戦士のシズナさん、ゼファールさんがそれぞれ副長としてつくことになっている。偵察内容や行動基準についてはすでに打ち合わせは終えているが、ここでは新人向けに改めて最終確認を行っている。

 〈竜の鱗〉はパーティ総合力では銀ランクに相当する。バードリン、アゼル両氏は銀ランク、副長のシズナ・ゼファール両氏は銅ランク。俺らから見たら「凄腕のベテラン」クラスだ。個人でもチーム戦でも経験値が高いメンバーばかりなので、俺らは命令に従って行動するのが一番。そうやって先輩のやり方を学ぶ場だ。

 一部隊には二パーティで行動する。偵察行動にしては多いが、新人のための訓練でもあるので、これをまた二つに分け、東西側二つずつで偵察行動に入る。四部隊でないのは、他のパーティとの連携を行う訓練も兼ねているからである。

 俺たち〈ギガントバスタ〉も、西側グループで偵察に入る。ペアになるパーティは〈刃の主(ブレイドマスター)〉の四人。リーダーで剣士のサガ、魔法戦士のリュービィ、スカウトのサラリナ、魔導士のプリループ。俺ら〈ギガントバスタ〉と同じ構成だが、イケメンリーダー・サガとリーダーラブの女子メンバー三人、だと……爆発しろ。今すぐ散れ。


 ……そういやウチも同じ構成だわ。サガすまん、俺も爆発してくるわ!


 ……そういやウチは俺ラブメンバーじゃないわ。やっぱりお前だけ爆発しろ!


 哀と憎しみの爆裂呪法はさておき。


 俺たちにはアゼルさん、〈刃の主〉にはゼファールさんがそれぞれ指揮官として同行する。

 そして、最後に部隊ごとの最終打ち合わせ。


「やあ、明日はよろしく」


 打ち合わせが終わり、〈刃の主〉のサガが、俺に手を差し出す。パツキン短髪の爽やかなイケメン剣士か……神聖モテモテ王国の王子だろうか。

 いやいや構成だけみたらウチも大概だけど……モテモテ王国の一員ですらないからデレとかないけどな! むしろ厄介なアイドルグループのPかマネ的なポジションだよ俺! それでメンバーが「アテクシ様」「脳筋」「腹黒」だと思いねェ。ゲームだったら最後は成功してドームツアーとかやって、誰か一人嫁にするパティーンだが……なんかそんなサクセスストーリーとは無縁な気がする。すごく。俺多分ダメPだし。

 ――そこで俺は握手を返そうとして、ふと考える。

 サガの奴、まさか俺をリーダーだと思っている……とか?


「ああ、よろしく……一応言っておくけど」


 と、俺は小声でサガに囁く。


「俺、リーダーじゃないからな」

「……え?」


 サガが頭の上に「?」を描いた。


「リーダーはこっち」


 と、ビュスナを手招き。


「というわけで、我がパーティのリーダー様だ。ご挨拶を」

「何よリーダー様って」


 ビュスナは少々不満そうな面持ちではあるが、「リーダー」という響きはまんざらでもないらしく、腕を組んで偉そうに前に出る。


「私がこの《ギガントバスタ》のリーダー、ビュスナ・ヴァロース・レイヴァーよ」


 サガのようなイケメンを前に、別にデレる様子もなく、いつものような尊大な態度を変えない。こいつのこういうブレないところは賞賛に値する。

 ……へー、ビュスナのフルネーム初めて聞いたわ。レイヴァーってどっから出てきた。そういや親父様のフルネームもしっかり聞いたことねーわ。


「あ、ああ――《刃の主》リーダー、サガ・フロインテだ。明日はよろしく」


 形ばかりの握手と、二言三言挨拶を交わす。それ以上は何もない……ほんとビュスナの奴、イケメンとか興味ねーのな。まあイケメンとみるとすぐデレるようなのも困るが。

 ナオやシェラも反応を見るに、イケメンだからといってデレている様子もない……うちの子らは女子力低いなー。「女子力たったの5か……ゴミめ」って言われるよ。いや今は女子力より戦闘力や魔力が欲しいからいいけど。


「大丈夫かしらね、あんなチャラ男で」


 ……ビュスナさん、リーダーなんだから戻ってくる早々、向こうさんの悪口はよそうね? その場で言わないだけの分別はあるみたいだけど、コミュ力下がるよ? 「コミュ力たったの5か……ゴミめ」ってもうええわ。

 サガだったらコミュ力5000オーバーぐらいあるよな。あと男子力も絶対高い。王子クラスってか王子キャラだわー。


「いや、一応俺らの同期なんだし……大丈夫でなかったらここに来てないって」

「どうかしらね。実力ギリギリじゃ足引っ張るだけだと思うけど」

「それ、相手の前で言うなよ……」

「さあね。不相応な働きだったらわからないわね」


 言い捨てて、ビュスナは鼠車へと戻っていく。

 親父様が心配するのも解るよ……早くゴブリンに押し付けて暴れさせないと、こっちが精神的被害被るわ。

 よーし、あいつを押し付けるのはゴブリン君、君に決めた!




 深夜。

 焚き火の周囲に見張りを残して、偵察メンバーは明日に備えて就寝。

 それぞれがテントで寝ていたり、鼠車の中で寝たりと思い思いの場所で休息している。大規模な部隊だからこそ、多少はリラックスした状態での休息が可能なのであり、これが冒険者の一般的な野営であれば、すぐに非常時に対応できるよう革マントにくるまって地面に横になるだけである。もちろん、見張り担当は起きているし、すぐに交代する交代要員は外の焚き火周辺で横になっている。

 俺たちは、パーティごと鼠車内に寝場所を割り当てられ、そこで横になっている。

 通常なら、ある程度体を伸ばして寝られるというだけで十分な休息になるのだが、明日は偵察任務、実戦本番となると、緊張で寝るどころじゃない。

 それに、俺の隣にはシェラ、ナオ、ビュスナも寝息を立てているわけで……


「寝れるか!」


 と脳内でツッコみ、こっそり起きて鼠車を静かに下りる。仕事とはいえ、女子部屋に一人、労働ドレイみたいな立場で寝かされて寝られるわけねーべさ! 何このゴーモン様! リア充? 誰のことよ!

 まあマジ暗いから何も見えたりしねーけどさ! 下手なことしたら俺が一番の被害者になるだけだけどさ!


 ……この世界には、月がない。なので夜は常に暗い。真の闇。中二心が疼き出すぐらいに闇。

 なので、あちこちに焚き火を置き、その周囲に二人組の見張りがたむろしている。今は……二人組が四チーム。

 月明かりがないので、夜はマジ真っ暗なのが俺としてはちとコワい。「明かりは文明の証拠」と言われるが、ここでは本当に誰かが明かりを灯けない限り、まず文明のようなものは存在しないということ。

 それに――夜陰に乗じて、ゴブリンの襲撃がないとも限らない。

 夜行性の怪物なら、明かりがなくても見える赤外線視力みたいなものがあり、襲撃には十分注意が必要だ。

 ここはまだ人の住む地域なので、夜行性の怪物も迂闊には襲ってこないだろうが――「ゴブリン軍」が「作戦を整えて」襲撃してくればどうか?

 もちろん、それに対する備えはある。〈警報(アラート)〉という、魔力線で警戒ワイヤーのようなものを張り、それを突破すると警報を鳴らす魔法。実体のワイヤーではないため、触れても相手には解らない。魔力の赤外線センサーみたいなものと思えばいい。魔導士のような、魔力を感知できる者が見ればそれと判るが、野生の獣や魔力を持たない怪物では感知できない。

 このような壁に覆われていない村でも、魔導士がいれば夕方〈警報〉を村の周囲に張り巡らせたりするのだが、冒険者の旅でも同じように警戒距離を十分とって設置するのが常である。マシナでも、ヴァロースの親父様他、三人ぐらいで町の周囲にかけていたのは覚えている。

 ――空を見上げても、黒い曇り空で月や星は見えない。この世界では空はほぼ常に薄曇りで、月星が見えることはない。昼間は十分に明るいのだが、雲のせいで太陽の位置もよくわからない。なもんで月明りも星明りもないからマジで真っ暗。

 そのために、この世界では星を見て方角を知る、といったことができないだけでなく、「天文学」という学問すら存在していない。ナニココ、イギリスなの?って思うぐらい、空がどんよりしている。

 もちろん、薄曇の空の向こうに星というものがある、ということは知られているのだが、それはあくまで神話や御伽噺の世界。現実に見て、科学的にそれと理解しているわけではない。年に何回かはその雲が切れて「光の光臨」とかいう現象が見られるというが……それ以外で雲が切れることはないという。ヴァロース家で見た絵本に「空にオレンジのニコチャン太陽」というのがあったので、こっちにも知識としての太陽が存在することを示してはいるのだが。


「――眠れませんか」


 そんなことを考えていた俺に声をかけてきたのは、ぼんやりと光を放つラスさん――なんで光ってるんだろ。着てるローブがマジックアイテムだからか? それとも神々しい存在だから?


「ええ、まあ――寝ておかないといけないというのは解るんですが」


 つい拝みたくなる衝動と、そんな疑問を脇に置き、俺はそう答える。


「横になって目を閉じておくだけでも違いますよ。それに単独任務よりは楽です、あまり気負う必要はありません」


 と、ラスさんは微笑む。

 いや、あの場所はちょっと寝苦しいというか……精神的に。


「……ギルドマスターって、こういうときにも起きているものなんですか」


 俺はこんな時間に起きているのを不思議に思って、ラスさんに訊ねてみると。


「私は今回、後方任務ですからね。現場のメンバーほど重労働ではありませんから、野営の見張りも買って出ています」

「大変ですね、ギルドマスターも……」

「そうですよ、ギルドマスターというのは、現場からギルド経営まで、ギルドに関わる全部をこなさなくてはいけませんから。むしろ怪物相手に魔法をぶっ放していればいい、一介の冒険者の方が気楽でしたねぇ」


 ふふふ、とラスさんは妖艶に笑う。

 そんな雑なイメージには思えないんだが……実は意外と武闘派?


「……少し、昔の話をしましょうか」


 篝火の間を歩きながら、ラスさんがぽつりぽつりと話を始める。

 ――ラスさんが冒険者を始めたのは、もう五十年以上も前の話だそうである。え、今何歳?……女性に歳を聞くな、とは言われるが、エルフならいいんじゃなかろうか。人間の十倍以上寿命あるらしいし。

 冒険者を始めてしばらくして、ギルドを新たに立ち上げようと考えた頃にパーティを組んだのが、ビュスナの親父様、ヴァロースさんだ。ヴァロースさんは当時十五歳、俺たちと同じく村から出てきたばかりのペーペー魔導士だった。

 ちなみに、ローディさんは二人が組んで三年後、ヴァロースさんの嫁・ジェシカさんはその二年後にパーティに入ったそうだ。

 その当時は、冒険者ギルドは今のような整った組織ではなく、単なる町ごとの「よろず仕事斡旋所」であり、商業ギルドが護衛を雇ったり動植物鉱物素材の採集を依頼する場所、下部組織としてスタートしたのが始まりだといわれている。まあ荒事が多いので、集まる連中も、地球でいえばヤンキーや半グレ、でなきゃ暴力団フロント金融会社の集金係みたいな連中ばっかりでガラが悪く、斡旋所自体の評判も、そこに集まる冒険者の評判もよろしくなかった。

 元々はもっと西の国の「護衛官ギルド」を参考にしたらしいが、このあたりに広がってきた冒険者ギルドは随分「雑」になっていたようで、横のつながりも近隣の情報交換ぐらいしかなく、幹部も「金儲けにはちょうどいい組織」ぐらいにしか思ってなかったそうだ。

 そこでラスさんとヴァロースさんは、魔導士ギルドの協力も得て「冒険者ギルド」を商業ギルドから独立させ、今の組織の原型を作り上げた。ローディさんはその当時、ヤンキーの親分みたいな存在で、昔から腕っ節だけは強かったらしい。金のことしか頭になかった幹部を次々「力ずく」で放り出し(まあ冒険者なんて腕っ節がなくては務まらない、というのは当時からそう思われていたので)、冒険者ギルドを事実上支配下に入れた。

 ……そこでいろいろ紆余曲折あって、現在のギルドをスタートさせたのだが、とにかく組織に人がいないので、人集めが非常に大変だった。組織の青写真はあったし、組織自体も「まっとうに」しようという意志もあったのだが、何せ回りは学のない、893か一攫千金狙いのギャンブラーみたいな連中ばかり。

 それでも地道に、組織運営のできる人間を集め、一つ、また一つと徐々に組織としての体裁を整え、同時に冒険者としても多々経験を積み重ね、冒険者として超一流の証・「龍殺し」もやってのけ、「ドラゴンスレイヤー」の称号も得た彼らは引退して、ギルマスとして冒険者ギルドの運営・発展に尽力することにしたのである。

 当時のスターティングメンバ―は、首都ギルド本部や近隣の国のギルマスとして今も活躍しているそうだ。


 ラスさんたちが冒険者として過ごした時間は、ラスさんがギルマスになってからの時間よりもずっと長い。そこまで長く冒険者をやっていける冒険者は、実際はかなり少ない。

 一攫千金成り上がりを夢見て冒険者になっても、怪物に殺されただの、腕や足を食われてなくしただので、若くして冒険者をリタイアする者は絶えなかった――だから冒険者ギルドは、そうならないように冒険者をサポートする。今回みたいな現場新人講習はそのためのものだ。

 もちろん、現場の荒事の質が変わるわけではないので、仕事の危険度は変わらない。

 だが、そのサポート体制があるとないとでは、「その後の人生」が大きく変わるのだ。

 ギルド仕事の手数料の中には、「イザというときに最低限命の保証ぐらいはする」という、冒険者ギルドの支援料、保険料みたいなものが含まれている。手数料自体は今までと変わらないのだが、今までぼったくってきた分を冒険者の安全に還元する意味合いがある。そのため、ケガをした冒険者は、とりあえずギルドへ駆け込めば一次治療はやってもらえる。それで命永らえた冒険者は、近年とみに増えている。

 もちろんそれだけでは追いつかず、不具者になって田舎へ戻らざるをえなくなったとしても、身体だけは出来る限り動けるようにしてくれる。それだけでも、彼らの後の人生は大きく変わってくる――ただの動けない厄介者として蔑まれて暮らすより、一介の働き手として家族を支えられるのであれば、生きているだけ良かったと思えるようになる。

 それが現場で働く冒険者の安心と信頼につながり、冒険者ギルドはここ五年ほどで急速に勢力を拡大している――もっとも、その拡大には提携している「魔導士ギルド」の存在も欠かせない。

 商業ギルド以上の、こちらの人類世界最大にして唯一の「多国籍ネットワークをもつ単一組織」である魔導士ギルドは、冒険者にとって欠かせないパートナーである。魔導士であるラスさんもその重要性は十分承知していたため、魔導士ギルド幹部とのコネ拡大を図り、そのトップにも直談判して、冒険者ギルドとの提携を成功させたのである。


「……私がなんでこんな話をしたか、お解りですか?」


 ラスさんの意味ありげな笑みと問いに、俺は小さく首を振る。


「……あなたには、いずれギルドを支えていくメンバーになってもらいたいからですよ」


 ……俺が?


「あなたの持っている知識は、はっきり言って『異常』です。現代の魔導士ギルドでも、そこまでの知識を蓄えた人物は少ないでしょう。いえ、彼らすら知らない知識を、まだあなたは隠し持っている――しかも『従者』持ちでもある」


 ……ラスさんの目がコワい!

 ……どうすんべか、いっそ全部話した方が楽になるか――どうせラスさんは全部知ってる風でもあるし、ここで全部話して、バックになってもらうのも一つの手ではある。


「まあいいでしょう。細かい話はいずれ――」


 そこでラスさんが、森の闇の中に視線を向けた。

 一瞬にして変わった気配を、俺も察知する――しまった、剣置いてきた!


冒険者ギルドっていうのは893から足洗ったような、もしくは893になりそこねたような連中を集めた人材派遣業。

ギルマスはその社長。


ラス「893紛いの連中ばかりでつらい('A`)」

ローディ「そうかあ? 言うこと聞かなかったら殴っときゃいーじゃん?」

ラス「……サブマスが脳筋でつらい('A`)」

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