出陣
「お前らは任務前に何をやっとるか、全く……」
「裏庭でガチで殺り合ってるアホがいる」とかなんとかチクられたのか、二人は治療魔法で傷を治した後、ローディさんに説教を食らっていた。いや、俺らも同席させられたけど。「なんでここまでやらせた」とか……しゃーないんですー、こいつらがそこまでやり合うとは思ってなかったんですー。
「……とはいえ、高速・多重発動の使い手とそれに匹敵する魔法拳士となれば、戦力としてカウントしてもいいんじゃないですかね。どうせいつかは実戦投入するんですし、群れの一角ででも実戦経験させれば。今回は味方も多いことだし」
と意見を述べたのは、たまたま二人のバトルを見ていた、レギオンスレイヤー〈龍の鱗〉の副長、マジェスティさん。この人もガチンコ系魔法拳士で、スーパー○イヤ人2みたいなガチムチ筋肉と金髪ツンツン頭のイケメンさん。
今度の任務でも、メインのベテランレギオンスレイヤーの一人として出陣する。
「……まあ、確かにそこまで使えるなら、戦力としてカウントするのもやぶさかではないが――そっちの二人はどうだ?」
と、ローディさんが俺らに訊ねてくる。
いやまあ、確かに俺ら二人は戦力カウントされてるわけじゃないけどさ……。
「ボクはいいですよ、やります」
と、シェラはしれっと言う。ナニ、あれ見てまだやる気あんの? スゲー。
「……俺だけやらないってわけにゃいかないじゃん」
と俺が渋々ながら言うと、ローディさんは。
「自分でできるかできないかの判断は下せよ。同じパーティでも、できることの差があることは珍しくはない。そういうときに退く判断を下せる勇気がある奴は、生き延びる」
いやあ、そう言われてもねえ……まあ俺にも一応「隠し玉」もあることだし、実戦で使えば伸びるかもしれないし。
「俺にだって意地もあります。それに、こいつらにばかりいい格好もさせられないでしょう――ま、死なない程度にやりますが」
俺の返答に、ローディさんは口の端だけで微笑んで頷く。
「わかった。もし突入戦になったら、おまえらにも第二陣で参加してもらう。準備はしておけよ」
冒険者は全てが「自己責任」で行動しなければならない――戦いに出るのも、逃げるのも、全て自分で責任を負わなければならない。戦って死ぬのも、逃げて生き延びるのも、自分で判断しなくてはならない――例え恥でも生き延びるか、それともプライドと共に散るか。
いや、もちろんプライドと共に生き延びれば、それが一番いいが、誰だって死にたくはない。
……それに、ビュスナのこと頼まれてもいるしな。「猪突猛進の魔導士」を放置しとくわけにもいかないし。
それに、俺にだってプライドもある。
だが、プライドと共に死ぬ気はない。
……孫子の兵法でも読み込んどきゃよかったかな。
冒険者の指南書じゃないけどさ。
そして、シュレスの森へ向けての出発当日。
ビュスナとナオは、格別仲良くなった風ではないが、どうやら互いの実力は認めたようだ。
なんか二人の間の空気っていうか、雰囲気が違うのが俺にも解る。
「だから大丈夫って言ったじゃん?」
とシェラはにこやかに言うが……変なところで軋轢になってなきゃいいがな。
テーブルの上はにこやか、下で蹴り合い、これなーんだ? みたいなのは願い下げだぞ。
そんなのは国家外交でやれ。
さて、今回の遠征には、俺らのような初心者パーティがいくつか参加している。朝のミーティングでは、六パーティ、二十八人が参加しているそうだ。
そして本体は、手練のレギオンスレイヤークラン〈龍の鱗〉+熟練パーティ六つ、合計五十名が参加する。俺らと合わせて総勢七十八名。結構大掛かりなレギオンバトルになりそうだ。
そこにはラスさん、ローディさんも総指揮をとるために参加している――その他、本部直属の指導員が初心者パーティを引き連れていくことになっている。偵察パーティは一パーティに一人指導員がつき、交代で偵察任務に出る。
食料、野外活動用品はすでに輸送用の荷車に積んである。荷馬車は総勢十二台という大所帯だ。これが隊商だったりすると、盗賊に襲われたりするリスクもあるが、冒険者しかいないキャラバンを襲う奴らはいない。
出発に際しては、出陣式をやる。パーティが単独で出る場合ならともかく、ギルド挙げてのミッションともなると、町の運営にも大きく関わるので、ククリグの市長やここいら一帯の領主の使者、今回のミッションのスポンサーになった豪商なんかが式典に出席したりする。
式典は町のギルド前広場で行われ、市民たちがかなりの数、見物に来ている。これに合わせて広場周辺には屋台が並び、ちょっとした臨時の市のようになっている。まあ、ある意味祭りだよな。
こういうときの式次進行はラスさん、演説はローディさんの役目。やっぱりこれから「ちょっとした戦」に出るときには、いかにも歴戦の勇士みたいな人が演説してくれた方が、「勝ちにいくぞ!」みたいな雰囲気が演出される。
演説が終わると、町の治安軍の楽隊が、いかにも「これから戦いに向かう」的な行進曲の演奏を始める――なんか昔見た、自衛隊の音楽隊を思い出すな。
「しゅっぱァ――――――つッッ!!」
ローディさんの号令で、パーティを乗せた鼠車の一団が、門の方向へ動き始める。
式典を取り巻いて見ていた住民たちが、歓声を上げながら部隊の出発を見送る――町でも有名なギルドメンバーの出発ともなれば、それに憧れる若者たちが「かっけぇー!」と羨望の眼差しで見送りに来る。
うんうんわかるぞお前ら。俺もちょっと前まではお前らと同じ立場だったからな。
――さて、今回のミッションについて、情報を整理しておこう。
ゴブリンの群れを叩く、それがミッションの目的。
事前にゴブリンの群れの規模を調べ、その上で叩く。偵察隊をシュレスの森へ放ち、できるだけ規模を特定。
レギオンスレイヤーからの話では、群れの総数が百五十程度までであれば、五十人規模のレギオン・パーティで十分対応できる、ということだ。ただ、二百を超えるようであれば、せめて七十人規模に増員が必要になる。ざっと三倍までは対応できるって具合か。
もっとも数だけなら、俺らと同じ初心者が二十八人ついてるわけだから、半人前の集まりとしても、プラス十四人とカウントできる。二百ならギリギリ対応可能な数になる。
まあ問題は数だけではなく、個々人の錬度である。半人前ならプラス十四でカウントされるが、半人前以下ばっかりだと、十人分にもならない。むしろ庇うことになれば、戦力としてはマイナスになる。
レギオンスレイヤーはメンバーの連携が生命線になるので、急造パーティは足を引っ張る。俺らみたいな新人パーティは最初から数としてカウントしてないかもしれない。そうなると、群れの総数が多すぎた場合、一度帰還して再編、ということにしないと危険だ。
群れの総数で対応を変えるのは、各個撃破戦法ができないから、ではなく、その規模だと指揮官クラスの「ゴブリンリーダー」が誕生している確率がかなり高く、ゴブリンが統率されて「軍」のように動くから、だそうだ。
リーダークラスだけが少数ならいいが、数が増えると魔導士のゴブリンメイジやゴブリンシャーマン、戦士系強化型のゴブリンファイターやゴブリンチャンピオン、上級指揮種のゴブリンロード、果ては王種「ゴブリンキング」まで発生する可能性がある。
そこまでの規模になると、領主配下の正規軍の出動も必要になる。規模の確認は重要なのである。
つまり俺たちは皆、今からゴブリンスレイヤーになるのだ。
ゴブリン以外が出てきても始末するけどな。
「……といったところだ」
全員で今回のミッションの見解を出し、情報として共有しておく。それによって、生存確率を上げておくのだ。
とりあえず現地では、ギルドの熟練冒険者がリーダーになってくれるというから、その指示で動けばいい。
……んだが、俺の仕事は隣のツン娘を「暴走しないように抑える」っていう仕事も含まれる。やだなあ。
「……なんかあんたから『イヤな仕事やらされてる』っぽいオーラを感じる」
突然、ビュスナが俺に小声で囁いてくる。睨むな睨むな。
「いや、別にそんなんじゃねーよ? 初めての実戦だから、ちょっと緊張してるだけだからなー?」
「……ふぅん?」
……こえーなこいつ! 女の勘以外に、なんか読心系か、オーラ感知みたいな変なスキル持ってるよな絶対!
なんかゴブリンの群れよりこいつの方が怖いわー。今も俺に向けてる疑惑の視線が怖いわー。
こいつ「邪眼」みたいなのも持ってなくね?
俺の精神がポロポロ削られてる気がするよ! 肉体より精神の鎧が必要だよ俺!
「鋼の無神経」とか「鈍感力」なんてスキルでもねーもんかなー……そんなもん最初の100Pであっても取りたくねーけどさ。もったいない。
なんかランダムで決められたときに精神力のパラメータが低くなったんじゃね?
だとしたら覚えとけよチャラ神!
神「知らんがな(´・ω・`)」
神「てれれれってってってー♪
『魔法拳士・ナオ、スカウト・シェラが仲間になった!』」
ケン「お前が言うんかい!」




