またなかまがふえるよ! やったね!
だからこのタイトルは正直どうかと……(´・ω・`)
「武道家のナオ・イル・メルディエトーレや。よろしゅうなー。ナオでええで」
「スカウトのシェラザッド・ヘルエル・バスルティムです……シェラと呼んで下さい」
翌日、武道家とスカウトの二人に、俺らは引き合わされた。
武道家のナオは、ちょっと癖っ毛なセピアショートで、顔立ちは濃いめの和風だが、「ばいんばいん」の爆乳お姉ちゃんですよ!
すげえ……これで武道家やれるんだ。「乳ビンタ」一発で男ならくたばりそうだ……ビュスナのなにやら胸部に対する妬ましそうな視線は無視して。
もう一人のスカウト・シェラは、ナオと正反対の色の薄い、ショート銀髪・ブルーアイ・白皙肌のちっこいスレンダー美少女。ちょっと陰のある、そして猫っぽい雰囲気がいい。ビュスナの視線もなんだか優しい。
「あんたらも新入りなんか? まー最初からトバしてってもアカンし、ボチボチやってこかー、な」
ナオの西方弁の喋りと豊かな表情が、第一印象の「姐御肌」を確定させる……そして多分、登録以前に冒険者みたいなことを経験しているような雰囲気がある。実戦では先輩だろう。
そしてシェラの方は……まあスカウトらしいっちゃらしいかな。寡黙ってわけじゃなさそうだけど……ヤンデレたりしないよな? いやそもそもデレるのかどうか。病んでもいないよな? いやいや雰囲気だけで判断したらいけんわ。
「どうだ、やっていけそうか?」
顔合わせに立ち会ったローディさんが訊ねてくる。
「まあ……やってみないことには解りませんが、やれそうな気はしますよ」
「うちもやるには問題なさそうやから、しばらく組んでやってみよう思とるで」
「あたしもまあ……特に問題なさそうなんで」
「ボクも構いませんよ。誰とでも上手くやれないと……いけませんから」
全員、とりあえず合意――ちょっとマテ、シェラちゃん今「ボク」っつたか? こ奴「ボクっ娘」か! ポイント高ぇ!
まあそれはいいとして……初対面で「あ、こいつダメだ」なんて思ったら、その時点でまず無理だからな。
そこまで一見でダメな奴に出会うなんて、人生でもそうそうないが……人間、初対面の第一印象でそいつのイメージはほぼ決まる。仲間で仕事してあとで評価変わることはあるが、社外の取引先とかで第一印象最悪だと、その会社自体の評価が下がりかねんしな。部長からよく「第一印象はキッチリしとけ、後々の仕事のやりやすさが全く違うからな」って言われたわー。
「よし、じゃあしばらくお前らで組んでやってみろ。
最初いくつか、俺の方で良さげなミッションを選んでやる。その後はお前らで自由にやっていけるようになれよ」
と、ローディが笑う。
「はいなー」と、ナオが敬礼っぽい動作で応える――こういう敬礼って、こっちの世界にもあるのか。あれって確か、騎士が鎧のフェイスガード上げて顔を見せる動作が起源だとか聞いたが……まあいいやそんなのは。
「んじゃ、まずはギルドマスターから、一つ仕事を命じられてる」
おおう、ラスさんから? なんだ一体。
「新人向けに、ちょっとした偵察遠征任務をやってもらいたい。もちろん他にも同じようにいくつかのパーティにも行ってもらうし、本体は手練の冒険者が指揮を執ることになっているから、おまえらが直接戦闘になる可能性は低い仕事だ。とはいっても実戦はあるかもしれんから、覚悟と準備はしておけ」
偵察か……何の偵察だろうか。
「ここから南に二日ほど行った街道向こうの村の先に、シュレスの森っていうそこそこ大きい森がある。ここは南方辺境の大森林にも連なる森でな、そっちからゴブリンの群れが流れてくることがある。
その群れらしきゴブリンが、森に近い村にちょっかいかけてきているという通報があってな。それでどのくらいの群れか、先行偵察をして規模を特定してから、レギオンスレイヤーが一気に叩く、という段取りになっている」
「その先行偵察ですね。戦うのは本体がやる、まあ無理に相手を叩くのではなく、規模の確認があくまで任務だ、と」
俺が応えると、ローディさんがいつもの笑みを湛え、「そういうことだ」とだけ応じる。
「行程はこっちで立てるから、基本それに沿ってやってくれ。行き帰りはギルドの鼠車で往復二日、現地で五日の偵察の合計七日。食料と水と現地の宿は用意する。その他は自前だ。武器と防具の確認は忘れるなよ。
食いものもまあ、最低限分だけしか用意してないから、多少自前の予備を用意しておくのが冒険者の基本だな」
おお、なんか冒険者っぽくなってきたな。
現地まではギルドの送迎付きか……レギオンスレイヤーがお出ましになるってことは、ギルド全体で事に当たる必要があるってことだ。で、俺らはそのついでの下っ端仕事ってことだな。
まあ「はじめてのおつかい」だからこんなもんだ。だからといって危険がないわけじゃないし、手前の身は手前で守らなくちゃならんのだし、ゲーム感覚でってわけにもいかんよな。リセットボタンもないことだし。
出発は明後日、今日明日で準備をしておけ、とのこと。昨日の今日でいきなり実戦投入か……でもまあ、冒険者なんてそうやって実戦で鍛えられるもんだから、いいっちゃいいのかもな。
「ほしたら、今日はウチらもしっかり打ち合わせしとこか。せやないと、いざ現場でバラバラで連携取れん、そんでしくじったら、死ぬことになるさかいな」
……ナオの言い分はもっともだ。
そう、これはゲームじゃない。
「命を賭けた仕事」なのだ。
俺ら四人は、ギルド会館三階にある宿泊所をしばらく使わせてもらうことになった。
部屋はベッドとモノ入れ兼用のベッドサイドテーブルと、壁に明り取りの小窓とフックがいくつか、ベッドの上に棚があるだけの細長い狭い個室だが、鍵のかかる個室が用意されているだけでも十分だ。それが大体、合計で百近くあるという。だだっ広い個室ネカフェみたいな雰囲気だ。壁は薄いが、まあ仕方なかろう。どうせ寝るだけのスペースだし。
そこに共同の水場、食堂、トイレ(洗浄魔法+浄化槽式)、簡易洗場(洗浄魔法を使ったコインランドリー&コインシャワー)が付属している。メシ時は食堂はいつも満員になるそうだ。ギルドメンバー割引があるおかげで安い・早い・旨いの三拍子揃ったメシだからな。食うのはしっかり食わんと。
明日の午前中、今回の偵察に就くパーティへの説明会があるので、それに出席。そこで仕事内容の詳細な説明がある。
それまではとりあえず自由時間――ではなく、荷物を置いたら財布だけ持って、ロビーへ集まることになっていた。仕事に必要な小物の調達に行くためだ。
部屋の鍵は、三階宿泊所のフロント係に預け、代わりに木製の割札をもらう。これで鍵と交換、というわけだ(鍵を外に持ち出させないようにするための防犯措置でもある)。フロントでは小物なら預かってもらえるという――金を預けておいても大丈夫、というのがギルド宿泊所の利点で、ギルドメンバー以外ではちょいと利用料がお高いが、その分、ギルドの手練が多数控えている場所の宿だから安心できる、また信用もおけるということから、商業ギルドの宿泊所と並んで、旅人によく利用される。
ちなみに、四階は幹部の個室や会議室、図書室や資料室。二階は職員フロアで、事務所と会議スペース、職員専用施設がある。一階は受付け、事務室、そして倉庫。さらに地下にも二階あって、倉庫と地下訓練場、「拘置所」もある。治安対策もやるので必要だということだ。
……しばしして、四人は三階受付前ロビーの一角へ集合。ちょっとした待合スペースみたいなのがあって、宿の出発前の待合場所になっている場所だ。
「さて、あたしらもパーティ組んだわけだし、お互いどれくらいの実力なのか、軽く手合わせしてみない?」
……と、ビュスナが言い出した。おいやめろNPC。「めいれいさせろ」!
「軽くねえ……うちは構わんけど、ケガしたら初仕事に響くんちゃうかな」
そうなんだよ……明日出発なのに、ヘタにここで怪我とかしたくない。仕事の負傷ならここの治療所で治してくれるけど、そうでないなら金払って治してもらうことになるが、そんなことに金使ってる場合じゃねー。
「あら? 自信ないなら別にいいけどー、そんなことで冒険者やっていけるかしらねぇー?」
ナオの控え目な返答に、ビュスナが煽り台詞を返しよる。やめんかこんなとこで。
「いやいや、せやないねん。魔導士のあんたと武道家のうちじゃ、ちょーっと魔導士のあんたが不利やないかなー思てなー。怪我させるんも悪い思てなー」
……ナオも、さらりと「自分の圧倒的優位」をアピールする。
まあ実際、戦士系と魔導系、どっちの冒険者が有利かというと、初級冒険者では圧倒的に近接バトル系が有利だ。
初級魔導士は使える魔法も少ないし、魔力総量も多くはない。ビュスナの親父様に聞いた話では、一日に使える戦闘魔法は数回、それを効率よく使えなけりゃならない。一日に二回・三回と遭遇戦があったりすると、大体初級魔導士は魔力切れで役立たずになる。
対して肉弾系は、「ダイレクトに戦う」ことを覚えるため、戦闘スキルはそれなりに持っているし、対人戦闘スキルは訓練でもやるので、まず経験値として鍛えられる。スピードの面でも、初心者魔導士とでは比べ物にならないほど速い。体力があれば戦えるという面でも、前衛での負傷リスクはあるが、初級魔導士より圧倒的に効率良く、長く戦える。
そういう点からすれば、タイマンでは、俺らのような初級レベルでは肉弾戦闘系が圧倒的に有利、が常識だ。
魔導士も「術式高速展開」とか「制御陣高速描画法」とかあって、そういうのを会得すればほぼ一瞬で基礎的な魔法を展開できるようになる(とヴァロースさんから聞いた)。が、ビュスナがそのレベルにあるかというと……うーん。
魔導士の本領は、中級以降の熟練者になってからである。使える魔法の種類が増えて、経験を積み、魔法戦術の幅が増えると、単純肉弾戦闘ではできないことができるようになる。バフ・デバフやら治療・解毒に探索・結界などの支援魔法を覚えれば、戦闘以外にも重要度が増していくからだ。
「あらー、そんなのやってみなくちゃわかンないでしょ。やる前から勝利宣言しちゃったりしたら、負けたときカッコ悪くないー?」
さすがにビュスナの煽り文句が「ケンカ売ってるレベル」に聞こえてくる。
はあ……俺が止めないとこいつ、マジでケンカ始めかねんな。
「――ビュスナ、これから一緒にやる仲間なんだから……」
「ええやないの、ケン君?」
止めようとしたところで、ナオが遮る。
「うちもな、実際に手合わせして実力知っておいた方がええと思うんよ。それに」
ナオが立ち上がる――あ、目が……ちょっとマジになってる。
「強い弱いは、実際に戦って勝った方が言えるもんやで。負けた方はなんも言う資格ないんやから」
「へぇ……あんた、いいこと言うじゃない」
ビュスナも笑みが怖い――アカン、これはアカンで!
おまえら煽り耐性低すぎるわ! 煽り行為禁止! 罰金バッキンガム!
「いいじゃない、やらせようよ」
と、シェラは肩をすくめる。
「こういうの、何だっけ――殴り合って友情を深めるとかいう、そういうの? 男同士だとよくあるやつじゃない?」
シェラはそう言って、艶かしく微笑むが。
いやいやいや、こいつら双方、女! オ・ン・ナ・だから!
女同士の争いは根深いんだよ! 兄貴や親父にもよく聞かされてるんだよ! 殴りあうと余計にこじれるだけだって! 「お前強いな」「お前もな」みたいな友情とかありえねーってさー! 表向き、男の前では仲良くしてる風だから余計に性質悪いってー! ビュスナの親父様も同じこと言っておったわ!
「んじゃ、裏庭行こうか」
「ええでー」
二人が大股に、階段へ向かってすたすたと歩いていく。
おい、その「キレちまったよ、久しぶりに」みたいな展開やめろ!
「さて……お仲間の模擬戦だから、見届けないといけないんじゃない?」
シェラがゆらりと立ち上がり、俺の肩をぽんと叩く。
……受付のおねーちゃんが「あーやってるねえ」みたいな苦笑で見送ってる……急造パーリーだとこういうこと、よくありそうだもんなぁ……こういうパーリーピーポーはいらねーんだけどなー。
えー、ナニコレ、NPCイベントなの? しばらく見てるしかないっていうやつ? ムービーばっか入れられてもねえ……シナリオの出来が悪いとこういうお茶濁しなのが続くんですよ? 動画作る手間ばっかり増えて、容量の嵩増しばっかで、肝心の本編があんまりおもんないとかいう……ナニとはいいませんがね。
二人に遅れること数秒、仕方なく俺とシェラも裏庭の修錬場へ降りる。
「さて、ほしたら勝敗はどないしょっかな。うちは闘えへんくなるまでやっても構へんけど」
「それでいいよ」
「いやいやマテマテ。おまえら明後日任務が入ってるの忘れてねーか」
俺が思わず指摘すると、ナオがすっとぼけて応える。
「おーそういえばそやね」
そういえばじゃねえよ、ほっといたらガチで戦りあうつもりだったろおまえら!
「そういうわけだから俺が審判に入る。明後日の初任務に支障出そうになったら、勝敗つかなくても止めるからな」
するとビュスナは。
「えー、あんたの審判で大丈夫ぅー?」
黙れ小娘! お前の暴走が一番心配なんじゃ! 親父様も大概な評価下しておったぞ!
しかもその評価に違わぬこと、早速やらかしおってこの猪娘! つっかかってきたら俺の〈絶対領域〉で吹っ飛ばすぞ! 猪退治なら実績あるんやで!
「だまらっしゃい。初任務に内輪揉めで行けなかったとか、スタートから縁起悪いわ。
初任務ぐらいキッチリこなしておくのが冒険者ってもんだ」
「わかったわかった、とりあえずせやな、倒れて背中か頭が地面についたら負け――てなとこでどや? 魔法使っても、ブン殴ってもなんでもええから、な?」
「……いいじゃない。それなら勝ち負けはっきり判るでしょ」
ああもうこいつらはー!
しかし、ここまできたら下手に止めるとこじれかねんし……。
「……よし、じゃあ倒れて背中がついたら、そこで勝負あり。背中以外で倒れて10カウントで起きられなくてもアウト。それ以外に、動けないとか戦意喪失とか、気絶なんかでも終了。いいな」
「はいはい、それでいいから早く始めようよ」
少し離れて、ビュスナは短杖を構え、ナオは拳を構える。
はあ、と溜息を一つ吐いて、俺は二人の間に手を差し出し――
「始め!」




