5・全滅
何でもありの猿回しが始まろうとしていた。
ルール無用といえど基本ルールは変わらず、以下の通りである。
・プレイヤーは俺を除けば五人。一人が猿役、四人が猿を弄ぶ役だ。
・四人は4m間隔で四角に立って、俺を猿に奪われぬよう回し合う。
・猿は俺を奪うことで猿卒業。奪われた者が次の猿になる。
簡単にいえば、転がされる俺を猿が必死こいて追っかけるゲームである。今回はそれに、暴力というちょっとしたスパイスを加えるだけだ。たったそれだけでスリルと興奮がグッと増すんだぜ。最高の案だろ?(発案者:俺)
変則猿回しは第二回目の開催となるわけだが、今朝方にやった一回目は失敗だったように思えた。初の試みに勝手が掴めず、怪我が多発してしまったのだ。
だがまあ二回目ともなれば大丈夫だろう。面子は一回目と同じ、リロイ三兄弟と九十九騎士のオイエンハル、ティーゲンだしな。
さて、早速始め……る前に、初回の生贄を決めなくてはならない。
これはどうしても別のゲームで決めざるをえないので、じゃんけんをすることになった。
そう、じゃんけんである。不思議な話だが、これは俺が教えたわけではなく、元からこの世界に根付いていた。グーチョキパーではないけどね。
『手刀』、『張り手』、『目つき』の三つの手があり、手刀は張り手を切る、張り手は目つきを折り、目つきは手刀を白刃取りする。
かなり物騒な感じだが、これは掛け声においても同じである。
「「「死ぬのは誰だ、お前だ!」」」
「「「猪口才な!」」」(※あいこでしょ)
「「「猪口才な!」」」
「「「猪口才な!」」」
「おっ」
「殺したぞ!」
勝敗は決まった。初回の猿はワンダーフォーのようだ。
「フォーッ⁉」
悲しみに吠えども、誰も彼に手を差し延べることはなかった。
四人は淡々とワンダーフォーを囲むように立ち、誰も彼に声をかけることなくゲームを始めようとしている。
「怖いのだろう?」
その声に男たちはビクッとなった。声はワンダーフォーのものだった。
おどけた調子が一転して、その貌には怪しい微笑を纏わせている。
「予言しよう……ボールが四度回されるまでに、私は人に戻るだろう」
「面白ェ! やってみな!」
そう返すグレーターセカンド。しかし額には汗がにじんでいた。セカンドだけではない。ワンさん、オイエンハル、ティーゲン――猿を翻弄する側に立つはずの者たちは、皆一様に恐れていた……ワンダーフォーの実力を。
その実力を今示さんと、フォーの口が動いた。
「――"繰り返される児戯"」
魔物と呼ばれる特殊な能力を持つ生物。
その中にはロック蝶という、人の思考を凝固させる鱗粉を放つ魔物がいる。
何の間違いか、ワンダーフォーは人でありながらその蝶と同じことができた。
凝固鱗粉放出の特異魔力……その鱗粉を浴びた者は、臨機応変の対極をいく状態になり、志向性を限定される。思考が固まってしまうため、『彼にボールをパスしよう』と思い、それを実行すれば、二度目もまた同じ行動をとることが確定する。
それゆえに容易く次の行動が読まれる。誘導されてしまう。
俺のように聖なるバリア―ミラーフォース―を張っていれば、鱗粉を弾けるので思考ロックは起きない。しかし、哀れなことに他の者たちはそれができなかった。
「セカンド兄者。誰にパスをする?」
鱗粉舞う中、俺を持つセカンドにフォーが近づく。
俺を他の奴に渡さなければ、このままではとられるだけだ。
「くっ!」
パスを強いられたセカンドは俺をワンさんへと回した。
これでセカンドはワンさんへのパスしかできなくなった。次にセカンドにボールが回ってきた時、行動が確定している彼の命は無い。
ボールを回されたワンさんは、さて、どうする?
と、ここで猿が、ティーゲンとオイエンハルへのパスコースを阻むような立ち位置をとった。セカンドの方はがら空きだが、しかしセカンドに返したらセカンドは死ぬ。けれども、他の二人のコースではパスを阻まれる危険があった。
ワンさんはセカンドを見る。セカンドは慌てた。
「お、俺は死にたくない!」
「俺も死にたくない。ゆえにさらばだ、セカンド」
ワンさんはセカンドへボールを返した。
「ワーーーンッ!!」
セカンドは戻ってきた俺を足に収めた途端、またワンさんへと返した。フォーの能力によって返さざるをえなかったのだ。
当然、これを読んでいたフォーはパスをカットした。
「予言は成就した」
「ファックッ!」
フォーの奴、強いな。仮にワンさんが他の二人のいずれかにパスしようと、その後に余った一人のパスコースを埋めれば、誰かが二回目のパスを余儀なくされる。
マジで四手以内で詰むようになっている。予言的中は運ではなく純然たる実力!
「では次の勝負を始めよう」
そう言ったワンダーフォーは鱗粉を解除した。
でないと勝負にならないからである……この能力、チートすぎじゃね?
さて、次はセカンドが猿だ。この猿は非常に暴力的である。
プレイヤーを殴ってダウンさせ、パスできる相手を減らしていくというゲーム崩壊必死のプレイスタイル。
先ほどのような心理戦ではなく、ひたすらに武力が求められる。
早速ワンさんが詰め寄られている……。
「お、おい弟よ、ボールを持っているのは俺じゃないんだが」
「さっきのことに恨みなんてねぇが、死んでくれねぇか?」
むしろ恨みしかなかった。
これを受け、ワンさんが必死に叫ぶ。
「援護してくれ! 俺が崩れたら困るのはお前らだぞ!」
オイエンハルとティーゲンはこれに頷く。
セカンドの強さを知っていた彼らは次々に殴られることを恐れ、結託した。
「吹き飛べ!」
セカンドめがけ、圧縮した風のかたまりを飛ばしたオイエンハル。
ボヘ砲みたいな技なのは、俺の薫陶を受けているからである。
『俺の技、盗めるものなら盗んでみな』と言って技を披露したら普通にパクられてしまった……。ま、まあでも、所詮ボヘ砲の劣化版だけどな!
「せぇいっ!」
同時、ティーゲンも戦槌を振るって衝撃を飛ばす。
破城槌と渾名される竜の角で出来た魔槌【打ち出の大槌】は、放たれる衝撃を任意の時間固定する、遅延ぶっ叩き効果がある。
空中を叩き、解放を遅らせれば、衝撃を離れた相手に届かせることができた。
「オルァ!」
同時、ワンさんの恵まれた体躯から必殺の右拳が放たれた。
Sランク冒険者だけあって、大木すらへし折ってしまいそうなほどに力が感じられる一撃だ。
「ンフォー‼」
同時、ワンダーフォーはセカンドめがけ吠えた。
特に意味は無いと思われる。
こうして三つ(四つ?)の攻撃がセカンドの体と言う一点に収束しようとしているわけだが、当のセカンドはこれを凌ぎきれるのだろうか?
俺は、余裕で凌いでしまうと思う。
「【三昧耶形】――"透徹せしシャルマキヒュ"」
本人いわく、これはシャルマキヒュ信仰の賜物だという。
偶像神シャルマキヒュの容姿と力の投影。邪視。
一言で表すなら、おっさんが無敵の美女になった。
見るのは二回目だが、やはり目を疑わざるをえない。床に垂れるほど長い白銀の髪、ツラはミラジョボビッチ似、藍色のベールにゆったりと包まれた体は白磁の肌が輝かしい。
その右腕が横に振るわれた瞬間、フォースとはまた異なる形容し難いエネルギーが流れ出し、放たれた攻撃の一切を無に帰した。
そして視線を正面へと向け、
「グレーターワン死ねよや」
怖気をもたらすほどに冷気を帯びた、死の宣告。普段のセカンドとは似ても似つかぬ女の声色だ。それに対してワンさんは「断る!」と掌底を放つが、放った時にはすでにワンさんの顎が不自然に傾いており、そしてワンさんは崩れ落ちた。
ばたりと倒れたワンさんの姿に数秒後の自分を見たのだろう、「ひぃいいいい!」とティーゲンが悲鳴をあげる。
それを見かねてか、オイエンハルが声をかけた。
「ティーゲン! 騎士がそんな声を出すな。お前はもう鍛冶師じゃないだろ?」
ティーゲンはハッと顔をあげ、「その通りだ! オレは騎士だ!」と気力を持ち直したようだった。
何やらドラマが生まれていたが、俺は彼の背景を知らないのでこの会話がさっぱり理解できない。今度聞いてみよう、そう思った。
「球を寄越せ」
ワンさんを倒し終えたグレーターセカンド・オーバーソウルシャルマキヒュが、俺を持つオイエンハルのもとへ迫る。
オイエンハルはすかさず俺をティーゲンへとパス! しかしセカンドは俺に目もくれず、そのままオイエンハルの始末にかかった。
「待――!」
「フッ!」
それは、亜光速をも捉える豆腐の動体視力でさえ、かろうじて見える掌打だった。人であるオイエンハルは為すすべもなく、鼻血を噴出しながら豪快に吹っ飛んだ。
ヒュ~、ドサッ 「ぐえっ」
「――これで残るは二人」
「ひいいいい!!!!!」
恐慌をきたしたティーゲンがなぜか俺めがけ戦槌を振りかぶる。
ちょっ⁉
「バカっ、正気に戻れ!」
「正気です隊長! 奴を倒すためなんですっ!」
スコッ スコッ スコッ
槌は何度も俺に当たっているが、衝撃が全くこない。
衝撃を遅延させている……あっ! 数発分の衝撃を一気にリリースして俺を砲弾として打ち出すつもりだな?
「やるじゃ」
ねえかと褒めきる前に、俺は凄まじい速度でセカンドの方に射出された。
ランスロット、発艦!!!
「おっと」
セカンドに躱された。砲弾がいかに速くとも、あんなあからさまに攻撃の予兆があればそりゃこうなるわ。
躱された俺はそのままセカンドの背後にいたフォーにぶつかった。
「ぎゃあああああ!!!」
まずい。これおふざけ一切なしのリアル絶叫だ。
「あ、あ、あ……」
「大丈夫かフォー‼」
ティーゲンが目を白黒する中、俺はフォーの元にコロコロ駆け寄った。
「フォー……フォー……」と死にかけのフクロウみたいにか細く鳴いている。
腕が少し腫れているな。骨は……大丈夫そうだ。
じゃあなんで死にかけてんだコイツ。
そんな時である。ポン!とコミカルな音がした。
音がなった方に視線を移すと、美女がおっさんになっていた。
「キャーッ!」
野太い悲鳴。おっさんは裸だった。あの邪視には時間制限があるらしく、それを超過したため戻ったのだ。しかしなぜ裸。股間を隠し、無駄に顔を真っ赤にして自分の部屋に走り去っていった。
…………。
やれやれ、第二回目も負傷者多数、人員離脱で終わっちまったか。
三回目? ねーよ。これクソゲーだわ。




