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5・これからのこと

 手足を欠いた女魔術師をひと通り尋問し終えると、姫さんは言った。


「聞きたいことは聞けた。ドレイク、女を外に捨ててこい」


 不謹慎だが、無慈悲すぎて噴いた。

 自分宛の刺客と闘って重傷の人に、臆面も無く言うんだもんな。

 まあ分からないでもないんだ。信頼できるかどうかさだかじゃない奴をここに置いておくのはリスクがある。


 でも、捨ててほしくないな。だって魔術師(・・・)なんだぜ?

 ここで助けて、それは恩に着せれば、魔術を教えて貰えるかもしれない。

 火風水土エレメントを自在に操る豆腐……そんな自分を想像するだけで超興奮する。


 こりゃあもう捨てるなんて選択肢は無いよな!


「待ってくれ、ライオネス」

「どうした?」

「こんな状態で放り出したら野垂れ死にしちまうよ。しばらく置いてやってもいいんじゃないか?」

「野垂れ死にさせればいい。所詮は余所のいぬだからな」


 ウッ、正論だ! そこに反論の余地は無い。

 無理やり説得するか? いや、正直が一番だって新渡戸稲造が言ってた。


「俺、狗が飼いたいです」

「そうか。ならば、そうするといい。ドレイク、降ろせ」

「はっ」


 ありがとう新渡戸稲造! そして「ありがとうライオネス!」嬉し気に言うと、彼女は「うむ」と微笑んでくれた。

 俺にだけ向けてくれるその笑顔を見て、何だか無性に「ママーッ!」と彼女の胸に飛び込みたくなったが、冷静に考えると彼女はママでは無いのでやめておいた。


 果たしてそれは正しい選択だったろうか。俺は後年、この時のことを頻繁に思い返すことになる。ここで彼女の胸に飛び込んでおけば、彼女はあんなことにならなくてすんだんじゃないか……などとモノローグが妄想に突入したので、俺は考えることをやめた。


「……おい狗、何かしでかしたら命は無いと思え」


 姫さんは冷たい視線をメアレンに向けると、騎士たちを連れて退室していった。

 部屋にはリロイ三兄弟とアールちゃん、俺たち(クレイジボール)、考え込むような顔をした女魔術師(狗)が残った。


「あひぃ、あひぃ、遊び疲れたのです」


 皆が出て行った直後、アールちゃんがコテンと床にお尻をつけた。

 それを見た三兄弟が「やれやれ」「情けねぇ」「四兄弟になるにはまだ早いな」などと口々にぼやいている。

 こいつらまさか、アールちゃんを妹に迎えたいがために一緒に行動してるんじゃなかろうな……アールちゃんには後で注意するよう言っとくか。


「別の玩具を連れてくるぜ」


 グレーターセカンドはまだ遊ぶ気が萎えないらしい……アールちゃんの代わりを呼びに、扉の向こうに消えていった。

 こりゃあ一旦休憩だな。丁度良いや、女魔術師と落ち着いて話がしたかったし。


 俺(正確には俺たち。今は単一の球体なので、以降俺たちのことは俺というぜ。ややこしいしな)――俺は、女魔術師の近くに転がると、気持ち優し目のボイスで話しかける。


「メアレン、で良かったか? 捨てられるとこだったが安心しな。ライオネスは当たりが厳しいとこあるけど俺には優しいんだ。俺が飼うって言ったからには――いや面倒を見るって意味だからな?――むげには扱われないだろうよ。しばらくここで安静にしてな」

「……有難う、助かる。食べたトントロポロロンズが消化されたら元通りに治せるようになるから、それまでは厄介になろうかな」


 治せるのか。まあ、我が仇敵レストロオセも治したとか抜かしてたから治せるんじゃないかとは思っていたけど、そうかそうか。そりゃ良かった。

 てか、トントロポロロンズを消化ってエロいな……痴女かよ。


 ……ん? メアレンが俺をジッと見つめている。

 珍奇な物を見るような感じではないが、どこか訝しげだ。


「何だよ」

「本当に……ユーゼス?」


 それか。


「さあな。俺にもよく分からない」

「分からないって?」

「記憶がないんだ。ないって言うか、俺はつい最近生まればかりのベイビーなのよ、こう見えて」

「……」

「だけど、冒険王と会ったことあるらしい奴が俺を冒険王と言ってきてな。違うと否定しても違わないとうるせえし。ライオネスもそうに違いないと確信してるみたいなんだ」

「そう……」

「そういえばアンタ、さっき姫さんに聞かれて答えてたろ。冒険王と知り合いなんだって?」

「ええ」

「俺を見てどう思う?」


 メアレンは「うーん」と唸り、そして答えを出した。


「物凄く……似ているわ、雰囲気がね」


 マジかよ。


「でも、アンタの知ってるユーゼスは人間だったろ?」

「ええ。だけど、球になっててもおかしくないというか」


 どんな奴だと思われてんだよ。


「色々と聞くことがありそうだな」

「それなんだけど、後にしても? 疲労感が凄くて。休めると助かるのだけど」

「おっと、気が利かなくてすまんかった」


 もっと色々教えて欲しいことがあるけれど、ここで無理強むりじいしたら嫌われかねない。ここは素直に相手の要求を呑むことにした。

 俺の寝台ベッドでいいよな。

 球をクルリと回転させて後ろを向くと、聳え立つ筋肉がいたのでお願いする。


「ワンさん、そこの寝台に寝かせてやってくれないか?」

「任せろ。俺は女に優しい。なぜならそれが、女に好かれる秘訣だからだ」


 聞いてもいない持論を語るグレーターワンことワンさんは、その巨漢っぷりを発揮して軽々と、それでいてゆっくりメアレンを寝台へと移した。

 メアレンはワンさんを見上げ、お礼をいった。


「ありがとう。ワンサンさん」

「お嬢さん。俺の名は、いいかよく聞いておけ(迫真)、俺の名は、グレーターワン!」

「ご、ごめんなさい」

「そして私はワンダーフォー!!」

「……」


 彼女は何とも言えない顔をしていた。気持ちは分かるよ。ふざけた奴らだよな。

 俺はともかく変人に囲まれちゃ気が休まらないだろう。とっとと出ていくか。


「じゃ、メアレンさんよ。部屋を空けるからゆっくり休むといいぜ。俺たちゃ部屋のすぐ外で遊んでるから、何かあったら呼んでくれ。話の続きはまたあとでな」

「ええ」


 あとで機を見て、魔術を教えてもらおっと。

 そう胸に誓いながら、俺は広間へと出た。コロコロ。



***



 しっかしこのウドゥドゥベースは最高の拠点だな。

 各自の部屋まであるし、中で遊ぶなりくつろぐなりしてる間にも目的地へとウドゥドゥさんが進んでくれてるんだものな。

 馬車使うのがアホらしくなるよ。使ったことないけど。


 目的地といえば、今向かっている国はなんて名前だったかな……忘れた。

 けど、どんなとこかはしっかり覚えてるぜ。


 向かう場所は、冒険王が残した【魔剣エクスカリバー】の眠る地だ。

 台座に魔剣が突き刺さっており、いかなる者も抜けないことで有名らしい。

 「このつるぎを抜くことのできる勇者はいずこか!」という喧伝に集う人たちで連日賑わっているようだ。


 台座に刺さって抜けない剣……男心をくすぐる響きだよな。

 しかしだ。なんでも台座が納豆で、ねばりが尋常なさ過ぎるせいで剣が抜けないのだとか。

 ふざけてんのか。この世界の納豆の立ち位置どうなってんだ……まあいい。

 とにかくそれを見に行くつもりだ。


 俺は冒険王のことを知らなくてはならない。

 最終目的地である賢者の岩へ向かう途中、冒険王ゆかりの地を遍歴し、失われた記憶を呼び覚ましてみせる。


 俺がかつて偉大な英雄だったなんて主人公設定、荒唐無稽だけどよ、でも姫さんに『お前を信じる私を信じろ』なんて螺旋エネルギー溢れる言葉を言われちまったんだ……俺は俺を信じる姫さんを信じるぜ。


 それにこれは悲願達成にもつながっている。

 記憶が取り戻せたなら、冒険王の力も取り戻せる可能性が高い。

 その力ってのは、俺(たち)を美味しい豆腐にすることも可能なスーパーパワーらしい。姫さんは万化ばんかの槍だとか言ってたっけな。


 ま、今は小難しく考えず、頭空っぽにして旅を楽しむとすっぜ!



「――待たせたな」


 考え事もキリの良いところで、グレーターセカンドが勧誘を終えて戻ってきた。

 連れてきたのは九十九騎士の二人。


 一人はハンマー野郎ティーゲン。

 ドワーフにしか見えないが、ダーワルグ族とかいう亜人種族らしい。

 よく見ると細部に違いがあるような、ないような……うーん分からん。

 もうドワーフってことでいいだろう。


 もう一人は気風きっぷの良い兄ちゃん――風のオイエンハル。

 誰に対しても言葉遣いが粗雑だが、フランクなおかげで問題視されてない。

 いわゆる、憎めない奴?

 あと二つ名のとおり、風の魔力の持ち主だ。人間扇風機である。


「よっ隊長。前回と同じ、変則ルールで頼まあ」


 オイエンハルの言う変則ルールには、むしろルールがない。普通の猿回しでは変な能力を使っちゃ駄目というルールを課しているのだが、それが無くなる。


 即ち、何でもありの猿回しである。


 当然、オイエンハルは風の異能を使うし、ティーゲン並びに三兄弟もそれぞれの技能を駆使する。かくいう俺もフォースを使う。危険な遊びなのである。


 どれだけ血のわだちが引かれることになるのか、考えるだけで恐ろしい……。

 しかし今の俺は所詮タマッコロ。ぷるぷると震える事すらできやしない。

 代わりにコロコロしとこ。コロ♪コロ♪

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