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4・輝きたるピュクティエト

 雌雄ここに決したり。

 消し炭になるというアクシデントはあったものの、見事勝利を収め、褒賞として絶対遵守の命令権をゲットできた。

 しかしどうしたものか。


 プス……プス……。


 この事態に至って初めて思い知ったんだが、消し炭は語る口を持たない。

 唯一できることといえば煙を上げるくらいかな。それだって鎮火の一途を辿っている。


 いつまでもこの場にたたずんでくれるラスカリオンではあるまい、このままでは命令権を行使できないまま去られてしまい、そうなっては努力は水の泡だ。塗炭の苦しみと言った方が状況にあっているかもしれないな。今の俺たちにとっては。


 つまり何が言いたいのかというと、可及的速やかに生存報告をして引き留めなくちゃならんってこってす。

 ボケっとしていらんめぇ。困った時のフォース! ふんぬぅ!


「む?」


 感傷に浸っていたラスカリオンがこちらを見る。燃え朽ちて粉状化した(おれたち)がモゾモゾと動き出し、集合して一つの塊となって見えているであろうこちらを。

 そしてその黒い塊は少しずつ輪郭を帯びて、(そして30分後)遂には皆様おなじみの形をとったのである。


「な、なんと……!」


 彼の驚きも当然といえよう。見よ、この造形美!

 黒衣のマロゾロンド、ここに再臨‼

 まあ、あくまで見かけだけだがね。砂場で作った砂のお城みたいに、炭粉で作った黒衣のマロゾロンドフィギュアというのが正しい。

 しかも黒衣のディテール再現に炭を大量にとられたため、大きさが実物の1/2スケールになっている。()マロゾロンドって感じだ。


 ラスカリオンはそんな俺たちを見て笑った。


「ハッ、生きておったか」


 「おうよ」と答えようとしたら――砂上の輪郭という奴だったのだろう――「お」と言った瞬間ズサァッと体が一挙に崩れた。あああ、俺の30分‼


「な、なんなのだ一体……」


 まあ待てよ。一瞬「お」って確かに音が出ていたしな、フィギュアでも話せないことはないらしい。問題は耐震性にありそうだ。次は頑丈目に作ってみせるよ。

 ほっ、ほっ(そして15分経過)よっと、完成だ。

 どうだい? 細かいディテールは捨ててシンプルな造形、それでいて特徴が良く表れている。デフォルメ調の黒衣のマロゾロンドフィギュアだ。カワイイだろ?


 そのまま口に出してみる。「カワ」――ズサァッ。またただの炭の山に。クソ!


「何がしたいのだ……」


 まあ待てよ。さっきは「お」の一文字だったが今度は「カワ」の二文字になった。方向性は間違ってないんだ。ただ、一体どんなマロゾロンドにすればもっと頑丈に……おっとそうか、既存の概念に囚われていたな。例えどんな形をしていても素材が俺たちである限りそれはマロゾロンドだ。よおし。


 ズズズズ――ポテッ、コロコロコロ。地面を転がる。


「む、球になりおった」


 その通り、俺たちはまあるい球となった。

 見紛う事なき真球。物体の最も安定した形状といえばこれだろう。


「あーテステス。おお!」


 やった、普通に話せるぞ! 崩れる気配も無い。フォースで維持するのも、形状が丸だからおむすびを結ぶが如く簡単だ。しばらくはこれでいきたいと思う。

 ではさっさと用件を済ませよう。


「さて……フフフ、敗者は勝者の言うことを何でも聞く約束だったな?」


 巨竜の足もとをコロコロと転がりながら言うと、その巨竜は短く「竜に二言は無い」と答えた。うむ、いさぎよし‼

 そんなわけであとは願いを言うだけ。内容は事前に決めた通りだ。


「全力で冒険王ユーゼス=アルスタを捜しだし、俺のもとまで連れてきてくれ」

「……? 汝がそうであろう?」


 まだボケてんのかコイツは。


「くどいぞ。俺はユーゼス=アルスタじゃない。ないったらないんだ。偽物ですらない完全なる赤の他人、別個の存在だ。俺自身がそう言うんだから間違いない」

「いや、構成魔力から口調、性格まで全て同一だ。赤の他人であるはずがない。どうやら記憶を失っているようだな」

「バカな、俺が記憶を?」


 奴は「うむ」と確信をもっている風に答えた。マジでか?


「冒険王に会ったことがあるんだよな? そいつはトントロポロンだったか?」

「容姿は人間の男にしか見えなかったが、構成魔力を見ると複数のトントロポロンがくっつきあっているようであった」

「その構成魔力ってのは?」

「肉体とは別に、存在を構成する言葉の力のことだ。言理とも呼んでいるな。トントロポロンは他種族にはない『浮く』言理を持っていて、ユーゼスがそれを持っていたのをこの目で見た。間違いないぞ」

「そうなのか……」


 ここまで言われると、いよいよもって怪しくなってきたな。

 でも、俺たちは最近トント樹から生まれたわけで、記憶喪失で草原に放り出されていたわけではない。

 己の過去が実は凄腕の諜報員(ハウザー)だったり、名だたる宇宙海賊(コブラ)だったりっつー展開は好きだけど、俺たちは真っさらの命で生まれて今ここにいるわけだから、昔の英雄である余地がないんだよね。


「やっぱ俺は冒険王じゃないと思うぜ。だから改めて頼もう。どこかにいるそっくりさんを捜して連れてきておくれ。やってもらいたいことがあるんでな」

「ううむ、一応承知した。だが、やはり汝のようなフザけた存在が複数いるとは思えん。自らの辿った道をもう一度辿りなおして、記憶を戻す努力をした方が良かろう」

「そこまで頑なに言うんだったら、まあ待ってる間はヒマだし、そうして見るわ」


 冒険王の冒険譚なら吟遊詩人が吹聴している。どこどこに行ったとか度々聞いたことあるわ。よく覚えてないけど、誰かが知ってるだろ。

 俺はやれることはやる主義だから、己の冒険王疑惑を検証するためにも、冒険王の跡でも追ってみるかね。冒険王のマブダチ(キャカラノート)に会って確かめてもらうのも良さそうだ。


 情報が錯綜してきたが、なにはともあれ進展はあった。自力で捜して何年たっても何も見つからない未来が有り得たことを考えると、十分な成果だ。

 メインクエストは終わったし、姫さんズの元へ帰るか。コロコロ。


「――おっと帰る前にこれは聞いておこう。概念魔術って知ってる?」

「……語り得ぬものについては沈黙せざるを得んな」

「竜でも知らないんだな。じゃ、俺行くから。頑張って捜してくれよ!」

「…………」


 別れを告げ、俺たちは荒野を発った。

 背後から巨大な物体が飛び立っていく音を、耳がないのに耳にしながら、帰路の方角へコロコロ~~コロコロ~~。


 いやーそれにしても死闘だったなあ。おかげで今や炭で出来たボールと化してしまった。形状と色合いだけを言うならガンツになってしまった気分だ。まあ、たまにはこういうのも悪くもないかな。いや悪いわ。


 などと考えながらハリケーンウインドの方へ戻っていると、なんとビックリ。真っ暗な街道を松明を持って歩くシュさんの姿が見えた。

 歩ける程度には無事なようでホッと一安心だぜ。さあ合流しよう。


「おーーい!」

「む!?」


 シュさんは片手に猫剣ハッピーシャーラを構え、もう片手で松明の火をかざして周囲を見渡す。暗いから見えてねーのか。

 バッカ俺だよ警戒すんなっつの。フレンドリーに近づいて行く。


「なんだこやつは!」


 俺たちの姿が見えると急に剣を振りかざしてきた。何でだよ!

 ――しまった、俺たち今球じゃん。

 まあ説明はあとだ。とりあえず弾かせてもらうぞ――滑折歪曲!


 パァン! サクッ。

 聞き覚えある破裂音と共に、脳天に何か刺さる。馬鹿な……。


「ギョアアアア!!!」


 ザアアと体が崩れ去り炭の山が出来上がった。


「……一応燃やしておくか」


 シュさんは松明の火を俺たちにかざした。

 ボォッ、熾火があがる。パチ、パチ。

 「良く燃えるな」という彼の独り言が暗闇にこだまする。いや燃やすなや。


「暗闇を一人歩くのはやはり危ういか。胎盤が引っ込むまでここで大人しくしていよう……」


 シュさんは篝火(おれたち)の前に座り、俺たちの火を眺めながら夜が明けるのを待った。

 不思議な夜だった。

 急な夜の来訪で街道に取り残された旅人や冒険者たちが、篝火に魅かれやってきては、彼らもまたここで夜を明かす。


 次々と人が増え、彼らは口々に語り合う。白い光と炎を纏った何かを見たと。

 彼らはそれをピュクティエトと呼んだ。何でもその炎が放った音がそう聞こえたからだと。実際はプルギョアアアなのに空耳もいいとこだ。


 そしてその炎を神聖視する者までいた。いや、お前、その炎を今も篝火代わりに使ってんねんで。気付けやボケカスゥ。

 はあ、なんだか踏んだり蹴ったりだ。いや、燃えたり燃やされたり、か。

 ま、いいさ。今日はいろんなことが起きた。これもまたその内のひとつってだけだ。彼らの会話に耳を傾けながら、気長に明日を待とう。




 ――そして夜が明け。

 太陽が煌々と大地を照らした。

 人々はそれぞれの向かう先へ発っていき、そして俺もまた――


 コロコロ、コロコロと、行くべき道へと転がっていく。

第四章、完


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