4・決着
「図りおったな!」
バヂヂヂヂと紫電を弾けさせて吠える馬鹿。
騙されたことに気づくのが遅いわ。
「だが、未だ囚われている愚か者よりは先に行けるようだ」
ラスカリオンはそう言うと、バチズバビュンと閃光を放ち発っていった。
「ぐっ、チクショウ、チクショウーー!!!」
真っ暗闇の空に吠える。
奴の言う通り、俺たちは未だ皿に置かれた豆腐だ。
だがこちらとて、ただ手を拱いていたワケじゃない。
「このクソ納豆がァーー!!」
俺は勢いよく跳んだ。
プツッ、糸がちぎれる――よし、振り切った!
狙い通り、振り撒いていた汁気が効いて粘り気が無くなってくれたようだ。
高級納豆だったのか、糸の粘り気は想像以上にヤバかった。
闇雲に暴れるだけだっだら、未だ苦戦していただろう。
最善手は打てた。冷静な判断ができている……そんな俺が負けるはずがない。
「ほら、急げ急げ!」
皆には既に、この方法を教えてやっている。団員たちも次々と糸を振りほどき、遅い奴には片っ端から豆腐汁をぶっかけていく。ブシャア!
うぅ……ひからびるぅ。だが甲斐あって、全ての皿を外すことができた。
「よっしゃ! 合体! からの変形!」
即座にトントロポロランスになり、「ハァッ!」と雷化豆腐になると、バチズバビュンと光るのGO!
障害物の無い空へと飛翔し、闇夜に浮かぶ光点を追いかける。
「進め……進め……追いついてやる……! それだけじゃない……追い越して、奴に土をつけるんだ……!!」
遅れは死ぬ気で取り戻す。
だがいかんせん、向こうも必死だ。
常闇の中で雷光を纏っているとやたらと目立つので、俺たちが後ろから追ってきていることが分かるだろう。
こちらとて、奴がどれくらい先にいるのかが分かる。どれくらい絶望的な距離があるか、分かってしまう。普通に考えれば逆転することは不可能だろう。
されど、勝負は時の運だ。絶対は無い。か細い可能性だが、奴が途中で何か下手を打つかもしれない。
それに、天は俺に味方してくれている!
豆腐族の種族適性で、常闇フィールドでは能力に補正が入る。
奴と互角だった時より速くなっているのだ。
さらに、体から豆腐汁を絞ったことで体が軽くなり倍率ドン! 更に倍‼
「お前たち、もっとだ! もっと汁を出して軽くなるぞ!」
チョロロロロ……。電気を帯びて発光する汁を地上に降らす。
だがこれは諸刃の剣だった。
体から汁気が無くなっていき、雷がダイレクトに豆腐の身を焦がしてゆく。
ジュゥウウウ。
「アカン! 汁流すのストップや! これ以上はホンマにアカンで!」
指示によって漏出が止まる。しかし覆水盆に返らずである。依然として尋常ではない熱が体に蓄積してゆく。冗談抜きでヤバイ。今に発火するぞ!
ボッ!
一番ひからびてた俺、真っ先に発火。
「プルギョアアアアア!!!」
口から勝手に謎の悲鳴があがった。
絶叫している間にも火はドンドン体に広がっていく。
「水ゥ~、水ゥ~」
この世のものと思えない声。俺の声である。
今はレースの最中、寄り道は許されない。なので空中に水場を探すが、空中に有るはずが無かった。ならば湿度100パーセントの雲で鎮火せんと必死に雲を探すが、これもまた見つからない。何故だ! ぐっ、体が!!!
「おおおん、おおおおーん、ぷるっ、プルギョアアアアアーーー!!!」
ボアアッ!
俺、完全に炎上……‼
団員たちも次々とボッ、ボッ、と発火していく。
燃え盛る火は、雷化の白い光と相まって凄まじい輝きとなり、黒一色のはずの世界をまばゆく照らし出している。まるで太陽になってしまった気分だ。
などと思っている場合では、アッーーー!!!
ゴオオオオ――戦士団全員炎上してるぅ……。
「ギョアアア!! なんでもいい! 火を消せるモンは――ウッ」
その時、俺は見てしまったんだ。あれは!
炎揺らめく視界の先に、炎以上に揺らめきまくってる、あれはッ!!
「こんな時に……! 幻姿種!!」
夜の住人。この世界にいるガチのお化け、幻姿種。
一度体を潰され、荒野で再起を図っていたあの頃、夜な夜な俺たちの周りをしつこく徘徊してトラウマを植え付けていった、恐怖の象徴。
倒せる生物なら多少ホラーでも怖くないんだが、肉体がない奴らには何をやっても無駄で、ひたすら耐えるしかないんだ。コワイ! トラウマが……ウッ!
プルプル恐怖に震えて太陽が出るのを待つしか……いや今はレース中だから、少しだけ遅れるけど迂回しよう……。
刹那――轟轟と燃える音を耳にして――いや待てよと。
今の俺たちなら、と。
そうだ。今の俺たちはもはや太陽といっても過言ではない。
浄化の炎を身に纏っていることからも明らかだ。
つまり奴を滅することも可能……何を恐れることがあろうか。くわっ‼
「成仏せいやーー! 聖絶の神火ァアアア!!!」
カッコイイ必殺技名を叫びながら突撃する。
ウハハハハ、幻姿種、死ねえい!
――スッ
「なぁっ⁉」
手応え無し。てか、幻姿種じゃねーじゃねぇか!
ただの蜃気楼だったわ。紛らわし……ん?
「えっ」
「えっ」
俺は驚いた。
真ん前には首だけを振り向かせ、目を剥いて俺たちを見る、光る巨体があった。
「何故貴様が後ろにいる、ユーゼスアルスタッ!!!」
大音量で吠える天空竜ラスカリオン。
その問いの答えを、俺は持っていた。
「諦めなかったからさ……‼ ただ無我夢中で、そしたらいつの間にか追いついたってだけだ。既にお前の速度は程度が知れた。この勝負、貰ったぞ‼ フハハハハ――アッ、アッ、ぷるっ、プルギョアアアアア!!!」
「ッ⁉」
ゴオオオオオ!!!
体のほとんどが炭化するほど燃やされてしまってもなお、煉獄は豆腐の身を燃やし尽くす。
体の汁気はもうほとんど無く、バチィッ!と体にはしっていたはずの電気は今や、チチチ……と陰りを見せていた。
間もなくすればゴール。
だがこれ以上無理をすれば、あえなく焼死である。
それでも、それでも俺は……!!!
「みんなすまん。俺と一緒に死んでくれるか」
「「「ぷる……ぷる!!」」」
「……ありがとう」
零す涙も今や枯れ果て、漏らすのは感傷だけ。
為すべきは、勝利において他は無い。
いま一度己に問おう。覚悟はいいか?
フ、答えるまでもないぜ!
「――雷光吸収!」
「これは、貴様ッ」
俺はフォースを手繰り、ラスカリオンの纏う雷を一部吸収。
陰りを見せていた雷光豆腐が絶頂期まで戻る。
だが汁気の無い今、それは己が身にさらなる負担を強いた。
発火点はとうに超過し、全てを燃やし尽くす。最早炭化していない部分は無い。
「全てを賭ける……全てを賭けて、俺たちは勝つ!!!」
「ハッ、グハハ、それでいい……それでこそ――!!!」
そして、地面の抉れた荒野が見えた。俺たちがなぶられ、奴が抉った地面。
すなわち――ゴール地点!!
「うおおおおおおお!!!!」
「グルゥアアアアアア!!!!」
プス……プス……。
地面には、炭でしかない物体が煙を上げている。
俺たちである。
「我の負けか……」
「…………」
「聞いているのかユーゼス=アルスタ」
「…………」
「――そうか。逝ったか……」
「…………」
「逝ったら逝ったで寂しくなるな。良い好敵手であった」
死にはしたが逝ってねぇよウンコ。
話す口すら無ぇんだっつの。
あーあ、今度はどれくらい時間がかかるか……はぁ……。
とりあえず言っとく。
WINNER――――マロゾロンド……!!!




