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4・観戦

 横、失礼するぜ!


莫迦ばかな――莫迦ばかな!」


 巨竜は俺たちの姿を認めると、驚愕を露わにした。

 追いつかれないだろうと思って手を抜いていたらしい――グンと速度が上がり、俺たちの追い越しが阻止される。チッ!


 スピードは互角か。

 サイズに大分差はあるものの、発光する飛行生物たちが横並びになった。


「我の秘術まで盗みおったか化け物めッ! フザけるのも大概に、グラァ!!」


 語尾もおぼつかぬほどの激昂。からのショルダータックル。

 並走する俺たちに向かって、バチバチと紫電弾ける巨体が迫る!


 グオオッと急接近する大質量だったが、そこは雷豆腐トウフニングと化した俺たち、同じ分だけバチチッと横にずれて躱す。へっ!


「そないな妨害じゃワイは止まらへんで!」


 無意識に出た関西弁――己が身をさいなみつつあるキバオウ化現象。

 決着が長引けば、戻れないところまでいってしまうだろう。


 急げ、マロゾロンド……!!!


「うおおおおお!!!」

「GRUOOOOO!!!」


 速さは依然互角。ここまで来たら意地と気迫が物を言う。

 マイクロ秒でも早く相手の先を行かんと、全身全霊で疾駆する!


 そしてステージは一転、海から大地へと変わろうとしていた――

 ――そんな時である。

 

「なんや⁉」

「――む?」


 生けるフォースがざわついている。

 何だ、この異様な……何にざわついている?

 上、大気圏? いや、もっと遠い――宇宙。


「界竜ファーゾナー……善戦しとるんか?!」

「おお、ファーゾナー様……」


 バカみたいに距離があるのに手を伸ばせば届きそうな、星よりも大きい化け物たち。超多頭獣パンゲオンと界竜ファーゾナーの戦い。

 果敢に挑んでは敗北が常であったはずのファーゾナーが、今この時、パンゲオンの首の一つを半ばまで断ち切っていた。

 これは珍しいどころか初めてのことなんじゃないか? 善戦したとかそういった話は見たことも聞いたこともない。無数にある首の一つとはいえ、もし完全に断ち切ることができれば、人類史に残るビッグニュースになるだろう。


 ああ、世界中の生物たち皆これを見てるのか。だからざわついてるのね。

 まあ俺たちに見てるヒマは無ぇ。さあ、レースに集中だ!


「ま、待て!」

「なんや、ラスカリオンはん」

「見ようではないか。なあ?」


 なあじゃねぇよウンコ。

 いやでも、キバオウ化現象が深刻だしインターバルをおくのは有りかもな。

 急いては事を仕損じるとも言いますし。


「……しゃあないのォ。見終わったら再開やで!」

「無論だ」


 デッドヒートどころか、レースの合間に休憩することになろうとは。

 両者、光るのをやめ、スイ、ドスーン! 大地に腰を下ろした。


「ノリで下りちゃったけど、地べたで観戦ってのはちょっとなあ……」

「む。ユーゼス=アルスタ、椅子を作ってやろう」

「ユーゼスじゃないけど、そうだな。椅子じゃなくて皿を三十一枚頼めるか」

「承知した」


 待つこと二十秒。奴は近くの海から大量の海水を浮遊させて持ち帰ってきた。

 そして、バラバラになって待機していた豆腐戦士一丁一丁の前に、黒くて硬い皿を形成して置いていく。気が利くゥ!

 俺たちは次々とその皿の上にのっていった。


 うむうむ、これは良い観客席だな。


「感謝するぜ」

「なに、気にするでない」


 そう言ったラスカリオンは、大量に余った海水でチョコンとした台座を作ると、その上にケツをおいた。いや、あんたの体重じゃ……。


 バキバキバキ、バキィッ!


 案の定、台座は重さに耐えきれず壊れ、奴は超重量の尻もちをついた。

 ドッスゥウウウン……‼

 大地が揺れ、皿の上の豆腐たちもぷるぷると揺れる。


 なんだこの


「今のはもしかして……笑いをとろうと?」

「違うわッ!」


 違うのか。じゃあ俺たちに合わせて座ろうとでもしたんかね?


「気を遣わなくていいから、ほら、大地があんたの椅子さ。さっさと観戦しよう」

「ああ……うむ」


 そして俺たちは、巨大怪獣の対決を観戦しはじめる。


 その戦闘風景は、まさに別世界だった。

 大スペクタクル映画に勝るとも劣らない迫力がそこにはあった。


 白い狐のようなフォルムをしたファーゾナーは、宇宙空間をまるで大地のようにその四肢で駆けてゆく。体から離れたところには自在に動く八つの虚空があり、そこから伸びている八本八種の竜の腕が敵の攻撃を防いでいる。


 一方のパンゲオンは鈍重そのもので、むしろ動いているかすら怪しい。

 それはパンゲオンの大きさが、ファーゾナーの何倍もあるせいだろうか。

 されど無数に生えている首は別なようで、ファーゾナーの動きに合わせて俊敏に向きを変え、それぞれの頭が多種多様な手段で攻撃を放っていく。


 なかでも際立つのは、邪視や魔術などの神秘だ。

 どういった効果があるのか不明だが、ファーゾナーの後を追うように黒い球が現れては消えたり、網目に交差する正方形の超デカイ図像が輝いていたりする。

 それらは幾万光年遠くからでも見える大技に過ぎず、もっと近づけばもっとたくさんの術の応酬があるかもしれなかった。

 まあ応酬といっても、いつもファーゾナーの防戦一方なんだが。


 でも、今回は違う。何故かは分からないが攻勢に回れている……!

 そして何分か経った頃――。


「ファーゾナー様!」

「いけ、そこだ!!」

「「千切れたッ!!」」


 ファーゾナー本体による手刀が、半ばまで取れていた首を完全に切断した。

 切断するやいなや、虚空より来たる二手でその素っ首をガシッと抱え込むと、ではこれまでと逃げ始める。首、持ち帰る気なのか。

 それを黙って見ているパンゲオンではなかった。ファーゾナーの後背めがけ、物理や神秘などの多彩な術で追い打つ! 界竜はそれをかいくぐるかいくぐる!


 しかしのけぞった頭に重力子放射線(ビーム)が当たった。


「「ああっ」」


 ジュッとファーゾナーの頭が消え去り、付け根は溶解。

 グラッと上体が揺れ、死んだ――かと思いきや、ファーゾナーまだ動く!


 長い尻尾を自らの喉にズブッと突き刺し、頭部の代わりと言わんばかりに首先から尾を出す。そしてその尾は瞬く間に無くなったはずの頭へと変化すると、ズブッ、喉元から 先の欠けた尻尾が引き抜かれる。


 肉体の移植と再構成か……エコだなあ。


 その後も何度か窮地はあったが、なんとか射程の外まで逃げ切ったのだった。


 それを見て「オオオオオオ!!!」と大声で喝采をあげるラスカリオン。

 負け続きの主人公が長年の努力の末に、遂に強敵の一角を打倒した、的なカタルシスがあるんだろうね。俺はこの世界にとって新参だから、熱いプロレスを見終えたような所感しかないのが寂しいぜ。


「ところであの首、持ち帰ってどうすんだ?」

「八王竜のどなたかが、ファーゾナー様と同様に紀源を辿るのだ」

「何それ」

「……フン、知らぬとは幸福なことだな。我々の存在がいかに虚ろで実体のないものか、それが分からない者に話す意味はない」

「哲学的な話か? 分かる分かる。で、首は物理的にどう使うの?」

「…………」

「シカトかよ」


 そんな会話をしていた俺たちは、いまだ宇宙そらを見つめていた。

 ファーゾナーが投球スタイルをとって、首をこの大地へと投げようとしているからだ。


「あれ、ぶつけられたら俺たち消滅しない?」

「衝突する前にメルトバーズ殿が受け取るだろう」


 焔竜メルトバーズ――八王竜の一体だっけか。

 などと考えていると、ファーゾナー、投げた!


 首がまっすぐこちらへ向かってくる――ドガッ!――途中で何かに衝突、軌道がグイッと逸れた!

 すると、ズズズっといきなり背景が動き出して、世界を照らす日差しが急速に狭まってゆく。

 た、胎盤にぶつけちゃったのかよ……。


 ぶつけられたクラインフィニティは何を思ったのか、まだ夜にはほど遠いのにズズズ、ズズズと天蓋を閉じていく。

 大地を包む宇宙と遥か遠くの宇宙が遮断されていく中、大地とは別方向に流星の如く駆け抜ける首がのぞき見えて。

 それをあたふたと追いかけるファーゾナーを見納めに、常闇の世界が訪れた。


 なんぞこれ。


「ご、ごほん。では、早速続きと――」


 ――いこうか、と、ラスカリオンが言葉を結ぶのに被せて、


「マロゾゲイン!」


 俺は合体シグナルを出した!


 フッ、準備も整ってない段階で再開の合図を切るとは馬鹿な奴め。

 テメーが雷化(マギアエレベア)に時間かけてる間に合体して先いくぜ!


 奴もそれなりに考えていたのだろう、バラバラに砕け散った台座の残骸が瞬時に海水に戻って蒸発し、巨体の頭上に雲が生成されようとしている。

 しかし、それより早く俺のもとに集まる団員たち。


 速さが同じなら、スタートダッシュを制した者が勝負を制す!

 この勝負、貰った!!




 ――――カカンカンカン! 硬質な音が響き合う。


「は?」


 くっつきあおうとしたら弾かれ、合体失敗。

 こっ、これは!!


「皿がくっついて離れないだとォーーー!!??」


 皿と触れ合っている足元に途轍もない粘り気が⁉


「グハッ、グハハッ、グハハハハッ!」


 皿と一体になっている俺たちを嘲笑う声。


「仕込んでおいたのだ……納豆の糸を! 自ら罠にかかりにきおって、『納豆の糸に絡まる納豆』とはまさにこのことだなァーー!!!」


 ぐっ、上手いこと言いやがって……!

 しかし俺も笑い返す。


「へっ! 確かに驚いたけどよ、罠にかかったのはテメーも同じ! まだ気づいてないのかよ」

「な……に」


 ラスカリオンは周囲を検める。

 しかし、一向に罠を発見できない。

 そりゃそうだ。罠なんてないからな。


 今の内だ! 納豆の糸を振りほどけーーッ‼

次回決着

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