4・小休止
「ここは……そうか、奈落!」
言っている場合ではない。
気を失った直後、俺は内面世界に落ちていた。現在進行形で落下中だ。
うわあ~~落ちてるゥ~~ヒィ~~!
しかしなぜか落下先にトランポリンが設置してあり、ポヨヨ~ン、再浮上。
俺、覚醒。
「(ただいま!)」
「(ぷる!? ぷる!)」
やはり豆腐に寝るという体機能は備わっていないらしい。己を見つめなおす時間すら与えられなかったわ。普通ああいう場合だと、違う側面を持った自分と対峙して今後の成長のきっかけを得られるもんだと思っていたが……。
なにはともあれ、一度気を失ったことで冷静になれた。
そうだ。コイツラ――グレーターワンとグレーターセカンドは使える。
なんで俺たちと一緒にいたがるのかは不明だが逃がす手は無いな。
コメディ映画に出てきそうなおバカなオッサンたちにしか見えないコイツラだが、驚くべきことにSランク冒険者だ。騎士どもに劣らぬ働きが見込めるし、あと何より、Sランクが持っていると思しき魔術情報はかなり魅力的といえる。
一人だけDランクのワンダーフォーについては……まあいい、ついでだついで。
「リロイ三兄弟、採用!」
「「「「やったあーー‼」」」」
三兄弟とアールちゃんがワーワーと喝采をあげた。
それを見る他の者たちは『関わると頭がおかしくなりそうだ』とでも言わんばかりに完全放置をつらぬいていた。仲良くしてくれよな。ったく。
「……ん、どした?」
シュさんがこちらをジッと見ていたので問いかける。
「ああいや、貴様がいかにして殿下の信頼を得たのか気になってな」
「ああ、それか」
俺は姫さんを見た。姫さんは静かに首を横に振った。
フム。ここでマロゾロンドの正体をバラすのもアリかと思ったが、姫さんは反対のようだ。となれば、シュさんは答弁で説き伏せるしかないが……なぁに、簡単なことだ。素直に真実を言えばいいのだから。
「それはだね、このマロゾロンドがトントロポロロンズを愛しているからだよ」
「そういうことだったか……」
シュさんは多少呆れてはいるようだが納得してくれたみたいだ。
ほかの騎士たちも「なるほどなぁ」といった顔をしていた。
グレーターワンはやれやれと肩をすくめ、セカンドは両腕を組んでウンウン頷き、ワンダーフォーは腕をくるくる回して「ウ~~ン・ワンダフォー!」と持ち芸の練習をしていた。
…………。
さて、これで全員の自己紹介は終わった。
ワンダーフォーの不意打ちによる後遺症で数人の名前が記憶から吹っ飛んじまったみたいだが、聞きなおすのはめんどくさいな。各人の見せ場回がきたらまた覚えることにしよう。それまでは「オイ」とか「アンタ」とかで凌ぎきるつもりだ。
よしよし。掌握具合はまずまずといったところかな。
フェイズを次に移そう。
豆源郷を築くためのメインミッション――《冒険王》の捜索にな。
冒険王とは、数々の偉業を打ち立てた冒険者の中の冒険者。皆の憧れる英雄だ。活躍した時代はかなり昔のようで、今の年齢だと天寿を全うしていてもおかしくないはずなのだが、噂によると老いる気配が無くピンピンしているだとか。
まあそんなプロフィールはどうでもいい。俺たちが欲するのはその身柄だ。
かつて獅子王キャカラノートは冒険王の導きで【賢者の岩】に入り、大いなる知恵を授かったとかなんとか言われてるそうだが、その再現のために必要なのだ。
原理は分からんが、【賢者の岩】とかいう場所の入口を開けるのは冒険王しか無理らしいからね。シュさんが言うには、ローエンの万物切断チート剣でもこじあけられなかったそうだし、なにか神秘が働いているに違いない。
姫さんを岩の中に入場させるには、彼を捜しだすほかに道はないというワケだ。
俺は皆に訊ねた。
「この中で冒険王に一番詳しいのは誰だ?」
「俺だな」「いや普通に俺だろ」
「ワンかセカンド、どちらかと言われればワンだな」
「フフン」「フォー、おまえーッ!」
「うわなにをするやめっ、イテっ、おいワン見てないで止めてくれ!」
「暴れるなセカーーどわっ、このッ、俺に歯向かうか愚弟‼」
三兄弟はポコスカじゃれ合いを始めたので無視することにした。
「ドレイク殿じゃないか?」
シュさんがイク兄さんを見て言った。イク兄さんはそれに頷く。
「そうなるか。情報の取りまとめは私がしていたからな」
元隊長はちゃんと隊長していたらしいな。良いことだ。
「イク兄さん、聞かせてくれ。冒険王の所在を掴むにはどうしたらいいと思う?」
「待った。イク兄さんとは私のことか?」
「そうだよ。なんというか、しっくりくると思って。気に障ったか?」
「……いいや? かまわないさ。呼ばれるほうはあまりしっくりこないが」
「そっか。で、イク兄さん。冒険王をとっ捕まえるには?」
「それは……今までどおり、目撃情報をたよりに足取りを追うしかないだろう。ただ、冒険王はひとところに留まらないようで、急いで駆け付けても間に合わないこともある。今回のように」
ハリケーンウインドには3ヶ月前にいたって言ってたな。そりゃあ3ヶ月前も経ってたらいなくなるわ。
いや待てよ? 冒険王は何が目的であっちこっちに移動してるんだ?
「冒険王が徘徊する理由は?」
「……失ったものを取り戻すためだと陛下はおっしゃっていた」
獅子王が言っていたのか。
獅子王と冒険王がマブダチってのは有名な話だ。この情報は信頼できる。
「失ったものが何だか分かるか?」
それを先に見つけられれば冒険王ホイホイとして活用できそうだ。
「いや、それについては陛下も口を固く閉ざしておられた」
「う~む。そうか」
じゃあ獅子王のところに行って無理やり口を開かせるべきだな。
よし早速行こう。いや待て。聞いてもどうしようもないパターンも有り得る。失ったものは己の心、とか形のないものだったりな。
やはり本人を捜す方法を考えた方が早いか?
「う~む」
その時だった。
「ふわ~~ぁ、あむあむ」
アールちゃんがあくびした。あくびしたあと口をもにゃもにゃさせ、
まぶたはトロンと落ちそうになっている。
そういえばハイダルマリクに行って帰っての強行軍したんだっけか。
人間は疲れたら眠る生き物だったな。休ませよう。俺も時間が欲しい。
「みんな。今日は休んでよろしい。俺は明朝までに冒険王捜索の完璧なプランを練ってくる。以上! 解散!」
そういうわけで、各自 自由時間となった。
休む場所がどうの、部屋割りがどうのという話になったが、細かいことはイク兄さんに任せた。
俺は俺で適当にマロゾロンドの部屋を確保すると、なんでも切れる魔法の豆腐ハンドで扉の表面にズズズっと『まろぞろんどのへや』と彫った。なかなか味がでている。
「ああっ、何てことを!」
シュさんに怒られちまったが、これは必要な儀式だった。仕方なかったんだ。
さあてと、自由になったことだしちょっくらシャバの空気を吸いに外へ――
「マロゾロンド」
――行こうとしたら呼び止められた。
「どうした? ライオネス」
「少し――いや、じっくり話がしたい」
姫さんの部屋にお呼ばれした。今夜は女子会よ!




