4・知らない天丼
横一列に並ばせた騎士どもに、俺は高らかに宣言した。
「これより皆には自己紹介をしてもらう! ハイダルマリクでの騎士階級と名前、自分といえばコレだという特徴を俺に聞かせて欲しい!」
ドレイク氏から隊長代理の椅子を奪い、TDD(隊長代理代理)となった俺を見る皆の目はまだ冷たい。これは相互理解が深まっていないために起きた、極々自然な成り行きだろう。ならば理解しあうまでだと場を設けることにしたのだ。
「さあ、左から順にどうぞ!」
「私か」
精悍な顔つきの好青年というには大人びすぎている男、我らがシュさんからだ。
「第十位シュテュルム・シュトゥットバルド。長所は動物に好かれることだ」
協力的なのかそうでないのか、動物に好かれるなどと凡庸なことを言いだしたシュさん。
俺はリーダーとして場を温めるべく、これを持ち上げてやらなくては。
「よく聞く話だと、心が綺麗な人に動物は懐くって言うよな。シュさんは心が綺麗なんだろうな~」
しかし、俺の心遣いはたやすく裏切られる。
「そのような迷信じみた話ではない。シュトゥットバルド家の前身であるバルド部族では、動物から愛される特殊な魔力を持つ子供が稀に生まれてくる。幸運なことに私もその魔力を持って生まれてきたのだ。カリドゥ・ウドゥドゥもまた、この魔力があればこそ従ってくれている」
真面目か。
当初の予定では「照れるからよせ」と頬を赤らめるシュさん、それを俺がおちょくる感じで、それを見たみんなの心に温かい風が吹く……はずだったのにこれはちょっと想定外だ。
だが……まだ活路はある!
「そんな体に生んでくれた親御さんに感謝だな~」
「ああ……そうだな」
なんとかシュさんが親に感謝するというハートフルストーリーに着地したか。
皆の俺を見る目が心なしか和らいできた気がする。この調子だ。
「はい次のかた」
「ピスタレッロだ」
「…………」
「…………」
だけ。セリフこれだけぇ。無口キャラか。これは手腕が問われるな。
無理に自己紹介を迫るのはつたない。だけどもう少し会話を交わしておかねば。
俺のフレンドリーさを随時アピールしていきたいところだ。不和による内部崩壊だけは避けねばならんからな……豆源郷のために。
「模擬戦ではカウンターしてきたり俺の拳を躱しかけたりと、強かった覚えがあるぞ。何位なんだ?」
「十四」
「へえ……」
第十四位。思ったより低い。シュさんが十で、ラリルレッロが十四?
コイツはシュさんより強かったはず。それでも低いのは、シュさんがウドゥドゥ込みで十位だからかもしれない。
ふむ、逆に考えたら九位以上はこのウドゥドゥっつー巨大生物を打倒しうる存在ってことになるな。人間やめてるやんけ。今後敵対した場合は要注意だな。
それはさておき、彼との会話はこれで切り上げよう。「何位ですか」「〇位です」というアホでも成立する問答をすることで、とりあえず会話のキャッチボールをすることができた。これ以上踏み込むのは時間をかけてからにしよう。
これが豆腐の冴えたやりかた。
「はい次のかた」
「第十八位ドレイクだ。指揮に長けていると自負している。統率で困ったことがあったら相談に乗ろう」
ううっ、隊長の座を追われたというのにええ人やあ。
俺の心に温かい風が吹いた。
「機会があったら頼らせてもらおうかな! はい次!」
「オレは――いや、オレッチは第九十六位《碓詰》のティーゲンさ! オレッチの得意な武器は――」
「待った」
俺はストップを出した。
「お前今あからさまにキャラつくっただろ。オレッチの一人称減点。分かりにくい通り名も減点。あと一回減点したら退場だから注意したまえよ」
時には厳しい一面を見せることも必要だ。
甘ったれたリーダーに人はついてこないのである。
「お、オレの得意な武器はハンマーです……」
「は、ハンマー⁉」
俺はおおげさに驚いた。
「ハンマーが得意なのか⁉ 凄いな‼」
「えっ、そうですか? えへへ」
ハンマーの凄さなんて全く知らんが、めっちゃ褒めたった。
たったそれだけで、男は先ほどの委縮っぷりが嘘のように笑顔だ。
フフフ……落として上げる、これぞ人心掌握術よ!
「ハンマー最高! はい次ィ!」
「俺は第九十位、《風》のオイエンハルだ。お前面白いな」
「お前は面白くないから減点。……って、ん? 誰だお前。よく見たら他の奴らも……模擬戦の時と顔ぶれが変わっているぞ⁉」
よく見なくても顔ぶれがだいぶ変わっていた。
魔剣メテスカテスの遣い手ローエンや記憶にある顔がおらず、見知らぬ別人たちが並んでいる。先ほどのハンマー男も初めてみる顔だった。
「マロゾロンド。すまぬ、説明しておらなんだな」
どうやら姫さんが説明してくれるみたいだ。
「重傷を負った騎士たちと取り換えたのだ。そこのアールに命じてな」
「取り換えた?」
姫さんの指し示すアールなる人物を見たが、女の子にしか見えない顔の小柄で細っちい奴だった。女の子にしか見えないというか、女の子だ。中学生くらいの。
この体躯――思い出した。模擬戦の時に放置してしまった奴に違いない。
で、取り換えたって何なんです?
「【扉】は知っておるな? アールは【扉】を知覚できる――それだけでなく、望む行先の【扉】を探知したり維持する術も持っておる。それを以って重傷者とともにハイダルマリクに帰還させ、暇な騎士たちを持ってこさせたのだ」
「ほぇ~。え、そうなの? アールちゃん?」
本人に確認してみた。
「え、あ、ハイですハイです。たまたますぐ近くの場所にハイダルマリクと結ばれた【扉】があったので、それをヒメサマに言ったら換えてこいと命じられたです。丁度さっき帰ってきたところなのですよ。やり遂げました。ブイ」
Vサインが光った。マジかよすげえな。
しっかし早速希少なワープ空間見える人とご対面できるとは。マイカさんから話聞いたばかりだってのにタイムリーなこった。
このアールちゃんがどんな子なのか、私、気になります!
「順番すっとばしてアールちゃん。自己紹介をどうぞ」
「マグドール孤児院から来ました、アールなのです。【扉】で遊んでたら事故って、よく分からないところに飛ばされたので、誰か通らないかなあと街道で寝てたらヒメサマに拾われて、従士という名の雑用騎士になったです。趣味は【扉】に指をズボズボすることです」
「はい、良い自己紹介でした。ただ、女の子が指をズボズボとか言わないように」
「え、なんでです?」
「……」
ウソだろう? 俺が説明しなきゃならないのか? おいおい、マジかよ。親御さんはどういう教育してんだ? いや、なんたら孤児院出身だって言ってたな。しかたねぇ俺が教育してやっか。
「指をズボズボってのはな、『お前を殺す』って意味だからだ」
「へえ~」
俺はヒヨった。ピュアな少女に向かって『ズボズボってのはね、男のあれとおんなのあれがあれするのを想起させる言葉なんだよ』などと、どうして言えようか。
しかしそれが功を奏したようで、皆の俺を見る目がまた一段と柔らかくなった。
やったぜ!
「じゃあ順番戻して……風の人、また自己紹介お願いね」
「またかよ。第九十位《風》のオイエンハル。得意なこととかはパッと思いつかないな。少し手先が器用なくらいか。あー、お前がスタボロにしてくれたジジイ――ローエン卿は俺の師匠で、お前の技を盗めと言われて来た。後で技みせてくれ」
ほー、サッパリした兄ちゃんやんけ。
「正直でよろしい。あとでね。はい次!」
「グレーターワン!」
「グレーターセカンド!」
「ワンダーフォー!」
「「「我らリロイ三兄弟!!!」」」
……す、凄いのがきたな。微妙に統一感が無いのがイラっとくる。
おかげで一発で覚えられなかったわ。
「スマン、もう一回言ってくれる?」
コクリ、三兄弟は頷いた。
「グレーターワン!」
「グレーターセカンド!」
「ワンダーフォー!」
「「「我らリロイ三兄弟!!!」」」
ええと、グレーターワンにグレーターセカンド……なんでツーじゃなくてセカンドなんだよ。それで、無駄に数字一つ飛んでしかもグレーターですらないワンダーフォーだったか。ややこしいな。
あー……クソ。何三兄弟だっけか。
「すまんあと一回」
「次で覚えてくれよ?」
偉そうだなワンダーフォー。
「グレーターワン!」
「グレーターセカンド!」
「ワンダーフォー!」
「「「我らリロイ三兄弟!!!」」」
リロイ……そうか、リロイ三兄弟だったな。
「覚えたか?」
うるせえなワンダーフォー。お前だけは忘れられそうにないわ。
「覚えたけどよ……あんたら本当に騎士か? 格好が野生的だな。騎士階級は?」
「いや」「俺たちは」「騎士じゃ」「「「無ーい」」」
「……」
『無ーい』のとこ、三人ともおどけた顔しやがって最高にイラっときた。
「じゃあなんでここにいるの?」
俺は三兄弟に問いかけたが、答えたのはアールちゃんだった。
「あ、それはですねー、連れてこられる騎士が全然いなかったので、数合わせに街道にいた暇そうな彼らを拾ってきたですよ」
「捨ててこい‼」
アール「ええっ」
ワン「それは」
セカンド「困る」
フォー「つまり」
「「「「「困る」」」です!」
困ってるのは俺だよクソが‼
今は信頼構築パートなのによ、勝手にギャグパートに運びやがって!
俺はお笑い集団を率いるつもりはねぇぞ!
「あのな、俺たちはなんだかヤバイ奴らに狙われてんだ。ただの賑やかしじゃ足手まといなんだよ」
「これは」
「失敬」
「これを」
「「「見てくれ」」」
三兄弟がスッと何かを差し出した。
これは――――ギルドカード!
『グレーターワン ランクS』
『グレーターセカンド ランクS』
『イテマエ ランクD』
お、俺はどこからツッコめば……。
「わ、ワンダーフォー、お前、本名イテマエじゃねぇか……」
「oh! ワンダフォー!」
「――」
ワンダーフォーのあんまりな返しは俺のキャパシティを一瞬で振り切りパンクさせた。
俺、気絶。
「「「(ぷるーーー!??)」」」




