表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/43

幕間・言語魔術師メアレン/ミアスカ流脚撃術のミアスカ=ミアスカ

 深夜――リヨン王宮・王の私室


「おかえりなさい。あの愚妹は――ライオネスはどうなりました?」


 ニコニコ顔で成果を聞いてきた彼は、赤髪の青年クフィル・リヨン――この都市国家リヨンの王。髪色と仔獅子クフィルあざなからも分かるとおり獅子王の子だ。


 今回このリヨンのために、彼の妹をおどしつけに向かったわけだが……。


「ごめん失敗した」

「えっ⁉」


 私の成功を疑っていなかったのだろう。彼は心底驚いている様子だ。


「メアレンほどの魔術師でも失敗したりするんですね……おっと、嫌味じゃないですよ。純粋な驚きゆえの発言です」


 魔術師への偏見を含んだ物言いに私は肩をすくめる。

 魔術師といえど万能の存在じゃない。人よりできることがほんの少し多いってだけだ。過度な期待を向けてくるのはホント勘弁してほしい。


「それで、何がどうして失敗したんです?」

「護衛の九十九騎士が手負いだったから、リヨンの兵たちを使って襲撃という形をとったんだけど。思いもよらないことがあってね」

「思いもよらないこと?」

「逃げてった。こんな感じで」


 説明するより見せた方が早いと、室内を照らす燭台を一瞬で他の位置に移動させる。私と彼を照らす光源の向きがパッと変わり、リヨンは燭台が転移したことに気づいた。


「凄い! 一瞬で移動した! でも、これをライオネスの護衛が? 九十九騎士の能力は把握していたつもりだったけれど魔術師が紛れていたなんて」

「多分ね」

「多分とは煮え切らない言い方ですね」

「不可解なことがひとつあって。さっき見せた【転移】の魔術にはたくさんの制限があるの。その内のひとつに25クローム(キログラム)未満の物しか参照・置換できないというのがあって、要するに大人を転移させることはできない。これは絶対則だから、いかに魔術式が完璧だろうと無理なはずなんだけど……」


 それに、なんだか消え方が【転移】っぽくなかったような気がする。どちらかといえば【扉】に入っていく人の消え方に近かったけど、あんな都合良く【扉】が出現なんてありえないし。一体どうやったのだろうか。


「よく分からないけど消えるように逃げていったんですね。でも、逃げた先を追う手はあったんじゃ?」

「逃げ込まれた先が第十位の【使い魔】の所だったから。危なそうと思って諦めちゃった」

「シュテュルム・シュトゥッドバルドの【使い魔】――飛来神群の邪視生物でしたっけ。魔術師でも邪視には敵わない?」

「まあ今回は、うん。眼球を潰したり視界を操ってやればいけるけど、あいにくとあの怪物は多眼だから手が追いつかなくて」


 あと、対象の目が大きすぎるという要因もある。

 【遠握ファーグラスプ】の掌握範囲を拡大すればいいのだが、成人男性並みのサイズともなると失敗する蓋然性が増してしまう。あの邪視生物はあれで知能が高いだろうから、万にひとつ失敗すれば即座に居場所が特定され、邪視の視線が飛んでくる。対峙するには非常にリスキーだ。


 目の前の彼から「客人である貴方が危険をおかすのは厳禁です」と言われていたため、素直に従って撤退を選んだのだが。当の彼はそれを忘れているのか、こんなことを言いだす。


「耐えるという手は? 父は邪視を受けたことがあるそうですが、気持ち悪いくらいだって言っていましたよ」

「無理無理! 私なんて特に無理。自分への強固な確信を持ってないと一瞬で圧殺されるって。気持ち悪い程度で済ませちゃうなんてリヨンの父君くらいだから」

「そうなんです? じゃあ、息子の僕はどうかな。耐えられると思いますか?」

「無理」

「即答⁉ 酷いな、傷つきました」


 ハッハと彼は笑った。全く傷ついているようには見えない。


「傷ついたから癒してください、メアレン」


 彼は私の体に寄り添うと、グッと密着してこの体を堪能してくる。

 見かけに似合わずたくましい彼の胸が、私の小さくない胸を押し潰す。


「ちょっと!」

「……なにはともあれ、無事に帰ってきてくれて嬉しいですよ」


 私が期待していた言葉をここで出すか。卑怯な。


「あのねぇ。何度も言うけど、私をいくつだと思ってるの」

「どう見ても僕と同じくらいですね」

「肉体はね。でも実際は――」

「はいはい、そうですね。でも僕は気にしませんよ。だからこれ以上野暮なことは言わないで。ね?」


 はあ……。

 まあ、リヨンが望んでいるのなら、拒絶する理由はない。

 今宵は流されるまま流されてやろう。


 このあと私は、年甲斐もなく乱れることとなった。




 翌日。


「昨晩帰ってきたばかりでもう行く気ですか?」

「うん。元々借りた兵たちを返しにきただけだし」

「別に義務じゃないんですよ? 仮に行くにしても、そんなに急がなくても大丈夫のはずです。仔獅子連合が総力を挙げて捜してもユーゼス=アルスタを見つけ出せなかったんだ。ライオネスがすぐに見つけられるとは思えない」


 仔獅子連合――ハイダルマリクの勢力圏にある全ての都市国家は獅子王の息子たちが王についている。リヨンと彼の兄弟たちが総力を挙げたというなら、捜索は本大陸全土に及んでいることだろう。

 それでも駄目だったのだ。確かに、そう簡単に見つけ出せるとは思わない。

 でも。


「妹さんが行動する限り、リヨンのお兄さんたちは殺そうとするでしょ? 殺される前に止めてあげなくちゃ」

「別に愚妹が殺されても困りませんよ」

「嘘。心配してばかりなくせに。だから私が憂いを払いにいったげるの。他ならぬ私のエゴでね」

「いやしかし――」

「ああもう黙って! リヨンがすべきは私を穏やかに見送ることだけ!」

「ハハ、僕の意見なんか聞いちゃいない。……危険は冒さないように。できますね?」


 私は大きく首肯する。


「元守護者に任せなさい」


 そして私はこの国を出立した。

 愚妹と罵りつつも妹の命を気にかけるリヨンのため、この国に身を置かせてもらった者として出来る限りの恩は返してやろう。

 クフィル・ライオネスを改心させ、全てを穏便に終わらせてみせる。




***(視点変更)




 ――シンハ王城・謁見の間


「ミアスカ流脚撃術 初代当主グアランが長子、ミアスカ=ミアスカと申します」

おもてをあげよ」

「はっ」

「ふーむ、本当に女だったとは驚いたな。少し幼いが、中々綺麗なつらをしておる。どうだ、オマエもオレの女にならんか? 極上の暮らしを保障するぞ」

「さえずるなゴミめが。今 蹴り殺してやる」


 ――と言いたいところだが、ここは堪えなくてはな。


「大変光栄なお申し出ですが、(これ)(私)の望みは別にありますれば」

「さようか。勿体ないことをする。気が変わったらいつでも言え」


 この爺――都市国家シンハの王クフィル・シンハ、いざ会ってみれば獅子王キャカラノートの実子とはとても思えん愚物だ。豚が豪奢な衣装で着飾っているようにしか見えん。

 齢100を超えて誰よりも雄々しく、生命力の溢れきっている獅子王の肉体に比べ、あまりにも、あまりにも酷すぎる醜体。いや、比べるのもおこがましい。

 肉欲に溺れた心体の有り様はまさしく老害の極みといえよう。

 ああ、存在を許容しがたい……蹴り殺したい。だが、堪えよ。


「それで、オレに何用だ? さっさと用件をいえ」

「はっ。陛下ならびに仔獅子連合には、是の"建国"を承認して頂きたく」

「建国だとぉ?」


 建国は我が父の悲願(の内のひとつ)だ。我が父の宿敵である《冒険王》ユーゼス=アルスタが街をつくったのなら、是はそれを越えなくてはならない。


「是(私)が倒した竜の遺骸はお見えになったと存じますが、その献上を代価に認めて頂けないでしょうか」

「竜の遺骸か。あれは此度の謁見を許してやった代価として既にオレが貰い受けている。嘆願には別の代価を用意するんだな」

「なっ」


 こっ、こいつ、何を勝手に自分の物にしている‼

 あれは是の物だ。それをくれてやるから建国を認めろと言っているのだろうが!


「オレの女になればいい。精一杯奉仕すればいつか叶えてやるかもしれん」


 下卑た笑みを浮かべる豚。

 が、我慢だ。眼瞼がんけんがありえんほど痙攣けいれんしているが……我慢だ。

 悲願成就のため、ここで大罪を犯すわけにはいかん‼


「りゅ、竜の遺骸は大変貴重な代物です。十分代価になりうると――」

「何度も言わせるな。あれはもうオレの物だ」

「でしたらもう一体狩ってご覧にいれます。それを以って建国承認の確約を頂けないでしょうか」


 百歩譲ってやる‼ 竜を狩るなど偉業中の偉業、命を賭した苦行をもう一回だ!

 これを退けて見せろ。そしたら貴様を蹴り殺す‼


「駄目だ」


 ぬぅうううわあああああああ!!!!!

 け、蹴り、蹴り、


ころ――」

「もっと楽な方法があるぞ」


 ――――ぬっ⁉


「殺してほしい人間がいるのだ。たった一人、そいつを殺すだけでオレと兄弟たちはオマエの建国を認めるだろう」


 人間ひとりだと? そんな容易いことでいいのか?


「いかな人物でしょう」

「愚妹――ライオネスよ」

「なっ⁉」


 無理に決まっている!

 そんなことをすればこいつ以外のクフィル、果ては獅子王が敵になってしまう。ミアスカ流脚撃術とて大陸を相手にはできない。なにより本末転倒だ。


「フッフ、安心するといい。これは父上のお墨付きだ。今、兄弟たちで誰が愚妹を殺るか争っていてな。護衛騎士の妨害がなかなか厄介なのだが、竜を倒せるオマエなら楽に始末できるだろう」


 お墨付きだなんて、本当にそんなことがあり得るのか?

 執拗に聞くと、シンハ王から事情を聞く事が出来た。

 なんとクフィル・ライオネスは、獅子王の座すハイダルマリクの王座を狙っていると言う。ライオネス当人に王の資質がないので仔獅子連合は王位継承を止めたいが、それを獅子王は王位継承の試練として認めたらしい。


 なるほどな。とりあえずこの愚物シンハが妹を殺したがる理由は分かった。

 獅子王からライオネスに王が代わり、ハイダルマリクの支配が弱まれば、この愚物の圧政に虐げられている者たちが反旗を翻すのは目に見えて明らかだ。他のクフィルどもも理由は大して違わないだろう……。


 ふむ。仔獅子連合を味方につける良い好機じゃないか。


「お受けいたします」

「期待して待っている」


 建国が少し遠ざかってしまったが、なあに、ミアスカ流脚撃術を以ってすれば直ぐにこの依頼は終わる。


 見ていろユーゼス=アルスタ。泥竜グルゼルアルの体皮の如き汚泥を貴様に塗られた我が父に代わって、貴様の全てを越えて見せる。

 まずは大陸を揺るがすライオネスを誅し、是の国を立ち上げてみせよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ