表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/43

3・運命

 絶好のシチュエーションに思わず死体扱いしたが、実際は二人ともスヤスヤと寝入っている。ぺちぺち。起きねぇ。ぺちぺち。ぐにゅううう。姫さんの整った顔をブサイクになるまで押し潰しても一向に起きない。なんという深い眠りだ。


 なぜ彼らはこうなってしまったのか。

 賢明な豆腐諸兄なら既に答えは出ていよう。そう、『リュウガコウ』という言葉から察するに、ズバリ『お香』だ。


 どうやってかは知らんが、俺の立つ場所に強烈な眠りを誘うお香でも滞留させていたのだろう。俺の起こしたそよ風でそのお香が運ばれていき、マヌケにも彼らが吸い込んでしまったワケだ。


 これ、元をたどれば俺たちお香で攻撃されちゃってんだけど、モチロン俺は始めから気づいていた――――というていでいこうと思う。アホみたいにただ突っ立っていたなどと死んでも団員に気づかれたくない。

 てか護衛力って何? アホなの俺? 今思い出したけど沈黙に徹するのは某一流暗殺者の話であって、護衛は全く関係なかったわ。どんな勘違いしてんの恥っず‼


 おっと、自分を責めるのはよそう。俺自身が俺の味方になってやらなくてどうする。アモーレ俺、ビバ俺、㋮ツケンサンバ~~俺! よし。


「さて……」


 ぺちぺち。こやつらどうしてくれよう。

 こたびの犯罪を企てたのがこの姫さんであることは間違いあるまい。


 マイカさんとの授業の折、姫さんについて少し聞いてみたんだが、どうも彼女は権力を笠に着てやりたい放題するタイプらしい。自分の意に沿わない者に対して苛烈な対応をとるとも。慈悲は一切無いと評判で、ボヘ砲ぶちかまして恥かかせた俺なんて死刑確定モンだろう。


 力でねじ伏せることができた俺たちにはあまり関係ないが、姫さんの魔の手から逃れるためには護衛騎士に死なない程度に斬られるのが一番良い方法だ。姫さんの鬱憤も晴れて円満解決。もしかしたら護衛騎士の方々もそれを狙っていたのかもしれない――とはマイカさんの意見だ。

 護衛騎士の奴らが俺の身を案じながら戦ってたとしたなら、こたびの事件も共犯のドレイク隊長はイヤイヤ従っていただけかもしれんな。

 ドレイクだけに奴隷苦ってか。すまん今の無し。とにかく、隊長の方は情状酌量の余地ありだな。



 そういや、シュさんはこの犯罪に関わっているのだろうか?

 とりあえず会ってみよう。スイ~。退☆室。

 うおっ、シュさん扉のすぐ横で待ってやがんの。


「話は終わったか」


 フツーの反応だ。こいつ関与してねぇな。

 なら大丈夫だろうと、俺はありのまま今起こったことを話した。


「嘘ではないようだな……」


 入口から室内の様子を窺ったシュさんはそう口にした。

 おお、俺の言うことをすんなり聞いてくれるとは!


龍臥香リュウガコウは王室が所有している眠竜シャマラの遺骸から作られているからな。余人では用意できるはずがない。何よりかような罠、殿下ならやりかねん……いや、やる」

「……そ、そうか」

「主君に代わり非礼を詫びよう。すまなかった、冒険者マロゾロンド」


 マジで申し訳なさそうな顔だった。


「……苦労してんね」


 騙し討ちを受けた怒りよりも、姫さんに振り回される騎士を哀れに思う気持ちの方が強いんだが。


「あっ、そうだ。これは聞いておかなきゃな。昨晩の襲撃とやらは俺をここに誘き出すための嘘っぱちか?」


 俺が問うとシュさんは「いいや」と首を振り、実際に暗殺者と対峙したから本当のことだと言った。護衛依頼も正規に発注しているらしく、先ほどのお香攻撃は計画的なものではなかったという。


「突発的に俺の殺害を企てたんかい……恐ろしい」

「いや、害す気は無かったと思うぞ。殿下は高ランク冒険者の肩書きを大層大事に思われておいでだ。指名依頼で呼びつけた冒険者を害したと知れれば、さしもの殿下といえど冒険者の資格は剥奪されるだろう。それはどうしても避けたいはず」

「じゃあ何をしたかったんだ?」

「恐らくだが……その黒衣を剥いで中身を暴きたかったのではないだろうか」

「なんじゃそりゃ」


 まあそりゃあね、逆の立場だったら俺でも気になる。でもだからって体の自由を奪って黒衣を脱がすなんてそれもうレイプやん? 姫に逆レイプか……字面だけ

見たら許せる気がしてきた。


「んで、これからどうするよ? 俺、このまま護衛続行しなきゃならんの?」

「悪いが、そうしてもらいたい。このような事が起こり想像しにくいだろうが、本当に我々は逼迫ひっぱくした状況にあるのだ」

「姫さん狙われたんだよな? どういう経緯でそうなったのか、しっかり教えて欲しいぜ」

「ああ、勿論だ」


 扉の前で話すのも何だったので、二人で広間の方に場所を移す。

 椅子から身を放りだした状態の姫さんは放置したままだ。シュさん何気に酷ぇ。


「まずは我々がハイダルマリクを離れて為そうとしている目的を話そう。それが狙われていることに繋がってくるからな」


 そこからの話は長かった。

 こりゃ一部団員の豆腐脳では荷が重かろうと3行にまとめてやる。


「つまりこういうことだよな。姫さんは押し付けられた政略結婚が嫌。今までどおり好き勝手に振る舞いたい。ならば好き勝手できる王の地位につくのが一番。王になるには《冒険王》の力添えが必要。しかしそいつ行方知れず。今その足取りを追っている」

「そうだ。そして、ついでとばかりに殿下は憧れの冒険者となり、その過程で今こうしている」


 冒険者は姫さんの趣味か。それでAランクまで上げるとかかなり頑張ってんな。実態は護衛の連中に頑張らせてるみたいなもんだが。


「ハリケーンウインドに来たのは冒険者稼業でか? 目的見失ってない?」

「ここに来たのは何も貴様の模擬戦に付き合うためではない。3ヶ月ほど前にユーゼス隊長がいたとの情報を掴んだからだ」

「ユーゼス隊長って?」

「――ああ、すまない。混乱しただろう。探している《冒険王》ユーゼス=アルスタは我々九十九騎士第一隊の隊長でもある」

「じゃあ、そこにいる人は?」


 ドレイク隊長の倒れている部屋に腕を向ける。隊長被りだ。


「ドレイク殿は代理で隊長を務めている。というのも、私が九十九騎士に着任した当時から本物の隊長は行方知れずだったからな」

「ずっと行方知れずで未だ隊長なのか? よく解雇されないでいるな冒険王」

「陛下とともにハイダルマリク建国にご尽力された英雄だからな。さもあらん」


 そうだったそうだった。言われて思い出した。

 なんかすごい有名な冒険者としか覚えてなかったからなあ冒険王。


 冒険王といやあ、そういえば冒険王ビィトの続刊が超久しぶりに出てたよな。さっさと見ときゃ良かった。まさか異世界転生するとは夢にも思わなんだわ。

 ああ、心待ちにしていたパシフィック・リム2! ランスⅩ! 胎界主第三部!

 全てが対岸の向こうよ。最強のイケメンになって異世界転生するより地球でかの作品群を享受する方がよっぽどチートだと思わんかね? βテスターでチーター、ビーターや!


「(ぷる?)」


 ああ、悪い助かった。

 また暗黒面に堕ちそうになってたわ。むしろ何故かキバオウになってた。


「おい?」

「聞いてる聞いてる。ハイダルマリクの王位を継ぐには《冒険王》に【賢者の岩】を開いてもらって、王の証を授かんなきゃいけないんだろ。でもワガママ姫に王位継がれると困る一派が暗殺頑張ってると。聞いてるさ」

「殿下をその蔑称で呼んでくれるな。我儘わがままも余人には測れん苦悩があってのことだ。あと暗殺頑張ってるなどと言うんじゃない。我々は襲われる側なんだ」


 思いのほか怖い顔で注意されたので「悪かったよ」と謝った。何の苦悩だか知らんがこういうのはさっと流すに限る。話を別の方向へ持っていこう。


「てか自分の国の奴らに襲われてんなら、部外者の俺に泣きつくより獅子王パパを頼るほうがいいんじゃないか?」

「パ……貴様の不敬は留まるところを知らんらしいが、今はおいておこう。陛下にご助力願う方法はな、既に取ったさ。だが問題を対処していただけることにはならなかった。当然だ。元々が王命に背き、同盟者の子息との婚姻を蹴ったのだからな。『己が意を通したくば己が力で勝ち取れ』と、そうおっしゃられていたよ」

「それで娘を暗殺しようとする奴ら野放しとか凄いな」

「むしろ有難がっていたくらいだ。良き試練だとな」


 めちゃくちゃな話やでホンマ。

 や、獅子王パパのこともそうだけど、姫さんが王を目指すっつー話がね。

 政略結婚イヤだから王になるって発想飛躍しすぎだろ。


 あの姫さんが王位についたら超大国ハイダルマリクが亡びそうだ。多分俺と同じように危惧している奴らが殺してでも止めようとしているんだろうな。

 いっそ襲撃者サイドに鞍替えした方が世界のためになるんじゃないか。

 正しさにおいて既に敗れているとか、少年漫画だったら打ち切り待ったなし!


「王になって好き勝手にふるまいたいって、あの姫さんは何か具体的にしたいことでもあるのか? ないだろ」

「あるにはあるが、とても理解は得られんだろう」

「いいから言ってみ」

「殿下の大好物、トントロポロロンズの楽園を大陸につくりたいのだそうだ。父であらせられる陛下が大のトントロポロロンズ嫌いで、トントロポロロンズ料理を禁止したのがそもそもの始まりであった。幼少期に抑圧されたトントロポロロンズ愛が――~~~」


 後半はろくに聞いちゃいなかった。

 俺たち豆腐戦士団は黒衣の中で決議をとると、ある決断をくだすにいたった。


「おい! 何処へゆく!」


 シュさんを無視してドドド(スイ~)っと例の部屋に駆け込み、眠り伏せている姫さんを見下ろして俺は言った。


「あなたが私のマスターか」


 この日、俺は運命と出会った。

 俺たちが守護騎士セイバーとなってこの正敗戦争を勝利に導こう。

 胃の中で死にゆく前に、豆腐の栄華を大陸全土に築くのだ……!!!

第三章、完


閲覧、感想、ブックマーク、評価等ありがとうございます。

大変励みになっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ