3・まさかのⅣ
シュなんとかさん達の居所はどこかの宿ではなかった。聞けばハリケーンウインド外壁に隣接するただの空き地だという。なぜに街の外⁇ 行けば分かるさ!
というワケでやってきました空き地。
こんにちはァ~。参上いたしやした~。
「来たか、冒険者マロゾロンド」
あ、シュチュ……シュチュ……テールさん。こちら見舞いの品でやんす。
「む、なんだ? ふむ、揚げトントロポロロンズか。これなら姫殿下も喜ばれよう。有難く頂戴する」
へぇ、お気に召した様で、へへ。ところでみなさんはどちらにおいでで?
「姫殿下や皆はカリドゥ・ウドゥドゥの中だ」
カリドゥ・ウドゥドゥ?
「あいつだ」
シュさんは見上げた。俺たちのすぐそばで威容を放っている、全高30メートル級の化け物を。ここに来た時から何だこの化け物はと気になっていたが、ホント何なんだこの化け物は。
まるでクトゥルフ神話に出てくる異形やんけ。デカすぎる顔面にはタコの触手みたいなのがびっしりとついておられる。胴体はゾウさんみたいで可愛らしいのに……。
コイツの中に姫さんズがいるってどういうことだろうな。シュさんが落ち着き払っているところを見ると、食われたわけでは無さそうだが。
考えながら異形を眺めていたら、異常発生である。
ウドゥドゥさんの双眸が俺たちの方に向き、瞳孔がギュインと開き、白目部分の毛細血管がビキビキと膨張していく。怖エエエ――ウッ……⁉ な、ウ、なんだか、心が、け、け、かゆ…………うま。ウウ、えぼちわるぅ……。
「む! よせカリドゥ・ウドゥドゥ! こいつは敵ではない‼」
シュさんが叫んだおかげか、直ぐに気持ち悪さが薄れていき、元気ハツラツロンドに戻った。こ、こいつ邪視が使えたのか⁉ マジモンの邪視とかやべぇよ……もしメデューサの眼みたいに石化効果があったら、レンガにしか見えない石豆腐になってたわ。幸いコイツは精神にかかるタイプだったけどよう。
「大丈夫か? よく立っていられたな」
へぇ、おかげさまで。
「しかしおかしいな。人には攻撃しないはずなんだが……」
ほ~不思議なこともあったものですなぁ~。いやあ、まっこと不思議なりぃ。
「おおかた怪しい身なりをしていたからだろう。……ところで貴様、先ほどから身振り手振りばかりで一言も話さないが、どうかしたか?」
「…………一流の護衛は沈黙に徹するんだよ。あまり俺に喋らせないでくれ」
「貴様もしや馬鹿なのか? 意思疎通を取れない方が問題だ」
あと9回馬鹿って言ったらオマエ殺すなりィ。
だが……チッ、その意見は一理あるな。
「フ、たまには喋るのも……悪くないかもな」
「……おかしな奴だな。まあいい。姫殿下の元へ案内するからついてこい」
シュさんが口笛をヒュウヒュッ! すると、カリドゥ・ウドゥドゥが四肢を曲げ、首を仰け反り、縦長の顔面をズゴンと地面に下ろした。シュさんはウドゥドゥの元まで近づくと、その顔をブニュッと踏んづけ、もう片っぽの足でも踏んづけ、上へ上へと登っていく。おお、道になってるのか! 俺たちも後を追うようにスイ~。
頂上まで辿り着くと、ウドゥドゥの背に半球状の膨らみが見えた。ゲームをたしなむ者であれば、第一にあそこを攻撃するくらいに弱点の核っぽいが、よく見れば扉がついている。建造物だ。
なるほどね。ライオネス一行は宿に泊まっているわけでもなければ、地べたで野宿をしているわけでも無かった。生き物の上におったてた建物に、言わば生体要塞に身を置いていたのだ。いや要塞ってのは少し大げさかもだが、馬車の何十倍もスケールが大きいことは確かだ。これなら快適に旅もできようというもの。俺は大いに感心した。
「ハイダルマリクの方じゃ、みんなこのウドゥドゥって奴で移動するのか?」
「いや、他所と変わらず馬だぞ。カリドゥ・ウドゥドゥは恐らくこの世で一体だけの存在だろう」
「ふーん、やっぱりそうか」
この世界において一体だけの生物は珍しくない。このウドゥドゥの背中から見渡せる景色だけでも、三体も視界に入るくらいだ。まあそいつらは惑星スケールの超巨大生物だからどこからでも目に入るけどな。
頭いっぱい生えてる奴は『パンゲオン』さん。この世界を食らおうと日々こちらへ向かってきている。この大地に到達されたらガチでゲームオーバーっぽいが、到達はもっとずっと未来のことだから割とみんなスルーしている。
そのパンゲオンさんと日夜激闘を繰り広げているのは『界竜ファーゾナー』さん。竜というよりは真っ白なキツネに翼が生えてる感じだ。応援してます。
あとデカすぎて背景と同化しているのは『クラインフィニティの胎盤』さん。胎盤さんは夜になると太陽をさえぎり、大地を真っ暗にする。
こんな奴らがいりゃあ、生態系を気にするのは無駄でしかなかった。
「おい、行くぞ」
「ん、ああ」
遅れていたのを注意され、急ぎ後を追う。数十秒もしないうちに建造物の前まで来た。
ふうむ。特に張りぼてということもなく立派な建物じゃないか。
「なあ、昨日襲われたって言ってたけど、ここで襲われたのか?」
「話は後だ」
にべもない返事だこと。
そしてシュさんは扉に手をかけた。いざ本丸へ!
***
屋内は意外と狭かった。ここで野球をするのは絶望的だろう。中心に大きなスペースがあり、それを円で囲うように幾つもの部屋が並んでいた。
中央広間に姫さんズの姿がないということは、どこかの部屋にいるものと思われるが……99.9%の確率で一番厳重そうなあの扉の先だろうよ。
オラ先に行くぞついてこいシュ!
「そこは武器庫だ。こちらだ」
「…………」
俺は大人しくシュさんについていった。行く先には花の意匠の凝らされた扉が。セキュリティより可愛らしさ優先とかそんなん詐欺や。
コンコン! シュさんはノックする。
「シュテュルムです」
すると、中にいた騎士が扉を開き、「入れ」と俺たちを促した。覗き見えた室内は結構広そうだ。失礼しまスイ~。
さてお立合い。向かいには玉座のような椅子に座る赤髪の姫ライオネス(推定16)と、その横に立つダンディな護衛騎士(推定40↑)。こちらはこのマロゾロンドと、横にシュさん(推定30)。とまあ、謁見みたいな感じで対面だ。距離はあるが、声は十分に届く。
ちなみに、ダンディ騎士は模擬戦の時に隊長と呼ばれていたはずだ。隊長なのに早々にボヘ砲で退場してったから印象に残っている。
「殿下。例の冒険者をお連れしました」
「ああ、よくぞ連れてきた。お前はもう下がれ」
「はっ」
姫さんに言われ、シュさん退室。おいおい、護衛が隊長一人になったけど大丈夫かよ。もしかして俺、信頼されてんのかな。まあガチで斬りかかられたのに一人も殺さないでおいてやった生ける聖母だからな。そう思われても不思議じゃないな。
「さて……」
ライオネスがこちらを見つめてくる。何だか冷たい印象を受ける顔つきだ。何言われんだろ。
「…………」
いや、黙るのかよ。別に緊張してるわけじゃなかろうに。薄ら笑いしてるし。
姫さんの横にいる隊長さんの方を見るが、今の状況をおかしいと思っていないようで平然とこちらを見ている。
ハッ⁉ 俺はハッとした。これはテストだ。俺がいかほどの護衛力を秘めているかテストしているのだ。一流の護衛は沈黙に徹する。姫さんが話しかけるまで待てなかったら三流の烙印を押されてしまうに違いない。
異様な雰囲気の中、俺はただひたすらに沈黙を保った。時間がたてばたつほど護衛力が高まるのを感じる。
一方、姫さんサイドは眉間に皺がよっていく。こやつの護衛力はどうなっているのだと、どこまで上がっていくのだと驚いているのだろう。
そして、30秒は経ったろうか。
「ドレイク」
姫さんが隊長に話しかけた。
「どうなっている?」
「もってはいますが、恐らく立っているのがやっとかと」
額に汗を浮かべる二人。
おいおい、このマロゾロンドの護衛力を見くびりすぎだ。俺たちゃ王族の前だろうと何ら気後れすることなどない。いつまででも立っていられるわ!
ハッ⁉ 俺はまたハッとした。これは罠だ。俺を増長させることで強大に膨れ上がった護衛力を凋落させるつもりなのだ。「余裕ですが何か?」と答えたが最後、三流の護衛に貶められるに違いない。
俺は何に惑わされることもなく沈黙し、それどころか気を利かせ、汗っかきの二人の元へフォースでそよ風を送った。礼はいらんぜ!
「ウッ⁉ ドレイク‼ リュウガコウがこちらに流れ、て……」
「そんなっ、ぐっ、申し訳……ッ」
二人は急にフラフラと上体を揺らしだし、バタリと倒れた。
はいはいコントコント。ここで「どうした⁉」ゆーて慌てたらアウトでざんしょ? もう俺に隙はない。てかアンタらこんなコントできる性格だったんか。どのくらいの期間になるか分からんが、楽しく付き合っていけそうだぜぇ。
…………。
――そして120秒後。
一向に起き上がる気配がないことに異常を感じた俺は、骸のように倒れた二人にスイ~と駆け寄る。
ぺちぺちと頬を頬を叩くが……無反応。
「し、死んでる……」
死んでません




