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3・脅威!ハイダルマリク九十九騎士Ⅰ

 模擬戦とはいえ、守るべきお姫様(ライオネス)が倒されてしまったのだ……残された護衛騎士一同が憤るのも無理はない。さりとて、怒りの矛先を特に不正を行ったでもない俺たちに向けるのはいかがなものだろう。


 ましてや剣まで持ちだして集団暴行だなんて……もうアホだな、アホ。野蛮すぎて笑える。どこの中世だよ。ここだよ。ともあれ、いかに俺たちが仏ばりの寛容さを持つ豆腐といえど、許すべからざる事案だ。


 豆腐戦士団の流儀スローガン――「目には目を、歯に歯を。不当な暴力には豆腐の暴力を」――にのっとれば、やるべきことは自明といえよう。俺たち(マロゾロンド)はスイと一歩前に出て、端的かつ明快に意思を表明する。


「テメエら全員ブッ飛ばす……‼」


「くるぞ」「ああ」


 護衛どもは攻勢を解くと、俺たちを迎撃するべくその場で身構えた。真剣な顔つきである。先ほどまでもそうだったが、より真剣味が増したように感じる。クルクル俺たちの周りでワルツっていた哀れなイメージが薄れていく。


 どいつもこいつも姫に仕える近衛だけあって、そんじょそこらの雑兵とは剣の構え方が違う。とてもサマになってやがる。ようやくこちらへの警戒レベルをMAXに引き上げたようだ。フン、おせえよハゲ。いや誰もハゲてないけど。ハゲって言ってごめんね。


「この者が強くとも、姫様を害したのであれば……」

「ああ。斬る」


 若年騎士と中年騎士が、構えはそのままに言葉を交わしていた。

 ほほー、「斬る」と申すか。

 まあ確かに、技量の未熟な者が奴らの剣の間合いに飛び込めば、たちまち返り討ちに合うことは目に見えている。


 しかしだ、サイオニクス戦士として覚醒したこのマロゾロンドであれば、話は違ってくるんだぜ。

 マロゾロンドの体表を覆う無色透明のバリアー【滑折歪曲スペリオルワルツ】がある限り、その刃は届きようがない。斬られる要素が皆無なら何を恐れる必要があるだろう。


 俺たちは悠々と歩き出す――まるで、古代ローマにその名を轟かせた覇王ハンニバルと見紛うばかりの風格を醸し出しながら(俺評)。


 さて、近くの奴から仕留めていこうか。

 覇者のスイ~。第一目標にゆったりと近づくと、当然相手は反応する。


「――はぁッ!」


 裂ぱくの雄叫びとともに袈裟切りが飛んでくる。

 速い! 切っ先から力強さをビンビン感じる。

 詩的に表現すれば、剣が勃起している。

 下手したら命まで刈り取られそうな、今度こそ逸らさせやしないと言わんばかりに力を込めたであろう一閃。


 だが――――逸れる。


 無情にも剣は俺たちの横を通り過ぎ、ビュッ! 宙を切り裂く音が、どこか虚しい。


「く、これでも……」


 これでも駄目なのかと言いたかったのだろう、続く言葉が出ないほど意気消沈のていだ。

 俺がそんな隙を見逃すはずもなく、すかさず甲冑で覆われている彼の胴へと――「まずは一人目だ」――豆腐の角で殴打ドグォ


 ガキンッ!


 金属同士がぶつかったような音が響くと、相手はよろめくように2、3歩さがり、


「ウ……グ……」


 僅かな呻きと共に、バタリと地に没した。


 仰向けで倒れている姿を見ると、頑丈そうな甲冑がメコリと凹んでいる。

 豆腐生来の角と人間由来の格闘技術が生みだす超パワーの産物。

 あまりに強大な力だった。


 俺は自分が……怖い。ぷるぷる。


 さあて、次の相手はどいつだあい!


「む、あんたか」

「ああ、私だ!」


 護衛A。俺とそれなりに言葉を交わした騎士。

 既に目の前まで近づいていた彼は、言うが早いか剣を振り下ろし、こちらの脳天を狙ってきた。

 剣を諦めタックルまでしてきた男が再び剣で挑もうとは、何を考えている――――うん?


 よく見ると刃の向きがおかしい。

 刃の部分を寝かせて、剣の腹で叩くつもりなのか。

 接触面積を広げて逸らさせない狙いなのかね。

 それが無駄なのは、タックルしたあんたなら分かっても良さそうなのに。


 当然、剣は脳天へさしかかる前に【滑折歪曲】によってその軌道を変えた。

 打点が横にグイッとずれる。マロゾロンドの側頭部を通り過ぎた剣閃は、そのまま地面へと向かう――かと思いきや、ピタッと剣が止まった。

 そう、丁度ジャスト我らがワキ腹のところで。


 な、まさか、貴様‼


「貰ったッ!」


 こいつ、始めから振り下ろしを当てるつもりが無かったな!

 途中で剣を振り抜くのを止めて、止まったところでそのまま真横に手首を動かしての水平切り! 刃を寝かしていたのは2段目の本命で刃が垂直に当たるからか!


 考えたな護衛A‼


 まあ普通にまた逸れていったけどな。


「…………」

「はい、二人目ね」


 ガキンッ! 甲冑メコォ‼


「グ……無念」


 ドサリと倒れた護衛A。

 無傷で済んでこう言うのもあれだけど、強かったわこいつ。

 いち早く試行錯誤し、創意工夫を凝らしてくるとは。


 もしバリアーがピンポイントにしか展開できないタイプだったら……。

 おおう、考えただけでぷるぷるした。全方位バリア万歳!


 さて、次の相手は――


「合わせろレイ!」「はっ」


 左右から挟み込むように躍りかかってきた二人。


 マロゾロンドは二丁拳銃を構える銃士よろしく、腕をサッと左右に広げ――


発射ファイア


 ボヘッ!


 気の抜けるような音が出たと同時、空間がゆらぎ、捻じれる。

 指向性を与えられたソレはコンマ1秒もかからない内に目標に衝突!


「うおあああああ!!」

「どあああぁッ⁉」


 至近距離からボヘ砲をぶつけられた両名は、むさくるしい絶叫を上げながら吹っ飛んでいく。

 とりわけレイと呼ばれていた若年騎士は、体が軽かったからかグングン飛距離を伸ばし……演習場の観覧席まで届かんとしていた。って、観客あぶねーじゃん!


 あ、でもでも、俺は覚えている。試合開始前ヤジが飛んできたのは、確かあそこらへんからだったような。都合よくそいつにぶつかってくれることを祈ろう。


 む、背後から殺気……‼


 放物線をえがいて空を飛ぶ若年騎士から目線を切る。

 行く末を見届けたかったが、やむを得ん。次の相手の相手をせねば。


 振り返ると、そこには――既に放たれていた凶刃‼

 のほほんと眺めている内に接近を許したようだ。

 


「踊れ――【滑折歪曲】」

「ちぃッ!」


 わざわざ言わずとも最初から展開されていたバリアーが凶刃を撥ねつける。

 騎士は剣先に体重を乗せていたのか、空振りしてたたらを踏んだ。


 時同じく、遠く後ろの観覧席から「ぎゃああああ!!」という断末魔の叫びと、「ジャ、ジャイオオオ!!」という心配の声があがったが、それはさておき。


 バランスを崩している今が反撃のチャンス……!

 がら空きの胴体に一発お見舞いしてしんぜよう。

 豆腐の角を食らえや‼


 ガキンッ! またもや甲高い音が鳴り響く。

 しかし当たったのは甲冑ではない――相手が引き戻した剣だ。

 馬鹿な、防御されただと⁉


「なっ⁉」


 驚きの声をあげたのは、意外にも騎士の方だった。

 というのも、剣が折れ、折れた剣先が己の顔を掠めていったからだろう……そりゃ驚きもする。

 見てるこっちも冷奴ひややっこになったぜ。

(※ヒヤッとした)


 まあ無事で済んだことだし、遠慮なく無事で済まさなくしてやろう。

 豆腐の角の威力、今度こそ味わうがいいわ!


「五人目ェ!」

「――見える」


 えっ、な、こ、こいつ、躱す気だ――逃がさん!

 左腕を縮め、右腕を伸ばす。

 左腕―胸部―右腕にかけてのラインを豆腐1丁分スライドさせてのズームパンチ!

 

「なハァッ⁉」


 よし、当たった!


 相手は大きく弾かれるようにもんどりを打つと、ドサッと地面に倒れ、そのまま起き上がることはなかった。衝撃で昏倒したっぽい。


 てか……こいつ始めさ、わざとバランス崩して、俺が殴るの誘ったくさくね?

 だって剣を引き戻すのめちゃ速かったし、狙ってないと無理な速さだった。


 何を狙って…………ああ、拳か。

 殴る時だけ接触面にバリアー張ってないの見抜いて、拳を斬ろうとしたのか。

 まあ実際は、豆腐に拳なんぞ有るわけもなく、豆腐の角に当たったわけだが。


 もし人間の拳だったなら…………ぷるぷる。


 しかもだ……二度目の殴り、避けかけたよな。甲冑なんて重いモン着てるクセに、なんつー俊敏さだ。読みといい反応速度といい一流のそれだったぜ。

 少なくとも、今まで見てきた人間の中でナンバーワンだったわ。


 って、そりゃそうだよな。考えても見ろ。

 本大陸ナンバーワンを誇る大国ハイダルマリク。その武力の粋が結集している騎士団の、実力最上位に位置するだろう近衛騎士だもの。超スゴくなきゃ逆に変だわ。


 今更だけどこの人たち、ホントBランク冒険者にぶつける相手じゃないね。

 Sランクでも全員を相手取るのは無理なんじゃないの? Sランク見たことないけど。


 はあ……。五人倒せたけど、まだ五人もいるし。

 近くで機を窺っている三人はモブ臭するからどうにかなるとして、ちょい向こうに倒れてる姫さんにずっと張り付いてる二人……まず間違いなく強者と見た。


 へへっ、強ぇ奴と戦えるなんて、オラぷるぷるすっぞ!

 …………俺は恐怖に震えるのであった。

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