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3・昇格試験

 ハロー、ミシェイラ。元気ですか? 兄ちゃんは元気です。

 兄ちゃんがこの街に来て、もう二ヶ月が過ぎた。

 この二ヶ月は、なんだかすごく長かったような短かったような。自分でも不思議な感じだ。


 兄ちゃんは今、真っ当な豆腐になろうと日々励んでいます。

 そのために先ずはSランク冒険者を目指してるんだけど、今日の試験に合格すればAランク、つまりSランクまであと少しなんだ。

 なんて、何の話だか分からないよね。


 君に話したいことがたくさんある。

 仲間たちとの出会い、そして冒険。語っても語りつくせない物語。

 ただそれには問題があって……ミシェイラ、君のもとにこの声は届かないんだ。


 なぜなら君は、竜の腹の中にいて、架空の妹だからね!


「(ぷる?)」


 おっと悪い。遊んでる場合じゃないよな。

 ここは演習場、周りには観衆ギャラリー、正面には対戦相手(・・・・)――Aランク昇格試験が始まろうとしてんだから。


 改めて状況を確認しよう。

 試験内容は、Aランク冒険者と模擬戦をして相応の実力を示す。それだけ。

 なんだかフワッとした判断基準だけど、要は勝っちまえばいいんだ。勝てば確実にランクアップできる。


 で、対戦相手はAランク冒険者のライオネスと聞いている。

 全く知らん名前だが、それは当然だろう。

 なんでも八百長を防ぐために、俺と接点のない別の支部からわざわざ派遣された奴だからだ。


 うんうん、不正を疑う気持ちは分かる。

 俺たち(マロゾロンド)のランク上げがあまりにも早すぎたからな。

 俺たちは24時間行動できるから、普通の人間が一日8時間活動すると考えても3倍の能率だ。更に31丁で31倍なので、約100倍の能率を誇る。

 つまり割と当然な結果なんだけど、彼らがそれを知る由もないし、教える気もない。教えたら討伐対象になっちまうぜ。


 おっと考えがそれた。俺の事はどうでもよくて、問題はライオネスだ。

 ライオネスという冒険者と会うのは今日が初めてになるし、名前以上のことは知らないもんだから、どんな顔だか分かりようがない。

 そんな訳で、ライオネスがどこにいるか分からなくて困ってんだ。


 いや、正面には対戦相手が立ってるよ?

 でもライオネスかどうか分からないんだ。


 もし俺の脳内を見てる奴がいたら、そいつの頭には今クエスチョンマークが浮かんだかな?

 あるいは、俺のことをこう馬鹿にしたかもしれない――『おい、お前の正面に立っている相手がライオネスでなければ、一体誰だというんだい? HAHAHA』とね。いや、本当に誰なんだろう。こいつがライオネスなのか? 俺はとても混乱している。


 だって、同じ見た目の人たちがいっぱい立ってるんだもの。


 このまま模擬戦を開始されてはたまらんな。

 試験官を務めるギルド職員に質問してみよう。


「試験官殿、ひとつお聞きしたいんスけど」

「何です。言ってごらんなさい」

「本日は自分対ライオネスの模擬戦で、他の試合は組まれていないはずです。なのになぜ、その、対戦相手が……」

「ええ、貴方の言いたいことは分かります。貴方の目には対戦相手が11人に見えるのでしょう」


 俺の目がおかしいわけじゃないらしい。

 正面にはお揃いの甲冑ユニフォームを着た成人男性10人と、一番奥に立つ少女で、合計11人。

 異色のサッカーチームだな。少女はさしずめゴールキーパーといったところだ。


「最奥に立つ、華美な服装をした少女が見えるでしょう。あれがライオネスさんで、貴方の対戦相手です」

「あの子が……」


 ライオネスはめすライオンって意味だから、そうじゃないかな~とは思っていたけど。

 他の10人の方が強そうで、しかもやる気マンマンでこっち見てくるからさあ。

 てかこいつらは何なの?


「彼らはライオネスさんの護衛です」

「はぁ、なるほど。ところで、なぜ彼らは俺の正面に立ってるんです? これから模擬戦だというのに、邪魔で仕方ないんですが」

「ええ、邪魔するためにいますから」

「……はい?」

「彼らはライオネスさんの所有物で、武器や防具と同じ扱いです」

「つまりどういうことです?」


 俺の問いに、試験官はニタッとほほえんで、


「彼らも対戦相手です」

「ジーザス!」


 そんなの有りか⁉ 世の不条理を見た気分だ。ファック‼

 俺たちが31丁なのを棚に上げて言わせてもらうが、なんてズルいんだ!

 いや、でも待てよ?


「ライオネスを先に倒せばその時点で合格、他は相手にしなくてオーケー?」

「ええ。できれば、ですがね」


 こんなことわざがある――『将』を射んと欲すれば先ず『将』を射よ。

 当たり前の言葉すぎて何でことわざになってるのか理解不能だったが、なるほど。こういう時に使うのか。


「おいB級、聞こえてるぞ」


 チームライオネスの先頭フォワードにいる護衛Aが声をかけてきた。


「君がライオネス様に元にたどりつくなどありえんよ」

「なぜ?」

「なぜって、ハハ。何も知らんようだな。あの御方はハイダルマリクの姫様で、俺たちは親衛隊なんだ。つまり、ひとりひとりが精鋭ってことだよ、坊や」


 わお、ハイダルマリクってこっちの大陸を完全支配してる超超超大国やん。

 やんごとなきすぎる御方がなんで冒険者なんかやってんだ。

 護衛全員から強者の風格が漂ってるの、すんごい納得できたわ。


「こう言っては酷だが、君はひとりも突破できずに終わる」

「あんたひとり倒せないってか? まあ、それは割と当たってるかもだぜ」

「……? ああ、諦めたのか。それも仕方ないな。昇格は次回頑張ってくれ」

「次回があったら是非ともね。試験官殿、はじめて頂戴!」


「よろしい、私が"始め"と言ったら始めなさい。それでは――――――」

「…………」

「…………」


 試験官が中々"始め"と言い出さない。

 見物にやってきた冒険者どもが静まるのを待っているんだろう。

 そして皆が徐々に口を閉じ始める。そんな中――


「マロゾロンド負けちまえ」

「実力がイカサマだとバレる時が来たな」


 なんてヤジっぽい呟きが聞こえてきた。

 俺たちにランクを抜かされてしまった嫉妬勢だろうか。

 それともマイカさんのファンかな? 最近君づけで呼んでもらえるようになった俺に猛烈な嫌悪を抱いているのかもしれない。


 酷いぜ全く。全ては日々の努力なのに。へ、どいつもこいつも知らねぇんだ。

 能ある豆腐は――――角を隠すってことをよ!


「始め‼」


 気合入れた直後のスゲェ良いタイミングで"始め"が来た。よっしゃ!

 スイッと横にずれ、抜剣した護衛Aのマークを外す。

 20メートル先、ぼけーっと突っ立てるライオネスが見えた。


「抜かさん!」

「いや――」


 抜けるけど抜く気は無いさ。ここでいい。ここがいい位置だ。

 左腕を姫様ライオネスに向ける。

 照準良し。ボヘ砲準備!――「「(ぷる!)」」――発射ファイア


 ボヘッ!

 そんなユル~イ音が響いたと同時、遠くに見える姫様が吹っ飛んだ。

 吹っ飛んで後ろの壁に当たり、崩れ落ちる。


「はい、俺の勝ち」

「……へ?」


 あっけにとられて、そんな声を出した護衛A。

 観客も口を開いて唖然としている。いいリアクションを有難うよ。

 試験官は……苦虫を噛み潰したような顔をしている。何でだ⁉

 まあ、どうでもいいや。


「試験官殿、これで俺はAランク。オーケー?」

「…………オーケー」


 全然祝福してくれてる感が無いけど、よっしゃ! 俺達Aランク!

 また一歩前に進んだぞ。待ってろSランク、待ってろ魔術師!

 (※ただし例の悪魔は除く)


 あ。姫様の活躍に期待してた人には悪いことしちゃったけど勘弁な。

 彼女の声ひとことも聞いてないけど、もう出番は無し!

 これがアニメだったら声優いらずでお得ってことで納得してくれ。


 ん、どうした護衛A。そんなに俺を見つめて。


「何が起きた……」

「ああ、ここからシュートしたんだよ。開始キックオフと同時にシュートなんてよくあることだろ?」

「何を言っている‼ 何をやった⁉」


 ああ、さっきのはボヘ砲って言うんだ。

 撃つときにボヘッてなるから。安直だけど分かりやすくていい名前だろ?

 正式名称はボヘミアンラプソディーキャノンなんだけど、『ボヘミアンラプソディーキャノン準備ィ』なんて言ってたら発射が遅れるから、もう二度と正式名称で呼ぶことはないだろう。


 原理の解説もしようか。至って簡単だ。や、人間にはできないけどね。

 ほら、豆腐戦士トントロポロンって浮いてるだろ? あの地面と反発する力を利用したんだ。

 めっちゃ練習したら体のあちこちから浮力が出せるようになって、しかも合体時には31丁分をまとめて一か所から放出できるようになった。

 そうなったらもう、超強いエアバズーカみたいなもんだ。

 豆腐的に言うなら投浮とうふだよ。


 はい、俺は優しいから教えてあげたぞ。心の声で。

 聞き取れるかどうかはそちらの問題だ。


「それより姫様の具合を見なくていいのか?」

「……いや、いいさ。後ろの連中に任せる。やらなくてはならないことができたからな」


 護衛Aはギンと眼光を鋭くし、ついでに剣も鋭く構えた。

 姫様の介抱へ向かわなかった奴らも、同じように構えてにじり寄ってくる。


「おい、試験は終わりだぞ。正気か?」

「正気だよ。君は一国の姫に暴行を働いたんだ。相応の報いを与えなけえれば面子メンツが立たん」

「馬鹿、お前ら、近寄るな。俺に反撃させないでくれ。面子どころか股間のアレも立たなくなっちまうかもしれんぞ」

「立つものなど無い。親衛隊の者たちは皆、姫様に害を及ぼさぬよう去勢を施されている」

「ワーオ……それ聞きたくなかった」

「それでは命のひとつでも頂こうか。お前たち、念には念をだ、同時にかかるぞ!」

「「ああ!」」


 彼らは俺達の正面と左右を塞ぐように回り込み、三人同時に斬りかかってきた。

 汚い! これが姫に仕える騎士のやることか!

 クッ、我々は俊敏だが囲まれるのには滅法弱い。

 弱点を突くような攻撃をしよってからに!


 ここはあれしかない。多い日も安心の防御技。


「――――滑折歪曲スペリオルワルツ


 高浮力を体全体に展開し、剣の軌道を外に曲げる!


「な」「に」「ィーーーッ!」


 俺たちの周りを剣が踊った。当然俺たちは無傷だ。

 人間族程度の膂力じゃ、当てるなんて不可能だよ。

 豆腐的に言うなら当不とうふだよ。


 俺はもう二度と仲間を傷つけるつもりは無い。

 あの日のように潰されるのは御免だからな。

 だから、ワルツもラプソディも必死になって編み出したんだ。

 群青マロゾ輪舞ロンドが次に潰れるのは、食べ物として口に入った時だけ!


 なんて思い巡らしてる間に、護衛達は続々と集まっていた。

 俺たち目がけ剣を一閃、二閃と放ち、そのことごとくがワルツってる。

 護衛Aは剣ではなくタックルをかましてくるが、それもまたワルツる。

 見当違いの方向に転げて、ズザザザーっと地面を滑っていった。


「こう言っては酷だが、君たちはひとりも突破できずに終わる」

「ぐっ、やり返したつもりか……‼」


 これほぼ絶対防御だかんね。亜竜――知性の無い竜の攻撃も耐えられたし。

 しかもエネルギー的な消費が無いっぽいから、いつまでも持続できる。

 とはいえ、彼らが疲れ果てるまで待つのは時間の無駄だ。


「試験官殿! 反撃して試験の結果が取り消しになることはありませんか!」

「試験は既に終わりました。後はご勝手にどうぞ」

「どうも!」


 反撃の時間である。

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