幕間・豆腐、現代知識チートでSUGEEEする(後編)
前話タイトル「閑話~」⇒「幕間~」
前話本文「鉱化」⇒「化鉱」に修正しました。
両親の営む鍛冶屋が知らぬ間に寂れていたのだ。
現状を知りたがったラッセは、裏口から物音をたてないように忍び込む。
(親父たちは今、何をやってるんだ?)
鍛冶場をこっそりと覗くと、汗を垂らして励む両親が見えた。
炉に火をいれていないにも関わらずむんむんと熱気が漂っていて、それが彼らの体から放出されたものであることは、来たばかりのラッセにも分かるほどだった。
(何をあんなに真剣に叩いて…………あ!)
その答えは、彼らの周囲に散らばる大量の残骸が教えてくれた。
――スーパーファミコソ。略してスーファミ。
物理的特性としてはファミコソより優れているが、化鉱の失敗率があまりにも高く、鍛冶師たちが扱うのを諦めた降物群のひとつである。
(スーファミ? そういえば最近、スーファミ製の武具を装備する冒険者が増えてきたような気がする。採集依頼もチラホラと見かけるようになったな。何かウチと関係が――)
「フゥ……6日かけて1個だけか。やはり従来の化鉱法では運頼みにしかならんな」
「そうだね。ギルドはまったく別の手法を確立したのかもしれないねぇ」
両親はラッセの疑問に答えるかのように現状を吐露した。
他の鍛冶屋がスーファミを材料として利用しはじめ、この店だけが置いて行かれている現状を。
冒険者稼業に奔走している内にこのような事態になっているとは、少しも思っていなかったため、ここにきて彼の内心では不安が渦を巻いて広がっていた。
「ふむ…………いよいよ明日か」
「ああ、明日までに化鉱法を突き止められなきゃ、あんた……」
「分かっている。店はたたむ」
(えっ⁉)
不可視の衝撃が走った。あまりの驚きに瞼がビクッと痙攣し、心は平常を失いそうになる。
聞き間違えのはずだ――そんな一心でまたもや耳を澄ますも、彼の様子を知るはずもない両親は「これが最後になるかもしれない」だとか「死力を尽くして成し遂げられないのなら、それはそれで満足だ」だのと鍛冶屋の終焉を予期させる言葉ばかり口に出す。
(ウソだ……ウソだッ!)
聞いていられなくなったラッセは、飛び出すようにこの場を去った。
*****
凱旋するはずだった場所、帰るべき場所が潰れてしまう。
どうすればいい? 自分に何ができる?
出口の見えない迷路をさまようかのように悩み続けるラッセ。
体を動かしていないとどうにかなってしまいそうな、そんな焦燥に駆られた彼は、夢遊病患者のように夜のハリケーンウインドをさまよっていた。
ふと、自分が見慣れぬ路地に立っていることに気づいて、ようやく足を止める。
ここはどこだ、なんでこんなところを歩いてる? 彼は自分が相当まいっていることを自覚した。
(オレはただ鍛冶師になりたいんじゃなくて、もう一度親父たちと鍛冶場に立ちたかったんだ……)
それがかなうなら何だってする覚悟はあった。しかし打開策は思い浮かばず、家の窮地を救う手立てがないことに歯噛みせざるを得なかった。
そんな時である。
夜街の路地で棒立ちしている少年を怪しんでか、物陰から声がかかった。
「何をやっている?」
「うわああああ⁉」
ラッセは死ぬほど驚いた。それも仕方のないことだろう。闇から這い出るように現れた人物は、容貌の一切を黒衣で包み隠した一等の不審者であったのだ。
「んだよ、お化けでも見たように驚いて。言っとくけど、さっきまでのお前の方がよっぽどそれらしかったからな?」
「え、あ……」
ラッセは我に返ると、眼前に立つ者に見覚えがあることに気づく。
「ま、マロゾロンド……」
「ん、俺を知ってんのか? ドワーフに知り合いなんていなかったはずだけど」
「あ、いや、こっちが勝手に知ってるだけだ。オレも冒険者だから……」
「ほー。で、何してんのここで」
(怪しいうえに馴れ馴れしい奴。聞いてどうするんだよ)
ラッセは「さあね」といってこの場から脱しようとして、ふと、昼間のこと――掲示板に貼られていたマロゾロンドの広告――が脳裏をよぎった。
(そういえば、知恵でもなんでも請け負うみたいなこと書いてあったな)
逃げる足をとめて黒衣の者をジッと見る。
矮躯で頼りなさげだが、冒険者ギルドは彼を有望視しているらしい。
別に依頼するわけではないが、状況が変わるきっかけになるかもしれないと思い、少しだけ話してみることにした。
「なぁ、少し時間あるか?」
*****
「鍛冶師ギルドの連中を頼れば? ギルドに加われば安泰だと思うぜ」
返ってきたのは至極もっともな答えで、しかし取ることのできない手段だった。
「ダメなんだ」
「なんでだ?」
「親父は誰にも頼りたくないと思っているし、実際頼らないドワーフなんだ。それこそ、どんな苦境にたたされても……」
「ふぅん。職人気質って感じでエエね。グーよグー。ってか、そのまま信念を貫き通させてあげるのも有りなんじゃないか?」
「お、オレが困るんだ!!!」
「おっふ。なんでだよ? はは~ん、まだ話してないことあんのね? お兄さんに話してみ?」
(お兄さんって年じゃないだろ!)
黒衣の子供へのツッコミを心の中に留めたラッセは、結局自分の夢について話すことにした。途中、どうしてこんな奴に話してるんだという思いが浮かんだが、とめるでもなく話し続けた。
なぜなら、少し前まで持っていた黒衣の矮人への不信感は、妙にフランクな態度のせいでいつの間にか無くなっていたからだ。
そして話し終えた後、マロゾロンドはこう口にした。
「お前が親子プレイしたいことはよぉく分かった。とりあえず店が潰れなきゃいいんだよな? だったら、解決できる策はあるぜ」
「え、本当か‼」
「ああ」
望外の僥倖である。話してよかったとラッセは心底思った。
「で、どうすればいいんだ!?」
「や、タダでは協力できん。依頼扱いにさせてもらうぞ。じゃないとフェアじゃないしな」
「フェア?」
「ま、ま、そこは気にスンナ。で、金はあるか?」
「う……」
あるにはあるが、貯金は鍛冶道具を揃えるための支度金である。おいそれと払えるものではなかった。
「無いのか。フフ、安心しろ。無い奴にもおススメの低価格コースがあるぞ。トントロポロロンズを朝夕、生涯にわたって食べ続けることを誓うだけで、お値段はなんと…………フフ、聞いて驚くなよ?…………な、なんと…………たったの…………銅貨一枚にドッヒャアア~~~⁉」
マロゾロンドはひとり勝手に仰天――それも自分のセリフで――していたが、確かに驚くべき安さだった。
街中にいくらでも落ちていそうな銅貨一枚程度で実家の鍛冶屋が潰れないで済むのなら、訳の分からない条件があっても受けない手はなかった。
「誓う! オレはトントロポロロンズを食べ続ける! もともと好きだしな……トントロポロロンズ」
「決まりのようだな」
ニヤリ、彼が黒衣の下で笑った気がした。
*****
翌日の朝。
『頑固一徹』の浮沈を決定づける最終日である。
ドッコラとラッセは今なおスーファミの化鉱法を発見できず、どうにかできないものかと試行錯誤を続けていた。
そんなところに、
「おーい、店主はいるか?」
受付台の方から声――予期せぬ来客が訪れたようだ。
店は閉めているはずだったが、来てしまった客を無視するわけにもいかない。
ドッコラは金槌をふるう手をとめ、しかたなく応対に出る。
「すまん。せっかくきてくれて悪いのだが今日は――――ん?」
カウンターの向かいには、客など立っていなかった。
「なんだ、気のせいか」
「いや、気のせいじゃないよ」
「おお、すまなん……だ?」
カウンターの周辺をくまなく探すが、やはり客の姿は影も形も見えない。
ドッコラは首をかしげつつ、この声は疲れによる『幻聴』に違いないと思った。
嘆息しつつ作業台の方に踵を返すと、
「君に化鉱法を授けよう」
ピタ、と歩みが止まる。幻聴がこうもはっきりと聞こえてくるとは。
しかも甘い言葉で興味を引いてきて、幻聴なのに耳を傾けざるを得なかった。
「ドッコラ、君の化鉱法はまるでなっちゃいない。トンカチで叩いて無理やり筐体を外すなんて、とても野蛮で愚かしいことだ。内部部品を壊さないように筐体を叩き壊すコツを技術と呼ぶだなんて、滑稽ですらある」
幻聴はドワーフが長年にわたって培ってきた鍛冶技術を滑稽と評してきた。
いかに幻聴といえど、これにはドッコラも黙っていられない。
「ドワーフ3000年の歴史を馬鹿にするか幻聴め!では技術とは何だというのか!」
「フフ……私の言う通りにすれば嫌でも知ることになる。まずは鍛冶場に向かえ」
「フンいいだろう。是非とも教えてもらおうではないか。教えられるものならな」
ドッコラは鍛冶場に向かい幻聴はその後を追った。スイ~と、天井を滑る様に。
*****
「というわけで幻聴の技術とやらをみせてもらうことにした」
「……いやあんた、あたしにも声が聞こえてるから幻聴じゃないよ」
「この際そんなことはどうでもいい。さあ幻聴よ、次はどうすればいい」
「そう逸るな。奥方への挨拶が先だ。ごきげんようMrs.セット」
「あ、ああ。って、どうしてあたしの名前を? それにどうして姿が見えないんだい?」
「それは、ええと、私が幻聴だから、だ!」
「……へぇ」
全く説明になっておらず当然理解も及ばなかったが、セットはとりあえず納得することにした。
連日の疲れがたまって頭が正常に働いていないのか、常識外の存在に随分と寛容になっているようだ。
幻聴は心の中で「セーフ!」などとのたまいつつ、鍛冶場を見渡す。
そして隅に転がる物体に気づいた。
「おお、あそこに置いてあるのはプレステじゃないか。ではプレステを化鉱する術をお見せしようかな」
「もしやPlaystaytionのことを言っているのか? 幻聴よ、それは大ボラが過ぎるぞ。Playstaytionを化鉱できた例など過去に一回しかないのだ。ドワーフの国では化鉱されたそれを『Plastic』と呼び、国宝として貴重に扱われているほどだというのに……」
ドッコラは幻聴の言葉を妄言だと鼻で笑った。
当の幻聴はそんな態度を取られてもどこ吹く風で、むしろ笑ってすらいた。
「フフフ、プラスチック……それも国宝ときた。色んな意味で時代錯誤だな。ドワーフ族よ、君たちは気づくべきだ。時代はインテリジェンスを求めているということを。今こそ革命の時……時代の転換点の目撃者は――君だ! さあ、プレステを作業台に置けぃ!」
無駄に居丈高に、且つぶれぶれなキャラで命令してくる幻聴に、ドッコラはとりあえず従うことに決め、プレステを作業台に置いた。
連日の疲れがたまって頭が正常に働いていないのか、常識外の存在に随分と寛容になっているようだった。
「さあ、どう化鉱する」
「あたしも興味があるね」
「いいか、私は幻聴なので直接触れることができない。なので私のいったとおりに手を動かしてくれ」
「うむ」
ドッコラが首肯したのを確認すると、幻聴は説明を始める。
「トンカチを振るうのはナンセンスだと理解せよ。技巧などは一切不要!化鉱に必要なのは正しい手順、これだけさ。さあまずはひっくり返してくれ」
「ああ」
「――よし。四隅のくぼみに黒い円が見えるだろう。これはネジというもので、君たちに分かる様にいえば釘という言葉がふさわしい」
「こ、これは釘だったのか……‼」「そうだったのかい⁉」
目が飛び出そうなほどに驚きを露わにするドワーフ夫婦。
「で、でもどうやって抜くんだい?」
「ネジに十字のくぼみがあるだろう? それに合うように成形した工具をはめこんで、左に回すんだ。それだけでネジは外れる……フフフ」
「「そ、そんな手が…………!!!」」
唖然とした表情を浮かべるドワーフ夫婦。
ドワーフ3000年の歴史破れたり――幻聴はニヒルな笑いを浮かべた。心の中で。
「ほんの少し待ってくれ。これくらいの成形ならすぐだ」
ドッコラは器用且つ機敏に余材を切削し、またたく間にねじ回しを作った。
「では、回してみるぞ……」
ゴクリ、と誰かが喉をならす中、場の全員がドッコラの手元に注視する。
くるくると回るドライバーと、それに連動して回転するねじ。
やがて空回りしたことを知覚すると、ドッコラは震える手でねじを掴み――――――――取り除くことに成功した。
「「お、おおおおおッ!!」」
「驚いてないで、ホラ、あと四回繰り返すんだ。四隅とは別の場所にも一か所だけねじがある。分かるな?」
「ああ‼」
興奮で震える手を必死に抑え込み、次々とねじを外していく。
そして最後のネジを外し終え、「ひっくり返せ」と言われたのでひっくり返し、「横だけ挟むように持ち上げろ」と言われたのでその通りに持ち上げた。
すると、筐体は外れて内部が露出した。
「うおおおおお!!!?」「こんな簡単に、内部を潰さずに……あはは」
「フ、トンカチに頼るなど馬鹿らしくなったろう?」
幻聴はさも平然と言うが、ドワーフ夫婦にとっては――特にドッコラにとっては蒙を啓かれた気分だった。
(叩き壊さずに内部に辿りつくなど、有史以来の大発見ではないか……‼ 今までの苦労はなんだったというのか……これではまるで、ワシが馬鹿みたいではないか。いや、馬鹿を繰り返したゆえに、かような幻聴が降りてきてくれたのかもしれんな……馬鹿なワシのために)
彼は幻聴に大きな信頼をいだいた。ドッコラというドワーフは、自らの世界の外に立つ者を拒絶する一方で、内なる声にはチョロかったのである。
幻聴を神の如く敬いはじめた彼は、宣託を聞き逃すまいと耳を澄ます。
「さて、ここからは内部の分解だ」
「……‼」
「へぇ、内部も――」
「セット、静かに」
「…………」
「フフ、やる気になっているようだな。では説明しよう!」
GEEKな一面を持っていた幻聴はプレステを細部まで把握していた。
あれを外せ、これを抜けと命令していき、ドッコラは従順に手を動かしていく。
(これはこうするのか……この板状の部品は? ふむ……ふむ……何と! そんな方法で抜けるのか。して次は、レールとな? ほう、この軌条を……おおッ!)
そんなこんなで数分後……。
「あ、あんた……」
「あ、ああ。信じられんが、全部品壊れることなく分解できた……できてしまった」
ドワーフ夫婦は感動で胸が打ち震えた。彼らの感動は尤もなことだ。
この一連の分解方法は彼らの持つ知識とは一線を画すもので、概念転換の瞬間に立ち会えたようなものだった。
「とまあ、このようにできたわけだけど。スーファミだって要領は一緒さ。分解なんぞに神秘や経験的な技術なんていらんのだよ。てなわけで、残すは化鉱のみ。やり方は流石に分かるよな?」
「勿論だ」
全ての部品が作業台に並んでいる。後はお決まりの言葉を唱えるだけだ。
ドッコラは祈る様に呟いた。
「【再構築】」
淡い光につつまれた全部品は一点に収束し、ひとつの塊となる。
光が解けるとそこには、燦然と輝く鉱物――プラスチックが生成されていた。
「…………」「…………」
ドッコラとセットの頬にツゥと涙が伝う。
彼らはこの技術を、今日という日を忘れないだろう。
で、あれば。
「幻聴はクールに去るぜ」
呆然と涙を流す夫婦をよそに、誰に聞かせるでもなく幻聴はつぶやいた。
目的を果たした彼は、クールにスイ~と去るのであった。
*****
数日後。
白昼、街なかを異色の二人組が歩いていた。
ドワーフのラッセと黒衣のマロゾロンドだ。
彼らは目的地へと足を向けつつ会話を交わしている。
「え、お前鍛冶屋に戻れたん?」
「ああ。様子の確認ついでに顔を出したときに、『忙しいから戻ってこい』って言われたんだ。『馬鹿やったのは大目に見る』って。あの頑固親父が重い腰をあげるなんてビックリしたよ」
「良かったじゃん。鍛冶道具を揃える必要もなくなったな!」
「ああ。……おっとそうだ」
思い出したようにラッセは、懐からリオデジャネ色に輝く玉を取り出した。
「これ、作ったからやるよ」
「なにそれ?」
「これはプラスチックと水晶を混ぜて作ったクリスタルだ。何に使えるとかは無いんだけど、とにかくもらってくれ」
「ふぅん? ま、貰えるもんはありがたく貰っとくぜ」
黒衣で覆われた手のひらがそれを受け取ると、太陽にかざし内部を透かし見て、その後スルリと体にしまいこんだ。
マロゾロンドは知らない。何気なく受け取ったクリスタルが、ドワーフ王家に連なる者が感謝の意を示す際に送る紀章であることを。
ドワーフ国王弟ドッコラの息子ラッセの、感謝のしるしであった。
飴玉くれてサンキュー気分なマロゾロンドは特に感慨も無く会話を続ける。
「そうだ、プラスチックといえばよ、どうして店でプラスチックを扱わないんだ? 他の店と同じスーパーファミ鋼じゃ箔がつかないだろうに」
「故郷で国宝になっているものを売り出すわけにはいかないからだってさ」
「あーそりゃ納得。でも、いつかは当たり前のものになっていくと思うがね」
「その時はその時だよ。っと、話してる間に着いたみたいだ」
「おお、いつの間に。って、んん!?」
彼らの視線は飾り気のない外観の建屋――『頑固一徹』に向けられた。
賑わいを取り戻したのか、そこには過日の寂れた雰囲気など無くなっている。
アカンコドリもいずこかへ飛び去っていったようで、万事快調といった具合だ。
しかしマロゾロンドが目を惹かれたのはそこではなかった。
ラッセは言う。
「今日オマエを呼んだのは、さっきのクリスタルを渡したかったのもあるけど、どうしてもあれを見せたかったからなんだ」
「ああ、クフッ、見えてるぜ……ブハハッ! ここまでやるかァ⁉」
鍛冶屋のすぐ横には一本のトント樹。
その樹にはまだ熟れていないトントロポロロンズが実っている。
ラッセは、鍛冶道具のために貯めてあった支度金全てをトント樹の移植に費やしたのである。
「これがオレの誠意だ、マロゾロンド」
「へへ、やりすぎだっつの」
「やりすぎだとは思わない。今でも悔いているんだ。本当に良かったのかって。親父たちはオマエがくれた革新的な化鉱法を、降って湧いたものだと思ってる。そんなの、あんまりじゃないか…………」
「バッカ気にスンナつったろ。俺にとっちゃマジで屁でもないことなんだよ」
声色に嘘は無いように見えた。
彼はたった一枚の銅貨で技術を丸ごと譲ったことに、何の後悔も感じていない。
そのことにラッセはじぃんと感じ入った。
ともすれば涙すらこぼしてしまいそうだ。
「トントロポロロンズ、毎日食べるよ」
その声は震えていた。
「ありがとうマロゾロンド……本当に、ありがとう」
「フ、いいってことよ。あ、トントロポロンを生み出さないように頼むぜ!」
「ああ……」
*****
ラッセと別れた黒衣の者は、人であふれかえった通りを軽やかに横滑る。
彼は今、無事お勤めを終えてシャバに出たような解放感を味わっていた。
「鍛冶ギルドに分解テク教えちゃったせいで、所属してない店に被害が出ていたとはなぁ。でもま、これでバランスとれたし安心安心♪」
彼の呟きは雑踏に埋もれてゆくのだった…………




