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残されていた物

魔導船には5つの部屋がある。4つの部屋は二段ベッドと収納スペースを兼ねた机が二つ、そしてこの船を所有していたらしき人の使っていた部屋は他の部屋と違って倍の広さがあり、大きなダブルベッドと壁を埋め尽くした本棚、そして立派な机がある。そこにネイリーとマリアが並んで魔法の書を開いていた。


「なんだ、ここにいたのか?」


 突然扉が開いてアレックスが入ってきた。少し顔が赤く呼気が酒臭い。その匂いにマリアが顔を顰めた。ネイリーがは一言文句を言うことにした。


「酒か?あまり感心しないね。」


「ふん!俺は16で酒を飲んだことで文句を言われる筋合いはない。それよりあいつはどうなった?姿が見えないようだが。」


 アレックスは部屋の中にジギーの姿がないことに気づいていた。


「一通り適正は分かったから家に帰した。無理をさせてもいけないからね。」


「ふ~ん、そうか。で、どうなんだ?使い物になるのか?」


「うん、まあ何と言っていいか・・・。」


「なんだ、ずいぶんと歯切れの悪い言い方だな。駄目なら適度に面倒をみてやって諦めさせろよ。」


 アレックスはネイリーの答えを見込み無しと受け取ったようだ。


「それがね、結論だけ言うとあの娘、かなりの才能の持ち主だったの。」


「とんでもない才能?お前らの言う基本の魔法も使えないあの娘がか?多分あの雷のことなら単なる偶然、お前ら買いかぶりすぎだ。」


「あれは偶然じゃないよ。まごう事なくあの子の実力だ。」


「またまた~、あの娘の境遇には同情するのは分かるが、だからと言って無理に連れて行こうとしなくてもいいぜ。」


 アレックスは二人の言葉を本気で受け取らずに笑いながら答えた。腰から鞘ごと剣を抜いてベッドの上に放る。そのままベッドに身を投げ出して横になった。


「そうじゃない。いや、同情しているのは間違いないけど才能があるのは本当のことだ。基本放出魔力だけなら僕の三倍、マリアの二倍の才能があった。」


「俺に専門用語を言われても困る。分かりやすく説明してくれ。」


 アレックスには魔法は使えない。それだけは分かっていたので魔法について学ぶことはしてこなかった。魔法を使う相手には魔法を唱える時間を与えなければいい、それだけは理解している。


「う~ん、難しいな・・・・よしじゃあ剣に例えるけど、アレックスはその剣を片手で扱うことができるよね?その剣の重さはどれくらい?」


「あ?ああ、こいつなら2~3kgの間ぐらい。まあ2.5kgってところかな?」


「うん、まあ予想どおりだ。僕は君と違って重たい剣を扱えない。僕の使っていたこの剣はおよそ1.5kgだ。」


 ネイリーは腰の剣の柄に手を当ててそう説明した。鞘に入って刃は見えないがかなり細めの剣であることは分かった。


「で、それが何の関係がある?」


「今言ったことが僕とマリアの魔法の才能の差だ。さらにジギーはそのマリアの二倍の才能がある。つまり剣なら5kg、両手剣を片手で扱うことができるぐらいの才能だよ。」


「まじかよ。じゃあなんで基本の魔法は使えなかったんだ?」


「力のコントロールができていない。小さなナイフを全力で振り回しているようなものだ。そんな攻撃、君に当たるかい?」


「OK、よく分かった。うまく育てばかなりの戦力になるとお前らは言うのだな。じゃあもう一つ質問だ。なんでそんな沈んだ顔をしている。才能に対する嫉妬か?それとも自分の復讐の道具として使うことに対する葛藤か?」


 アレックスの疑問にネイリーははっとした。自分でも何に対して苛立っているか分からなかったが、今アレックスの言葉ではっきりと理解したのだ。


「嫉妬じゃないな。僕には秀でた剣の才も魔法の才もないことは承知している。それでも戦い方によっては君達に負けることはないとも理解している。となると君の言うことが正解のようだ。まさか自分でも理解していなかった心の中まで君に当てられるとは驚きだ。」


「ふっ!お前、俺のことを馬鹿だと思っていないか?これでも帝王学を習っている。それに中隊長待遇で軍にいたこともある。人の心ぐらい分かるようになるさ。」


「どうやら君を見くびっていたようだ。」


 ネイリーは両手を上げて降参の意思を示した。

 

「まあそれはいい。どちらにしてもお前がどう思おうがあの娘はついてくる。それをどう使おうがお前の勝手だ。だがついてくるなら使い捨てにするような真似はするなよ。じゃあ俺は他の部屋に行って寝る。」


 アレックスは放り出した剣を手にすると起き上がって部屋から出て行った。残されたネイリーは無言で魔法の書に再び目を通し始めた。マリアはかける言葉もなく就寝の為に別室に移動した。


 -------------------------


「・・・あまり寝た気がしないな。」


 机に突っ伏した格好で目が覚めたネイリーは背伸びをして体をほぐす。関節が音を立てておかしな姿勢で寝たことに抗議する。柔軟体操をすることで全ての抗議を言わせた。


「おや?こんな場所にも収納スペースが・・・。」


 柔軟体操をしているとベッドの下に引き出しがあることに気付いた。今から考えると気づかなかったことは迂闊だった。空間が限定させる船の中ではあらゆる空間を有効利用するのは当然である。そんなことを考えながらその収納スペースを開けるべく手をかけた。


「これは?」


 引き出されたのは平たい箱、その中には一本の剣と小型の魔法杖とボウガンのような武器と黒い鎧、そして水色の服が入っていた。まず剣を手に取って鞘から抜く。反りかえった片刃の剣、鏡のような金属光沢に吸い込まれるような気がした。


(かなり軽い。長さは今までのとほぼ同じ。片刃だけど使えるか・・・。)


「おいっ!起きているか?もう太陽は昇っているぞ。」


 また突然扉が開いてアレックスが入ってきた。ネイリーは慌てて剣を鞘に収め、引き出しを元に戻した。


「何だよ、また隠し事か?」


「別に隠してなんかいない。ただびっくりしただけだ。」


「まあそういうことにしておいてやる。で、何があったんだ?」


「多分、この船の主の武具。ベッドの下に収めてあった。」


 ネイリーは再び引き出すと中身をアレックスに見せた。ネイリーと同じく剣に手を伸ばすと鞘から抜く。やはりその刀身に心を奪われた。


「これはすごい。うちに伝わる剣に比べれば劣るがそれでもかなりの代物だ。お前が使う気か?」


「いいのか?君が使いたいと言うと思ったのだけど。」


「俺の目を誤魔化せると思うなよ。そいつ、もう使い物にならないんだろう?」


 そう言うとアレックスは机のそばに立てかけてあったネイリーの剣を手に取り抜き放った。その剣身は途中で折れて存在していない。


「やっぱりな。腰にある時からバランスがおかしいと思っていたんだ。」


「城から脱出した時、何度も魔物が襲ってきた。何匹目かの魔物を刺した時に折れた。先祖伝来の大事な剣で捨てることはできなかった。」


「まあそいつは大事にとっておくことだな。武器がなくては戦えないからその剣を使えばいい。俺にはこいつがある。必要なら城に戻った時にでも伝来の剣を取ってくるさ。」


 アレックスは腰の剣に手を当てて、素っ気なくそう言った。不器用なものの言いようではあったがネイリーはその申し出をありがたく思った。


「ついでだ。そこにある鎧も着るといい。」


「鎧までいいのか?ここにあると言うことはそれなりの代物だと思うけど。」


「ふっ、見たところその鎧は革でできている。俺には城からの支給品の鎧がある。メタルマで作られた特注の鋼の鎧でこれまた気に入っている。しばらくは変える気はない。」


「・・・ありがとう。」


「礼を言われる筋合いはない。それより他のは何だ?」


 アレックスは面と向かって礼を言われて気恥ずかしかったので話題を変えた。ネイリーと共に他の三点の道具を手に取った。


「そっちは魔法の杖か?随分と短いな。で、こいつはローブか。マリアは欲しいと言うかな?」


「おそらく要らないと思う。彼女が着ているのはミスリルローブ、あれ以上の物はそうそうないよ。」


「そうか。ならジギーにでも着せておくのだな。それでこれはなんだ?トリガーみたいな物がついているのを見るとボウガンみたいだがつがえる矢もない。」


 アレックスはボウガンのような形の物を手に取った。直径10cm、長さ30cmぐらいの金属の筒、その端の持ち手を握る。人差し指がトリガーらしき部分に触れた。


「分からない。でもどこかに説明書があると思う。」


「なんで分かる?」


「この船、この部屋の持ち主は記録魔だ。不明なまま放置しておくことはないと思うよ。」


「なるほど、なら朝食の後にでも探そう。マリアが待っているから上に行こうぜ。」


「ああ、そうしよう。」


 ネイリーはそう返事をすると新しく手に入れた剣を腰に収めて部屋から出て行った。


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