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大王の晩餐

 連合王国大王ガイラ三世によって晩餐が開かれていた。一際大きい人集りの中央ではさっきまで大王とアレックスが飲み比べをしていたが、今は解散していない。かたやマリアは数多くの着飾った貴族の子女に囲まれて、常に宴席の華となっている。しかしネイリーに話しかけてくる者はほどんどいない。たまに近づいてくる者はいてもどこか気を使っているのが分かる為、ネイリーは望んで壁の花となっていた。


「こんな所にいたのか。どうやら退屈させてしまったようだな。」


「いいえ、そうでもありません。傍から眺めているだけでも結構楽しめるものですよ。」


 ネイリーはそう答えながら大王から差し出されたグラスを受け取る。形だけ口をつけてテーブルに置いた。


「酒はそれほど好きでないか。それともそんな気分ではないか?」


「まあそんなところです。申し訳ありません。」


「いや、人それぞれだ。気にしなくていい。それより、ここから何が見えた?眺めているだけで楽しめたものとやらを聞いてみたい。」

 

 そう言うと大王はネイリーの向かいの席にどっかりと腰を下ろした。


「・・・一つ聞いてよろしいですか?」


「いいぞ。一つと言わず何でも聞いてくれ。」


「ではアレックスとはどういったご友誼であられますか?大王様の家臣の方々も訝しんでおられましたが?」


「何だ、そんなことか。今日の晩餐で何度も答えている。アレックスの師は俺の師でもある。愛すべき生意気な年下の兄弟子、ただそれだけのことだ。」


 大王ガイラ三世は照れくさそうにそう語った。ちらりと送った視線の先には機嫌よく杯を傾けるアレックスの姿、一瞬目が会ったのか互いにニヤリと笑みを浮かべた。


「大王様は特殊な武術を習得していると聞いていますが?」


「流派雷牙、徒手での戦闘を得意としている。だから老師からは、武術について教えることはないと言われた。それでも何か教えて頂きたいと、主に11の人の領主達イレブンローズの手ほどきを受けた。知っているか?」


「こちらの大陸で主流のチェスの一種ですね。確か戦術駒が20種類以上もあって、しかも自由に構築できる為チェスよりはるかに難しい。でも何故そんな遊びを?」


「ふっ、たかが遊びと侮るなかれ、我が国では戦争の代わりにこいつで勝敗をつける場合もある。実際に国と国をかけた一番もあるぐらいだ。他国から師を招いたとしてもおかしくはない。どうだ、興味が沸いたなら一セット進呈しようか、船旅の暇つぶしぐらいにはなるぞ。」


「はあ・・・ではありがたく頂戴します。」


 大王は身を乗り出して力強く語った。思わずその勢いに負けてネイリーは返事をすると大王の顔が喜びで破顔した。


「よし、ならば明日の朝にでも船に届けさせよう。いずれ対戦できるのを楽しみにしているぞ。」


「できるだけ期待に添える様、精進致します。」


 この話は終わりそうにない。大王の顔色からそれを読み取ったネイリーは別に話題を探す。絡みつくような視線に気付いた。


「失礼ながらあちらの方々はどなたですか?」


「あれはアシェリー卿とハットン卿、末端だがマグダネルとは異なる王家に連なる者だ。ああして我々を監視しているが、害はないから許してやってくれ。」


「監視ですか?でも、なんの為に?」


「優秀な手駒に入れる為、もしくは手に入れさせない為だ。聞いたことはないか、我が国に伝わる試しの儀を。」


 その言葉にネイリーは連合王国の複雑な王位継承システムを思い出した。かつてこの大陸に群雄割拠していた王国は長い年月を経て淘汰され、マグダネル、ロッキード、フェアチャイルドの三王家が残った。その後、共倒れを恐れた三王家は連合し、長い群雄割拠の時代を終わらせた。ただし、誰が連合の主になるか、それが問題として残った。


「魔物を相手に自らの強さを証明する儀式、そう聞いています。」


「そうだ。大王になる為、そしてなった者は常にその力を試される。それが試しの儀だ。試しの儀では本人を含めた4人で魔獣と相対する。そして俺とお前達3人で4人になる。彼等は俺達が手を組むことを恐れているのだ。」


「それは買いかぶりというものです。」


「謙遜は無用だ。この海を乗り越えてきただけでもその胆力は分かる。そしてその胆力が実力に裏付けされたものであることもだ。」


 ネイリーは言葉を詰まらせた。秘匿している魔法や技術を後ろめたく感じたからである。


「海を超えると言えば、ローザラインやメタルマにエグザイルの船が来ていました。商いの為とは言えすごいことかと思われます。」


「う~ん、あの者達は違うな。根拠は分からんがおかしなお守りを手に海に乗り出して行った。たしかこんな感じだったか・・・。」


 そう言ってこぼれた水でテーブルに書かれたのは八本の放射線、ネイリーは思わず息を飲み込んだ。


「大王様、これが何かご存じですか?」


「知らん。お守りなんぞに興味はない。」


「これはお守りではありません。終末思想を煽っている新世界教の聖印、そしてその後ろに魔族がいると思われます。早急に対処するべきかと・・・。」


「分かった、早急に手を打とう。ヘクター、ヘクターはおるかっ!」


 大王ガイラ三世は大きな声を上げると腹心であろう男を呼び出した。少し離れた場所にいたのか、すぐに駆け寄り大王の前に跪いた。


「大王様、お呼びですか。」


「この紋章について調べよ。」


「これは最近流行りの魔除けですが、これがいったい何か?」


「先入観なく調べよ。」


「承知しました。では失礼致します。」


 その騎士ヘクターはネイリーの方を一瞥すると、深く一礼してから立ち去った。 

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