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炎の宝玉

「これで貴様を護る盾はなくなったぜ。無駄な抵抗は諦めて捕まれ。気に向いたら命だけは助けてやる。」


 アレックスの足元には三人の死体が転がっている。初めに倒した者とアイゼンマウアー老の倒した者にはそれなりの腕があったが、乱入者の首魁に無理やり押し出されてきた後の二人の腕は拙かった。それをあっという間に切り捨てたアレックスは、首魁に向かって剣を突き出した。


「その気もないくせに戯言を言うなっ!」


「へっ、分かってるじゃないかっ!」


 アレックスは返事もそこそこに一気に駆け出した。魔法を使われる前に潰す、アレックスの思惑に反して相手の魔法が完成した。


「להבה לטהר」


 敵の頭上に直径1m程の火球が浮かび上がる。それが突っ込んでくるアレックスに叩きつけられた。


「俺に炎は効かないっ!」


 左脚で急ブレーキをかけて止まる。アレックスは左手の盾で火球を弾き飛ばすと、その勢いのままに右手の剣で下から切り上げた。鮮血が飛び散らせて前のめりに倒れた。


「馬鹿な・・・私の魔・・・無事でいられ・・・ない・・・。」


「死ぬ前に一つだけ聞く。貴様等、何を企んでいる?」


 うつ伏せになったまま動けなくなった相手を足で仰向けにした。


「・・・なるほどミスリルでできた盾・・・か?」


「そうだ。メタルマで借りてきた勇者の盾だ。」


「馬鹿王子の・・くせに・・・・生意気だな。」


「おい、聞いているのはこっちだ。質問に答えろ。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


 焦点の合っていない目が虚空を見つめている。何を言っているのを聞こうとアレックスは口元に耳を近づけた。


「下がれ、アレックス。それは魔法だ。」


「ちっ、悪あがきを・・・。今更何をしても無駄だ。」


 飛び下がったアレックスが悪態をつく。その瞬間、倒れた男を中心に巨大な火柱が上がった。渦を巻いて炎が燃え広がる。そこらに転がっていた者達が無差別に巻き込まれた。


「無茶苦茶だ。まだ生きている仲間もいたのに・・・。」


 思わずネイリーが呟いた。範囲魔法に対する盾として生きたまま倒しておいた相手が、なすすべなく炎に包まれのたうち回っていた。


「・・・浄化の炎に灼かれた者は新たなる世界へと導かれるのだ。わははははははははははははh・・・・・・・・・・・・・・・・。」


「狂ってやがる。」


 炎の中で笑い声が徐々に小さくなっていく。アレックスはどうすることもできず炎が収まるのを待って立ち尽くしていた。


 しばらく燃え続けた炎はその場所には炭すら残さなかった。アレックスは焼け焦げた床石の上を歩く。足の先に何かが当たったことに気付いた。


「おっ?」


 しゃがみこんで確かめると、一度溶けた金属が固まって床にこべりついていた。よく見ると赤い宝石が張り付いている。アレックスは宝石に手をかけると思いっきり力を込めて金属から引き剥がした。


「どうかされましたか?」


「ああ、これが落ちていた。爺、何か分かるか?」


「ふむ、これは炎の宝玉、あの炎の中でも燃えないとは流石ですな。」


 アレックスの手の中の宝石を覗き込んだアイゼンマウアー老が暢気にそう言った。


「じゃあ奴が持っていたと言うことか?」


「でしょうな。炎の宝玉を奪った帰りに殿下と遭遇した、運がなかったとしか言い様がありませんな。」


「おい、運がなかったとは誰のことだ?」


「はて、何のことやら・・・。」


 とぼけながらもアイゼンマウアー老の視線が一瞬だけ謁見の間の方に移った。そこではネイリー、マリア、ジギー、ジークフリートが負傷者を救護するべく奮闘している。アレックスの視線の先で担架で運ばれていく父親の姿が見えた。


「どうやら陛下は無事だったようですな。」


「みたいだな。しかしまあ、剣を盗まれた上に宝玉まで奪われるとは情けない話だ。近衛は何をしていた?」


「わしは知りませぬ。ヴァイスミュラーはわしの言うことは聞きませぬ故・・・。」


「そうだったな。で、そのヴァイスミュラーはどうなった?」


「さあ、どうでしょう?生きていればよろしいですな。」


 なんとも言い難い笑みを浮かべると皮肉な口調でそう言った。先と今の近衛騎士隊長である二人の仲はすこぶる悪い。アレックスは苦笑するしかなかった。


「まあいい。それより炎の宝玉のことだが、奴等の炎で失われたことにしておいてくれんか?」


「・・・わしは何も見ておりません。それでよろしいですか?」


「そうしてくれると助かる。俺が城に戻ってきた理由はこいつにあった。本当は勇者の剣も欲しかったんだが、そっちはこれから追いかけることにする。」


「殿下は勇者の剣を取り戻す為に再び旅に出ました、そう陛下には伝えておきましょう。」


 アレックスとアイゼンマウアー老は互いに顔を見合わせると、意味深な笑みを浮かべた。

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