新世界教徒②
「おい、よくもやってくれたな。生きてここから帰れると思うなよ。」
そう言うとアレックスは剣を抜いて駆け出した。神官長の前に剣を持った二人が進みでて、アレックスの突進を止めた。
「これは勇ましい。だが、そこをどきなさい。命が惜しければですがね。」
「うるせえ、黙れっ!敵は倒す。それだけで十分だ。」
「問答無用ですか。では、万人に等しき滅びを貴方に・・・。」
神官長の右手が軽く上げると並ぶ者皆がアレックスに向かって構えた。剣を持った者だけでも4人、全員で7人に迫られてもアレックスが下がる様子はない。
「加勢する。マリア、後ろは任せた。」
ネイリーはそう言うと刀を抜いて駆け出した。一瞬遅れてジークフリートも駆け出す。さらに遅れてアイゼンマウアー老がゆっくりと前に進み出た。
「危険です。前に出ないで下さい。」
「心配は無用、年寄りと侮るでないわ。」
マリアが制止するにも関わらず杖を片手に歩き出す。アレックスに2人、ネイリーとジークフリートが各一人ずつを相手にしている。加勢に入るつもりなのは明らかであった。
「もう、皆して勝手なことを・・・。」
マリアは憤りを押さえ込む、焦りや怒りが有利に働くことはない。敵は7人、その内剣を持っているのは4人、後の三人は魔法を使えるのか、謁見の間から見える惨劇からそう考えた。
「いい、ジギー?相手は火炎の大魔法が使えるかもしれないわ。」
「えっ!?」
「詳しい話は後、貴女はあの偉そうな神官に大火球の魔法を撃って。」
「ここからじゃ当たらないよ。アレックス達が邪魔になる。」
「当たらなくてもいい。頭上にでもぶつけてやりなさい。」
「分かった。」
ジギーは返事をすると、指示に従って魔法の詠唱を始めた。マリアにも言った様に当てる自身はない。いや、それだけではない。人に向かって攻撃魔法を使うのは初めてだった。
《ぼくは魔力を8消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ・・・》
(さて、私はどうしようかしら?)
ジギーが魔法を唱え始めたのを確認してから敵の方を見た。真ん中の神官が両脇の二人に何かを命令しているのが見える。まず彼らを何とかしなくてはならない。少し考えてから魔法を唱え始めた。
《私は魔力を4消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ・・・。》
《おお、万能たる力よ、焼き尽くす炎となりて、敵を撃て!Magna Ignis(大火球)!》
《おお、万能たる力よ、不可視の力となりて、魔力を封じよ!Magicae Sigillum(魔力封印)!》
大火球の魔法が一足先に発動した。掲げた手の先から炎の球が撃ち出される。アレックス達の頭上を、さらに神官長の頭上を越えて後ろの壁に当たった。
「あのガキ、何て魔法を使いやがる。今のは我等と同じ力・・・しまった、これは魔力封印?」
神官長の気が着弾のせいて一瞬が逸れた。違和感を感じて魔法に抵抗するべく集中する。魔法の効果が終わった後、己の魔力が封印されていないことに安堵したが、目の前の二人が青い顔で自分を見ていることに気付いた。
「まさか・・・。」
「申し訳ありません、魔法を封じられたようです。」
「ちっ、未熟者が・・もうよい、私が魔法を使う時間を稼げ。もう一度、あれを使うぞ。」
「全てを浄化する炎ですか?あれを使うにはここは狭すぎます。」
ここは謁見の間と違って天井が低い。業火が渦巻くこの魔法を使うには適していない。魔法を放った本人も焼かれる可能性が高いと気付いた。
「分かっている。使うのは浄化する炎の方だっ!」
己自身の迂闊さを誤魔化す為に部下を怒鳴りつけた。浄化する炎は単体にしか効果がない。誰を標的とするべきか、睨んでいる視線を混戦の中に移す。真ん中の男には二人、その両脇に一人ずつ相対していた。
アレックスは怒りのままに強引に剣を振っていた。相手が二人では効果的ではない。進むに進めず防戦一方、表情に焦りの色が濃くなっている。後ろから緊張感のない声がかけられた。
「殿下、感情のままに動くとは感心できませんな。」
「うるさい、今はそんなことを言っている場合じゃないだろっ!」
「確かにそうですな。では、片方はわしが・・・。」
杖をついたままのアイゼンマウアー老がアレックスの右に出る。対峙することになった男の表情が明らかに緩んだ。
「何だ、この爺いは?」
「年寄りと侮るでない。これでも先の近衛騎士隊長ぞ。相手をしてやるからかかって来るがよい。」
「舐めるなっ!」
アイゼンマウアー老の言葉には刺があった。挑発に乗った相手が力任せに剣を振り下ろす。鋭い鍔鳴りの音、自分の剣の勢いで前に倒れた男の首が床に転がった。
「なっ!」
「たあっ!」
仲間の脱落に一瞬気が逸れる。アレックスはその隙を逃さず、剣に剣を叩きつけた。弾かれた剣が中を舞う。更にアレックスの一閃、喉を切られた男がもがきながら前に倒れた。
「戦場では心を乱すな、だったな。」
「思い出されたなら結構、もう手伝わなくともよろしいですな。」
「ああ、爺は下がってろ。その格好で魔法を受けたらやばい。」
アイゼンマウアー老は鎧を着ていない。それを気遣ったアレックスが盾を構えて前に出る。真意を理解したアイゼンマウアー老は笑みを浮かべると素直に後ろに下がった。
「武器を納めて下さい。」
ジークフリードの勧告に言葉でなく遠慮のない一撃が返ってきた。左手の盾で受け止める。そのまま圧力をかけて膠着状態に持ち込んだ。
「もう一度だけ言います。武器を納めて下さい。」
できるなら捕縛し背後を調べるべきだ、そう思ったジークフリードはもう一度降伏を勧告した。やはり答えは返ってこない。盾にかかる圧力が強くなった。ジークフリートは上背を活かして上から押さえ込む。相手がさらに押し返そうとした瞬間、盾をずらして力を逃がした。
「うわっ!ぐふっ・・・。」
自分の力で飛び上がった相手を剣の腹で撃った。腹を抱えてのたうち回る相手を踏みつけて周りを見渡すと、祖父と目が合った。斬れ、目がそう言っている。ジークフリートは剣を一閃すると、脚の腱を断ち切って相手を無力化した。お前は甘い、そう言われると思ったので祖父の方は見れなかった。
ネイリーはアレックスの左隣にいた。対峙した男の目は普通じゃない。聞くだけ無駄かもしれないが、疑問が口から飛び出た。
「どうしてこんなことをするのです?今は人間同士で争っている時ではないはずです。」
「我々は!選ばれたのだっ!」
「選ばれた?誰にです?」
「新しき世界にだ。どうせこの世界は滅ぶ。だから、我々が何を持っていってもいいのだ。」
男の目には狂気が宿っている。これ以上話しても無駄と判断したネイリーは男に向かって刀を構えて相手の強さを見極めようと動いた。
対峙して数合、どうやら目の前の相手には大した強さはない。鎧も着ておらず間に合わせの剣しか持っていない。おそらく倒した近衛騎士から奪った物であろうことは想像できた。それでも倒さずにいるのには理由があった。倒してしまえば遠慮なく範囲攻撃を使ってくるだろう。ネイリーはこの相手を倒すタイミングを計る為に戦場を見渡した。




