謁見控え室
「おい、いつまで待てばいいんだ?」
「申し訳ありません。小官には分かりかねます。」
謁見を待つ為の控え室に入ってすでに2時間、アレックスと若い騎士によってこの会話は幾度となく繰り返されている。聞いている他の者は待たされていることより、その会話にうんざりしていた。
「いい加減にしてくれ!」
とうとう堪りかねてネイリーが大きな声を上げた。怒られたアレックスがわざとらしく肩を竦めてみせる。若い騎士が目を逸した。
「ほら見ろ、皆ご立腹だ。ジークフリード、悪いことは言わんから上の者に聞いて来い。いつになったら順番が来るのかってな。」
「無理です。この件について問い合せてはならないと隊長より厳命されています。」
「ちっ、ヴァイスミュラーの野郎、何か企んでやがるな・・・爺、心当たりはないか?」
アレックスは部屋の隅のアイゼンマウアー老に声をかけた。瞑っていた目が少しだけ開いた。
「このままでは現近衛騎士隊長としての面子が立たないですからな、殿下とわしの謁見を遅らせている間に全てを終わらせるつもりでしょう。」
「なるほど・・・だけど、そううまく行くかな?」
「さあ、どうですかな。あの堅物に何ができるか期待しましょう。」
二人は顔を見合わせるとにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
「お祖父様っ!」
「おっと、少々口が過ぎたかな、しばらく黙っていることにしよう。」
「そうして下さい。今のが隊長の耳に入ったら何を言われるか、想像したくもありません。」
ジークフリードという若い騎士が心底嫌そうな顔をした。
「そう言えばお前がこの任にあるのは偶然か?」
「いいえ、隊長から直接の名指しです。殿下とお祖父様の両方を留めておけるのは小官だけだと判断したと思われます。」
「ふん、違いない・・・ん?外が騒がしいぞ。」
突然部屋の外から何か大きな音が聞こえた。耳を澄ますと剣撃の音、金属鎧がガチャガチャ立てる音、悲鳴のような声まで聞こえる。いや、それだけではない。なにかが焼ける臭いまでする。どう考えても平穏な日常とは違う雰囲気、アレックスのふざけていた表情が引き締まった。
「これは・・・・人が灼ける臭いだ。僕には分かる。」
「そうか、ならこんな所でゆっくりしている余裕はないな。ジークフリード、武器を返してもらうぞ。」
立ち上がったアレックスは謁見の間に入る為に預けた武器まで歩く。自分の剣を手にした時点で制止の声がかかった。
「殿下、なりません。謁見が終わるまでは・・・。」
「馬鹿か、この非常事態に何暢気なことを言ってやがる。ほらっ、ネイリー、お前の剣だ。受け取れ。」
アレックスの手が刀を投げる。空中で受け取ったネイリーは黙って腰に佩く。アレックスも剣を腰に佩き、座り込んで左腕に盾を固定した。
「あの、殿下。どうなされるので・・・?」
「知れた事、この目で何が起きているか確かめてくる。悪いが爺を頼む。」
それだけ言うと扉を少しだけ開けてそっと外を覗く。人が走り回る気配はあるが、すぐ近くに危険はなさそうだ。大きく扉を開けると早足で剣撃の音のする方へと歩き出した。その後をネイリー、マリア、ジギーと続く。残されたジークフリードは途方に暮れて祖父の方を見た。
「わしのことなら気にしなくていい。我が身一つぐらい守ることはできる。」
「ですが命令に従わなくてはなりません。」
「ふん、煮え切らぬ奴よのう。まったく誰に似たのやら・・・まあよい、わしは行くぞ。それならついて来ることができよう。」
「お祖父様、丸腰では危険です。こちらをお使い下さい。」
「無用、武器なら持っておる。」
自分の剣を渡そうとする孫を制して、杖をいじり始めた。巻かれている布を取り外して捨てる。そのままその部分を持ち上げると中から光る剣身が姿を現した。
「お祖父様、それは?」
「特製の仕込み杖、こんなこともあろうかと備えておった。」
「そっ、そんな物を持って謁見しようとされていたのですか?」
「そうなるかな?」
「そうなるかなって・・・。」
「まあよいではないか。さて、そろそろ行くぞ。」
開いた口が塞がらないでいる孫に声をかけて老人は部屋から出て行く。慌ててその後を追った。




