克服
グランローズに寄港した船から荷物が降ろされている。戻る船の中でジギーは積み込んだ遺品を泣きながら分別していた。今その遺品を残された家族の手に渡している。港に着く前にノイエブルクに跳んだネイリーはまだ戻っていないので、アレックスがヨハン=グランローズに詳細を語ることになった。
「済まん、間に合わなかった。航海日誌と船籍証明プレート、あと遺髪しか回収してこれなかった。」
「そうですか、覚悟はしておったがやはり辛いものじゃの・・・いやいや、君達のせいではない、謝らないで下され。それに君達のおかげでこうして帰ってこれたのじゃ。」
申し訳無さそうにしているアレックスを、ヨハンは逆に慰める。
「そうかもしれないな。こうして少しでも帰ってこられた事が残された者への慰めになる、忘れていた。ちっ、俺の柄じゃない。こんなことはネイリーがやることだ。簡易ではあるが葬儀もあいつがやってくれた。帰ってきたら礼をしておいた方がいい。」
「はて?そのコルネリアス王子は何処に?戻ってきたらとはどういったことでしょう?」
「あ~・・・唯一の生存者のホセってのを向かえに行っている。すぐ戻ると行っていたが、遅れている所を見るとまだ心の病は治ってなかったみたいだな。」
「そうですか、重ね重ねご迷惑をおかけしています。」
「俺は何もしていない。」
「ではコルネリアス王子が戻られてから改めて御礼申し上げます。それとこれについてあれは何か言っていたでしょうか?」
手にしている航海日誌を少し持ち上げ、荷降ろしの指示をしているジギーの方を見た。
「いや、まだ見せていない。」
「そうですか、では一晩時間を頂けますか?私の口から伝えます。同じ悲しみを何度も味わうこともありますまい。こういうことは一度経験すれば十分ですからのう。」
「任せた。それより宿を手配してほしい。たまには揺れない所で眠りたい。」
「それでは私どもの屋敷に部屋を用意します。ついてきてくだされ。」
老人が先立って案内する。アレックスとマリアは黙ってその後をついて行った。
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翌日晴れ渡った空の下、船は再出港した。一晩経って会ったジギーは意外なぐらい元気だった。今は操舵室で楽しそうに魔力を送り込んでいる。操舵室の外からネイリーとマリアがそっと中を覗く。
「どうしたの?そんな所にいないで入れば。」
すぐに見つかった二人はジギーの勧めに従って操舵室に入る。それをジギーは笑顔で眺めている。
「なあ、ジギー、多分聞いたと思うけど、航海日誌のこと、黙っててゴメン。」
「うん、いいよ。もう終わったことだからね。父様も母様も最後まで海に生きると決めて、最後まで海に生きた。ぼくもそうあるべきと決めた。だからもう泣かない。それが唯一ぼくが二人にしてやれることだと思う。」
「ジギーは強いな。僕も見習わなくてはならないね。」
「ぼくは強くなんかないよ。でも皆が一緒にいるから耐えることができるだけ。それにぼくが沈んでいる姿はホセに見せたくない。」
ジギーの視線の先に甲板で働くホセの姿があった。結局グランローズに戻ってきたホセは自らの意思で再び船に乗ることを決めた。ヨハンやネイリー、その他の者も止めたがホセの意思は固く、結局は船員を増員する形でホセを乗せていた。
「それよりお爺さまに聞いたのだけど、まだほんの少しだけど寄港する船が現れたって、もしかしてもう大厄災は治まったのかな?だとしたらこうして旅をする意味がなくなっちゃう。」
「まだそう決めるけるのは早いわよ。これから行くローザラインや連合王国で情報を集めないとね。」
「そっか、目的がなくなったらどうしようかと思った。」
「・・・大厄災が治まったとしても世界中を確認しなくてはならないわ。その為にはこの船が最適、まだまだジギーの助力が必要よ。もちろん全てが終わったとしても私達の親交が終わるわけじゃない。そうでなくて?」
マリアはジギーに向けて暖かい笑顔を見せた。かつて勇者に救い出されたノイエブルクの王女は女神の写し身と言われていたらしい。マリアにその血が流れていることが理解できた。
「うん、そうだね。」
「ごめん、二人で盛り上がっているところを悪いのだけどまだ大厄災は終わっていないよ。」
静かに話を聞いていたネイリーが沈んだ声で割り込んき来た。
「ネイリー、どうしてそう断定できるの?」
「この間ノイエブルクに行った時、魔族に襲われた。銀色の鱗に金色の鬣、絶望のベリ・ヨイルと名乗っていた。」
「それでどうなったの?」
「ノイエブルクの騎士が現れたので逃げた。いや逃げたんじゃない、見逃してくれただけだ。奴は火球の大魔法を使った。多分その気になれば近衛騎士ごと僕を殺すことができた。」
先日はノイエブルクの騎士がいたから平静を装ったが、ネイリーは今改めて屈辱を胸に刻んだ。




