天啓
危ないところで救われたネイリーは今、馬上にいる。鎧を回収し戻ることになった近衛騎士の馬を借りて港へと向かっていた。
「流石に魔王の島から帰ってきただけのことはありますね。あの鎧の魔物を三体も倒してしまうとは驚きです。後学までにどうやって倒したか聞いてもよろしいですか?」
同行している騎士が話しかけてきた。ネイリーが何か思いつめたように黙っていることを気遣っての言葉である。
「えっ、ああ、あれは・・・。」
「無理に仰られなくとも結構です。秘術まで教えて貰えるとは思っていませんから。」
ネイリーが言い淀んだのは思案に耽っていてよく聞いていなかっただけだが、相手は言えないことだと勘違いしたらしい。その騎士は深く問い詰めることもなく馬を操ることに専念していた。
「秘伝と言う程でもありません。私の国では聖堂騎士か神官なら誰もが使える魔法、葬儀の時歌う鎮魂の詩です。」
「残念ながら私どもには使えません。近衛騎士隊長と一部の神官にしか伝わっていない魔法です。もっとも葬儀以外に使い道のない魔法だとも聞いていましたが、まさかこんな使い方があったとはこれまた驚きです。これは隊長に報告してよろしいでしょうか?」
「勿論です。あの鎧の魔物に対抗できる唯一の魔法です。できるだけ有効に使って下さい。」
「ありがとうございます。ならば急いで報告に戻らねばなりません。港までもう少しです、急ぎましょう。」
そう言うと手綱を強く打って馬を駆けさせる。ネイリーも同じく手綱を操り、その後ろを追いかけた。
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港に着いたネイリーはホセを預けておいた宿屋へと向かったが、そこにホセはいなかった。宿屋の者に聞くところ、ここ数日は港に座ってずっと海を見ているらしい。ネイリーはホセを探して港へと向かった。
「もう大丈夫なのですか?」
ぼうっと海を見ているホセの後ろ姿に声をかける。ホセが驚いてこちらを振り向いた。
「ああ、神父さんでしたか。誰かと思いましたよ。」
「驚かせてすみません。それより、もう海は平気になったのですか?」
「ええ、そうみたいです。神父さん達が出て行って何日か経った頃、夢を見ました。出港していく船の上に船長と奥様が、それに他の皆もいて、笑顔でこちらに手を振っていました。それで急に気が楽になったんです。あれは何だったんでしょう?」
ネイリー達が出港して数日後だと例の岩礁に着き、ジギーの両親達を葬った頃と一致する。これはただの偶然か、ネイリーは神のお告げであると確信した。
「グランローズ夫妻は神の身元に旅立ちました。他の皆も同じです。あなたがここに辿り着かなければそうはならなかったでしょう。」
「じゃあ最後の挨拶に来てくれたのかな?お嬢をよろしくと頼まれたような気がします。」
ホセが力ない笑みを浮かべてみせた。根拠のない戯言や妄想に過ぎないことは分かっている。それでも気が楽になった。
「ではグランローズに戻りましょう。ジギーもあなたを待っています。」
「少し待ってくれ。お嬢に何をしてやれるか、考えてみる。」
「分かりました。では宿屋で待っていますので決まったら来て下さい。」
ホセが無言で頷いたのを確認すると、ネイリーは宿屋へと立ち去った。二時間後、ホセを連れてグランローズへと飛ぶネイリーの姿があった。




