絶望を名乗る者
近衛騎士隊長らしき鎧の魔物から目が離せない。ネイリーはなんとか隙を見出そうといろいろ試みたが、無駄に終わっている。ならば上の魔族が魔法を放ってくる隙をつく、そう考えてネイリーは来るであろう魔法に備える。だがいつまで待っても魔法は飛んで来なかった。
「そうだ、一つ聞きたいことがあった。あれは剣で切ろうが炎で焼こうがその歩みを止めることのない魂だけの存在、それをどうやって消した?」
「お前に教えることなどない!」
「ふむ、先ほどの意趣返しというわけか。あまり賢い選択とは思えぬが、その気概だけは認めてやろう。だがいつまでそうしていられるかな?その身体に聞いてみるとしようか・・・やれっ!」
魔族の命令によって鎧が動き出した。先程までとは違って積極的な攻撃、確実にネイリーの弱点を突いてくる。防戦一方となったネイリーは、後ろ後ろへと下がることでなんとかその攻撃をいなし続けた。
「この・・・攻撃っ、やはり近衛騎士隊長だな!?」
「・・・・・・・・・・。」
当然答えは返ってこない。淡々と攻撃が繰り広げられる。つい先日までの日常であった模擬戦を思い出される。ネイリーはその中に活路を見出せる気がした。模擬戦で行っていた決まりきった所作を崩す。今、手にしているのはミスリルでできた刀だ。ならば相手が手にしている剣を切り裂くことができるかもしれない。ネイリーは渾身の力を込めて突き出された剣に刀を叩きつけた。
「いつまでも自分の知っている僕だと思うなよっ!」
刃が剣に食い込む。切り落とすことはできなかったが、予想外の行動に敵の手が止まった。刀を切り返して更に跳び下がる。次こそは切り落としてやる。大きく振りかぶって次の攻撃に備えた。
「喜べ、どうやらお前は運がいいらしい。邪魔者がやってきた。」
上の魔族の声に初めて馬蹄の響く音に気づいた。
「次に会う時まで命を預けよう。我が名は絶望のベリ・ヨイル、覚えておくがよい・・・・・・חזור!」
にやりと笑うとまた言語の異なる魔法を唱えてその場から消え去った。同じく鎧の魔物の姿も消えた。その直後、4騎の騎士がネイリーの下へ駆け寄ってきて、傍に降り立った。
「君っ、大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。ご助勢、感謝します。しかしどうしてここに?」
「貴殿が一人で出ていったと門番から報告を受けた。だから我々近衛騎士が後を追いかけてきたのだが、結果間に合ってよかった。」
「そうみたいですね。改めて御礼申し上げます。」
ネイリーは近衛騎士に深々と頭を下げた。
「いえ、ご無事でなによりです。それより先の者は何者でしょう?宙に浮いているように見えましたが・・・。」
「絶望のベリ・ヨイルと名乗っていました、それ以外は魔族ということしか分かりません。」
「それは残念です。もし捕えることができれば、最近出没していた鎧の魔物についても何か分かったことでしょう。」
近衛騎士は心底残念そうにそう言った。ネイリーは首を横に振ってそれが不可能であることを示した。
「そうですか、では命があっただけでも良しとしましょう・・・・なっ、これは?」
近衛騎士の視線が倒れている近衛騎士の鎧で止まった。駆け寄ってその鎧の認識番号を確かめる為、しゃがみこむ。大きなため息がネイリーの耳に届いた。
「ノイエブルク近衛騎士4番隊所属マルティン=ブッフホルツ・・・。」
「先程の魔族達に従っていたので、止むを得ず倒しました。申し訳ありません。」
「どうしてこんなことに?」
「方法は分かりませんが、鎧に魂を留めることができるようです。そして彼等の傀儡となる。初めノイエブルクを襲ったローゼンシュタインの騎士もそうだったと思います。」
「なんと卑劣な・・・それではここ数日我等が城を襲っていたのは我等が同胞であったのか。」
ノイエブルク近衛騎士の鎮痛な声がネイリーの心を打つ。ネイリーも他の近衛騎士達もかける言葉もなく立ちすくんでいた。




