勇者の盾
「行ってしまわれましたか?」
港を一望できるメタルマ城の一室、窓から外を眺めていたマグダレーナ女王の背後から声がかけられた。
「ええ、そうみたいね。」
「そうみたいって、先程から見ていた者の台詞ではありませんね。」
「あら、何の事かしら?」
マグダレーナは真意を悟られまいと窓の外に視線を送った。
「まあ、そういうことにしておきましょうか。それより水の宝玉だけでなく、勇者の盾まで渡すとは意外でした。どういった風の吹き回しですか?」
「あなたも見ていたでしょ?最後にあの娘が使った魔法、詠唱が終わるまでに30秒もかかったわ。」
「はあ、それが何か?」
マグダレーナのよく分からない答えに大臣が惚けた返事をした。
「鈍いわねっ!魔物相手の実戦で暢気にあんな魔法を唱えている時間なんてないでしょうにっ!」
「ははぁ、なるほどなるほど。だからその時間を稼ぐ為に必要な盾を渡したと・・・。確かにあの王子なら有効に使ってくれることでしょう。」
「ふん、そんなことよりあの娘の足跡を調べなさい。その何処かにあの魔法を教えた者がいるはずよ。」
「今、そんな予算などありません。」
「そう、それは大変ね。全てに優先してでも探し出しなさい。あの魔法さえあれば多少の魔物の軍勢など敵ではないわ。」
即答で拒否した大臣に非情な命令が下された。その命令は公私が混同されているようにも感じられたが、一理ないこともない。それにこうなったら誰かの言うことを聞くような女王ではない。大臣は一つ大きなため息をつくと、どうやって予算を捻出するか考え始めた。
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アレックスは一つの盾に魅入られていた。マリアから手渡させたその盾にはローザラインと同じ紋章が描かれている。今まで使っていた盾とほぼ同じデザインだが、どこか気品のようなものが感じられた。
「アレックス、君が装備しなよ。」
「いいのか?これは軽いからお前でも装備できそうだぜ?」
「今持っている剣は基本的に両手で扱う物だから、大きな盾は装備できない。」
「そうか、じゃあ・・・。」
ネイリーにそう言われたアレックスは嬉しそうにその盾を左腕に装備し始めた。革のベルトを緩めて腕を通す。ギュッと締めて固定すると見せつけるように構えてみせた。
「思ったよりかなり軽いが違和感はない。むしろ使いやすい・・・かな?」
「当たり前よ。ローザライン近衛騎士の装備はメタルマで作られた物で、簡易ながら勇者の装備を模した物なのよ。流石に材質まで同じという訳にはいかなかったけどね。」
「なんで?ミスリルなら加工できるはず・・・。」
「その盾をよく見なさい。ミスリルなら白銀、その盾は少し青みを帯びている。ミスリルに何かを混ぜたことだけは分かっているけど詳しいことは不明よ?」
そう説明されたアレックスはまじまじと左腕の盾を眺めた。よく見ると確かに青みがかっている。さらに盾の中央には赤い宝玉までついている。これは今までの盾にはなかったものだ。
「じゃあ剣の方は?」
「あれはオリハルコン、未だ加工法どころかその材料の産地さえ不明。世界に只一つの代物よ。」
「ふ~ん、じゃあ国に戻ったら炎の宝玉と一緒に借りてやるか。これからの旅に役立つはずだ。」
「簡単に言うけどできるの?私と同じで何らかの試練があるのではなくて?」
「う~ん、どうかな?マリアと同じように1vs1の勝負だったら簡単なんだけどな。」
アレックスの無責任なものの言い様にネイりーが顔をしかめた。
「そんな顔するなよ。親父が相手なら問題なく勝てる。問題はあの爺いが出てきたらだが・・・それでもまあ何とかなるはずさ。」
「随分な自信だね?」
「親父が現役だったのは2年前までで、親父が知っている俺は2年前の俺でしかない。それにこの旅の中で得たものもある。負ける道理はないさ。」
「ならいいけど。それにしても剣と盾が入るなら実に残念だ。当家に伝わっていた勇者の鎧、今は瓦礫の下だ。おそらく潰れて使い物にならなくなっているだろうよ。」
ネイリーは口惜しそうにそう語った。
「なに、鎧なんぞなくても平気だ。当たらなければどうと言うことはない。剣と盾があれば大体の攻撃が捌けるさ。」
「それでもね、伝承すべき物を伝承できなかったと思うとやるせないな。」
「だから気にするなって。それより次はグランローズだ。ジギーの爺さんへの報告はお前に任せる。ホセの懺悔を聞いたのはお前しかいないからな。」
「あっ!」
アレックスは話題を変えるちょうどいい言い訳を思いついて口にした。その場しのぎだが思わぬ効果を表した。




