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魔法戦

 直径30mの闘技場には一辺20mの正方形を描くように4本の柱が立っている。太さは1mに満たないが人が隠れるには十分だ。マリアは開始の合図とともにその柱の陰に飛び込んだ。


「あら?これはかくれんぼの試練だったかしら?」


「無防備で的になる気はないわっ!」

《私は魔力を2消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ

  おお、万能たる力よ、小さき炎となりて敵を撃て!》


 馬鹿にするような質問に答えながらも、とりあえず最も早く唱えることのできる魔法を詠唱した。さらに柱の陰から顔だけ出して敵の位置を見極める。


《Parma Ignis(小火炎)!》


 パワーワードと共に母親に向かって右手を突き出す。撃ち出された火球は女王マグダレーナの直前に何かに弾かれて消えた。砕かれた破片がキラキラと光り輝いて見えた。


「Sagitta Glacies(氷の矢)、どうして?」


「簡単なことよ。貴女は慌てるとまずその魔法を使う。だから事前に詠唱していただけ。」


「また馬鹿にしてっ!」

《私は魔力を8消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ

 おお、万能たる力よ、燃え盛る炎となりて燃え広がれ!Flamma(火炎)!》


 頭に血の上ったマリアは反射的に次の魔法を使った。突き出した手から放射上に炎が広がる。マグダレーナが炎に向かって手を振りかざした。


「キャアアアアッ!」


 目標の寸前で180度向きを変えた火炎がマリアを襲った。


「次は一番自信のある火炎の魔法、でもその魔法は風に弱い。これまた事前に詠唱しておいた旋風の魔法で跳ね返すことができる。それは今、貴女が見たとおりよ。」


「だから何よ?」


「もう止めにしましょう。マリア、今の貴女では私には敵わない。無理に続ける必要ないわ。」


「・・・今無理をしなくて何時するのよ。今の私に逡巡している暇なんてないわっ!」


 マリアはそう叫ぶと再び柱の影に隠れた。女王マグダレーナはふうっとため息をついた。


「そう・・・これだけ言っても分からないのね。ならば次が最後です。その柱ごとぶっ飛ばすから、死にたくないのなら闘技場の外まで逃げなさい。」


『私は魔力を10消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ、』


 わざとらしくゆっくりと魔法が詠唱される。柱の陰にいるマリアは母親が使おうとしている魔法が何なのか理解した。


(爆発の魔法ならここに隠れていても意味がない。でも逃げたら次の試練はない。対抗できそうな魔法は一つ、でもうまく発動できるか自信がない。それでもやるしかない。)


『おお、万能たる力よ、破壊の力となりて爆ぜよ!Fragor(爆発)!』

 

 マグダレーナの魔法が先に完成した。爆発の音が闘技場に響き、土煙が闘技場を包む。マグダレーナは複雑な表情を浮かべたまま、収まるのを待った。


 土煙が収まった闘技場に柱が瓦礫と化して地面に転がっていた。その瓦礫の中にマリアが倒れている。マグダレーナの視線に気づくと、右足に伸し掛っていた瓦礫を押しのけて立ち上がった。


「貴女、どうやって?」


「痛たたた・・・柱のことまで考えてなかったわ。」


 マグダレーナの疑問に一切構わず、マリアは呟いた。 さっきのマグダレーナの魔法はわざとゆっくり唱えられていたが、それでも後から追いつかなくてはならない。不慣れな魔法を急いで唱えた。発動したのも間に合ったのも奇跡であったとしか思えない。柱の破片による怪我ですんでよかった。


「答えなさいっ!爆発の魔法をやり過ごす方法なんてないはずよ!」


「秘密です。いつも質問に答えて貰えると思ったら大間違いです。少なくとも魔物は答えてはくれません。」


 マリアの答えにマグダレーナの顔が真っ赤に染まった。答えを教える気はなかったが、それ以上に何とかしてこの母親の鼻を明かしてやりたかった。それが今叶った。


「では次は私の番です。次の魔法がうまくいけばそれで終わりになるはず、氷の魔法でうまく相殺して下さいね。」


「なっ!?」


 マリアの自信があるような、ないような微妙な感じの言葉に、マグダレーナは一瞬沸き起こった怒りを静めた。


「では行きます。」

《私は魔力を16消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ、

  おお、万能たる力よ、全てを焼き尽くす炎となりて燃え広がれ!Magna Flamma(大火炎)!》


 力の構築にたっぷりと時間を取る。大きく膨れ上がった力を炎に変換して解き放つ。両の手でやっと制御できる大きさの炎が闘技場を走った。


「くっ!Gelidus Ventus(凍てつく風)!」


 かなりの範囲を覆う炎の自分の前だけに魔法を集中する。それでも相殺しきれなかった炎がマグダレーナを襲った。両手で頭を抱えて身を守る。ミスリルローブに覆われていない場所が焼かれるが気にしている余裕はない。ようやく治まった炎に顔を上げると眼前に突きつけられている短い杖に気付いた。


「私の勝ちでよろしいですわね?」


「ええ、どうやらそのようね。でもあんなに貯めの長い魔法を使って先に攻撃されるとは思わなかったの?」


「お母様の性格上、それはありません。それに・・・」


 それに魔法は無条件に反射されるから問題ない、そう言おうとして口を噤んだ。


「それに何?」


「やっぱり秘密です。教えるわけにはいきません。」


「なら今の魔法は?ただのFlammaとは威力が違う。Gelidus Ventusで相殺して尚、これだけの威力があるとは・・・。」


「それも秘密です。ある人との約束で誰にも教えることはできないのです。」


「教えてくれなければ水の宝玉は貸さない、そう言ったとしたら?」


「・・・駄目です。私の名誉と信義に関わりますから。」


 マリアは少し考え、母親の目をまっすぐ見ながらそう答えた。


「そう、それは残念。まあいいでしょう。まだ知らない魔法がある、それが分かっただけで十分だわ。貴女に使えて私に使えない道理はないはずよ。」


「では水の宝玉は?」


「勿論持って行っていいわよ。現女王として王家の試練を達成したと認定します。時期女王の資格と共に受け取りなさい。」


「ありがとうございます。」


 マグダレーナの胸元から青い宝石のついたペンダントが取り出される。マリアはそれを受け取ると自らの首にかけて笑みを浮かべた。


「こんなに早く渡すことになるとはね。私がこれを手に入れたのは19の時、それを4年も更新されるとは私も老いたのかしら?」


 悔しくもあり嬉しくもある、複雑な感情の込められた言葉にマリアは感慨深いものを感じた。

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