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海の回生

船の墓場を離れた船はメタルマを目指して航海していた。アレックスは見張り台に、ネイリーは書斎でもある自室に、ジギーは未だ寝室を居場所としている。マリアはと言うと甲板で物思いにふけることが多くなっていた。


「風が・・・変わった?」


 思わずマリアは呟いた。以前吹いていた針に刺されるような風が和らいで感じられる。単なる気のせいかもしれない、マリアは少し首を傾げると再び物思いにふけり始めた。


 マリアの視線の先には海しか見えない。だが、確かに祖国メタルマが存在している。そこに近付くに連れ増えるため息の数に本人は気付いていなかった。


「なあ、マリア。お前、何を悩んでいる?」


 突然かけられた声にマリアは飛び上がらんばかりに驚いた。振り向くとそこにはいつの間にか近寄っていたアレックスが立っていた。


「もうっ!海にでも落ちたらどうするのよ!」


「済まん、驚かせるつもりはなかった。それよりどうした?まるで国に帰りたくないみたいだぞ。」


「もしかしてずっと上から見てたの?あまり良い趣味でなくてよ。」


「ずっと見てなんかいないぞ。ここ数日いつも同じ格好で何か考え込んでいる。何もないと思う方がおかしいさ。それより何か悩みがあるなら言ってみろよ、俺にだけさ。」


「・・・・・。」


 目を輝かせて質問するアレックスにマリアは口を噤んだ。しばらく沈黙が続く。


「水の宝玉のことか?」


「どうしてそれをっ!?」


「やっぱりか。結構当てずっぽうでも当たるもんだな。」


 嬉しそうにそう言うアレックスの姿にマリアがため息をつく。しばし悩んだ後、スッキリした顔でアレックスに向き直した。


「まさかアレックスに山をかけられるとはね。後学までに聞くけど、どうして分かったの?」


「そりゃあ、まあ、俺も同じだからだ。ノイエブルクでは威勢のいいことを言ったが、国宝でもある炎の宝玉を借りることはそう楽なことじゃない。うちでそうなんだ、メタルマでも同じだろう?」


「そうよ、水の宝玉の正統なる持ち主はメタルマの女王。理由があるとは言え、ただ貸して下さいと言っても貸して貰えるわけがないわ。さて、これからどんな難題がふっかけられるかしら?」


「考えるだけ無駄さ。その無理難題を考えるのはあちらさんで、こっちに拒否権はない。まあ何があろうと俺が手伝ってやる。」


「・・・ここは礼を言うべきかしら?」


「ふんっ、礼には及ばない。俺の方も手伝ってもらうつもりだからな。じゃあ俺は見張りに戻る。暖かくなったとはいえ、まだ寒いからな。適度に船室に戻れよ。」


 アレックスはマリアに背を向けると、手をひらひらとさせて見張り台のあるメインマストへと立ち去った。


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 船はメタルマの港に着こうとしている。マリアがここを出た時には閑散としていた港に、少し賑わいがあるように見えた。


「外から船が来たみたいね。どこの船かしら?」


「船籍からするとエグザイルの船です。この船と違って普通の帆船ですから、あっちの海も回復したと考えていいみたいですね。」


「あっちの海も?やはりそうなのね。」


「ええ、三日程前から海が変わりました。いえ、海だけでなく風もです。完全に元通りではありませんが、帆船で航行できる海に戻っています。そうか・・・エグザイルの商人が動き出したか。うちも負けてられないな。」


 船長ドラーフゲンガーはマリアの問いに答える。そのあとに出た言葉は独り言にしては大きすぎた。


「商魂逞しいってか。金の為なら多少の荒波ぐらい乗り越えてくる。羨ましい限りだな。」


「あれっ、アレックス王子も聞いておられたのですか。盗み聞きなんて人が悪いですよ。」


「ふんっ、聞かれて都合が悪いならもっと小さな声で言うんだな。」


「次からそうします。」


 アレックスの言葉に船長は憮然として答えた。


「よしっ、じゃあとりあえず入港しようぜ。メタルマの次はグランローズ、その次はローザラインとまだまだ行く所はある。何、損しないぐらいの船賃ぐらい出してやる。だから今は損得を考えなくてもいいぞ。」


「いいんですか、そんな約束して?この船のレンタル料金と熟練の船乗り数人はそう安くはないですよ。」


「別に俺が払うわけじゃないさ。うちとメタルマ、他にも恩を着せた国から出させるから問題ない。」


 ドラーフゲンガーはアレックスの無責任な言い様に肩を竦めると、仕事を思い出して操舵室へと向かった。

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