船の墓場
「お嬢、着きましたぜ。この辺一帯が船の墓場と言われる岩礁です。」
船長ドラーフゲンガ-は繊細な操舵の末、辿り着けるぎりぎりの場所に船をつけた。ノイエブルクを出て5日、心当たりの岩礁まで全力航行で来ていた。
「まず俺とマリアが降りる。お前達はここで船を守っていてくれ。」
飛び降りそうなジギーに向かって冷たくアレックスが命令した。
「なんでよ、ぼくが行かなきゃ意味ないよ!」
「だから、まずと言っただろう。陸の上は俺の領域、だから安全を確保してからジギーには来てもらう。それに船が襲われて置き去りにされるのは嫌だから、ネイリ-の言うことをよく聞いて船を守ってくれ。じゃ、後よろしく。」
まだ文句を言いたそうなジギーを放っておいてアレックスが船から飛び降りる。後ろ髪を引かれる思いでマリアがその後を追った。
「ちょっと、あんな言い方なかったんじゃない?」
「どう言おうと同じだ。見ろよ、ここは座礁した船でいっぱいだ。こんな場所に戦いに不慣れな奴が来ても役に立たないぜ。」
「まあ、そうだけど・・・」
マリアはまだ何かを言いたそうである。
「マリア、誰にも言うなよ。ジギーを連れてこなかった理由は他にもある。親の遺体を目の当たりにした時が怖い。安らかに亡くなっていたのならまだ良いが、内乱の末の死とかだったら目も当てられないぞ。」
「もしそうだったら、アレックス、あなたどうするつもり?」
「極秘に処理する。形見の品か何かを持ち帰ってそれで終わりにする。」
「なるほどね、意外に優しいところがあるじゃない。でもネイリ-を連れて来なかったのは何故?そんな理由があるなら私よりネイリ-の方がよくなくて?」
「ただ単に戦力の問題だ。俺とネイリ-で船を降りたら近接戦ができる者がいなくなる。それともう一つ、コナンは嘘がつけない。戒律もあるけど根が正直だからやましいことがあると顔に出る。ここ数日もそうだっただろう?」
得意げに話すアレックスにマリアは感心したようにいたく。
「そうね、確かに何か思い悩んでいたみたいだわ。じゃあ何で私ならいいのよ?」
「簡単なことだ。女は嘘つきだと一般的に言われている。」
「ひどい、短絡的にもほどがある。やっぱりあんた馬鹿だわ。」
真顔でそう言ってのけたアレックスにマリアは呆れた様な顔で言い返した。多分アレックスなりの照れ隠しであろう、マリアはそう判断して話を打ち切った。
しばらく岩場と何時の物だか分からない船の間を歩く。たまに魔物の姿を見たが二人の姿を見ると逃げていった。二時間も探した頃、木材が朽ちて古い船の中に比較的新しい船を一隻見つけた。
「あれみたいだな。マリア、グランロ-ズ商会の紋章は覚えているか?」
「ええ、あの船で手に入れた武器を組み合わせた意匠ね。何も知らない人が見たら分からないけど今なら分かるわ。」
「なるほど、そうだったのか、俺には分からなかった。こうなんかごちゃごちゃしてよく分からん紋章だったな。で、これがそうなのか?」
目の前の船の舳先に張り付いていた紋章の汚れをアレックスが手で拭う。それはマリアの知るグランロ-ズ商会の紋章だった。
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「船は見つけた。ここからじゃ遠いから、もう少し近い場所にこの船を移動させてくれ。」
半日程で戻ってきたアレックスはまずそう伝えた。その手には簡単な書かれた地図がある。
「ふむ、普段ガサツな割にはよく書けている。。よし、なら船を移動させるか。おい、出航するぞ、手の空いている者は上がって来い。」
受け取った地図を見た船長が一言褒めてから、操舵輪を握った。後に言った言葉は伝達管を伝わって船中に広がった。
その声を聞いたネイリ-が操舵室に駆け込んでくる。アレックスの袖を引っ張ると誰もいない船室に連れて行った。
「どうだった?案内するってことは、ジギーに見せられない様なことはなかったと思うけど・・・。」
「ああ、人同士が争った跡はなかった。しばらくなんとか生活していた跡があったぐらいだ。」
「はあ・・・・・・過去形ということはやっぱり亡くなっていたんだね。」
ネイリ-は一つため息をついた。想像通りではあるが遣り切れない思いに胸が痛んだ。
「当たり前だ、半年もこんなところで生きていけるわけないだろう。魚を釣って食を繋ぐことができても、魔物に襲われてはひとたまりもない。船長らしき人が操舵輪に体を縛りつけて生を終えていた。それが船乗りの最後の矜持だ、そう語っているみたいだった。」
「そう、じゃあジギーのお母さんは?」
「船の近くに新しく作られた墓がいくつもあった。その中に一際大きな墓があったよ。」
「そこに眠っているんだね。じゃあ、せめてお父さんも同じ墓に一緒に葬ってあげよう。」
「ああ、そのつもりだ。だけどあの死に様はジギーに見せておこうと思ってそのままにしてきた。残酷かもしれないが、知らないよりは知った方がいいと思った。マリアは反対したけどね。」
アレックスが当然と言わんばかりにそう語った。
「嫌な役目を押し付けたみたいだね。本当は僕がやるべきことだったのに・・・。」
「馬鹿言え。俺が勝手にしたことで、お前が謝ることなどない。さてもうすぐ目的地につく。そうしたらお前の出番だ。」
「分かったよ。死者を弔い、残された者の心を安らげる。それが神官でもある聖堂騎士の仕事だったね。」
停まる為に速度を落とし始めた船に気付いた二人は、船室からゆっくりと外に出た。




