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生き残り

 朝になって港町に戻ったアレックス達は、一人の男が地べたで蹲っているのを見つけた。酒瓶を片手に眠っている。見るに見かねてネイリーが駆け寄った。


「君っ、大丈夫か?うわっ、酒臭いっ。アレックスもだけどなんで我を忘れるまで飲むんだよ。」


 駆け寄ったネイリーは男の酒臭さを我慢して抱き起こす。それで眠りこけていた男の目がうっすらと開いた。


「放っておいてくれ、俺に生きている資格は無い。船長が・・・奥様が・みんなが・・俺が死ぬのを待ってい・・・・・・・・zzz。」


 ネイリーが抱き起こしたままの格好で再び男は眠ってしまった。重い男の体を支えることになったネイリーは途方に暮れるしかない。


「酒ならその内抜ける。酔っ払いなんぞ放っておけばいいのさ。」


「そうはいかない。生きている資格がないなんて普通じゃないよ。」


「ふん、酔飲みなんてそんなもんだ。お前も二日酔いの辛さを味わえば分かる。」


 アレックスは少し痛む頭を押さえながらそう吐き捨てた。


「そんな辛さ、味わいたくありません。それについてはまた議論することにして、この人を宿に連れ帰りましょう。」


「お人好しめ。」


「困っている人を救けるのが聖堂騎士の勤め、僕はそれを従うのみだ。」


 アレックスはまだ何か言い返そうとしたが、真剣なネイリーの表情に言葉を飲み込んだ。酔いつぶれている男を何とか担ごうとしているネイリーを手伝って唯一開いている宿屋へと運んだ。


 -----------------------


「お嬢、思ったよりお早いお帰りで・・・もう少しゆっくりできると思っていたんですがね。」


 宿に帰ったジギーは船の乗組員達によって出迎えられた。船長のドラーフゲンガーが笑いながら憎まれ口を叩く。


「えへへ、本当は昨日のうちに帰って来れたんだけどね。」


「そうですか。でもご無事でなによりでした。それで他の方はどうされましたか?」


「あれ?後ろについてきていたはずなんだけど・・・。」


 振り向いたジギーの視線の先で入口の扉が開く。両側をアレックスとネイリーに支えられた男が入ってきた。宿屋の従業員が嫌な顔をした。


「そんな酔っ払い、放っておけばいいのに。」


「ずいぶんな言葉ですね。この寒い中、外に寝かせておくわけにはいかないでしょう。」


 男を床に寝かせたネイリーはその言葉を発した従業員を批難する。


「そんなこと私に言っても仕方ないでしょう。それがこいつの望みなんだからよ。」


「望み?」


「ああ、外は寒いからと言っても聞かない。酒だけで録に飯も食わない。まるで死にたいみたいだ。だからもう説得する気も失せたね。」


「そうですか。何も知らずに批難して申し訳ありませんでした。」


「いえ、こちらこそ済みませんでした。」


 素直に誤ったネイリーに従業員も同じく頭を下げた。


「あれっ?こいつ、ホセじゃないか?」


「ええっ!そんな訳ないでしょう。あいつは船長の船に乗っていたはずですよ。」


 横になっている男の顔を覗き込んだドラーフゲンガーが驚きの声を上げた。同じく他の船員も覗き込む。汚れた顔が濡れた布で拭かれてその顔がはっきりと分かるようになった。


「うん、髪も髭も伸び、頬も痩けているがホセに間違いない。でも何でこんな所にいるんだ?」


「分かりません。でもここにホセがいるということは、もしかすると船長の居場所を知っているかもしれない。おいっ、ホセ。起きろっ、船長は何処だっ!」


 眠りこけているホセを船員の一人が揺さぶったが起きる様子はない。


「俺に生きている資格はない。船長が、奥様が、みんなが俺が死ぬのを待っている。」


 ネイリーは先程このホセの口から発せられた言葉を呟く。皆の視線が集まった。


「先程聞いたこの人の言葉です。」


「どういう意味?」


「ジギー、それは本人から聞くことにしましょう。とりあえず部屋に運びます。皆さん、手伝っていただけますね?」


「おっ、おう。てめえら、て伝え。」


 何か聞きたそうにしていたジギーをネイリーが止めた。ドラーフゲンガーが指示して眠っている男を二階の部屋へと運ぶ。ベッドに寝かせたホセは何かぼそぼそと小声でなにか呟いている。


「ずいぶんとうなされているな。」


「何か言っている。すまない、アントニオ、レオン、ディノ、他にも何人かの名前。他には、食べることはできない・・・君の命をもらう・・・船長が待っている・・・とか、どういう意味だ?」


 不明瞭な寝言を聞くためにネイリーは男の口元に耳を寄せ、聞こえた言葉を口にした。狭い部屋に重苦しい空気が流れた。



 ---------------------------------


 半日程して目を覚ました男はベッドに呆けたように座っていた。一時間おきに様子を身に来ていたネイリーが、水と食事を持って部屋に戻ってきた。後ろにはジギーとマリアもついてきている。


「目が覚めたようですね、これをどうぞ。」


 ネイリーがベッドの脇のテーブルにトレイを置く。虚ろな目をしたまま男がコップを手にして水を口に含んだ。


「ホセ、お父様は、船は、みんなはどこ?」


「お嬢?・・・・・・・・なんでお嬢がここに?」


 ジギーの問いかけに反応した男が、ジギーを見て驚く。


「お嬢、すみません、すみません。俺・・・船長を見捨てたんじゃありません。船長がお前は行けって・・・・救命ボートに乗せられて・・・助かったら戻るつもりだったんで・・・・うっうっうっ・・。」


 泣きじゃくりながら弁明する男にジギーが掴みかかる。


「それでどうなったの、救命ボートに乗ったのはホセ一人じゃないでしょう。他の人はどうなったの!?お父様はどこ、船はどこにあるの!?」


「・・・・みんな死んだ。積んであった食糧はすぐになくなった。体力のない者から次々に死んで・・・その後は空腹に耐え兼ねて・・・・俺は・・俺は・・・うわああああああっ!」


 男は何かを恐れて絶叫する。男を掴み揺さぶっていたジギーの手が止まった。


「しまった。そうか、そうだったか。何故気付かなかったんだ。マリア、ジギーを連れてしばらく席を外してくれ。」


「ネイリー、何言ってるの?まだお父様の船がどこにあるか聞いてない。ホセ、教えて!船はどこなの!?」


「駄目だ、今は駄目だ。マリア、ジギーを連れて出て行ってくれ。」


「分かったわ、ジギー、行くわよ。船のことは落ち着いてから聞きましょう。」


 じたばたしているジギーに優しく手を添えられる。その手の暖かさに落ち着いたジギーがマリアに連れられて部屋から出て行った。残ったのはネイリーとホセの二人、ホセは頭を抱えて何かから自分を守ろうとしていた。


「ホセ、聞こえるか、僕は聖堂騎士で神官の資格も持っている。だから懺悔すべきことがあるなら全て聞きましょう。僕が聞いた懺悔の言葉は神の下に届きます。」


「・・・届いてどうなる?・・俺の罪は許されることじゃない。多分、神は俺に天罰を落とす、俺がしたことは決して許されない。たとえ神が許しても犠牲になった者達は俺を許さない!」


「ホセ、神は偉大です、神は全てを許します。あなたの友もあなたが不幸になることを望んでいません。ですから落ち着いて全て話してください。」


 ネイリーが優しく諭すようにホセに話しかける。しばらく続いた沈黙の後、ホセの硬い口が開く。それから長い長いホセの懺悔が始まった。

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