武器工房一文字
「さ~て、これからどうするかね?」
ノイエブルクの城を出たアレックス達は城下町を通り抜けようとしていた。
「どうするって、私の国メタルマとあなたの国ローザラインに戻って、炎と水の宝玉を借りてくるのではなくて?」」
「そんなことは分かっている。だけど俺としてはそれだけでは気が済まない。できれば他の全ての宝玉を集めてから、あのいけ好かない大臣とやらの目の前に叩きつけてやる。それができたら面白いと思わないか?」
「思わないわ。もしかしてさっき言われたことを根に持っているのかしら?大人気ないわね。」
「ふん!何とでも言え。ああいった自分が一番だと勘違いしている奴が大嫌いなんだ。一度痛い目に合うぐらいが、本人の為にも周りの為にもなるだろうよ。」
アレックスは意地の悪い笑みを浮かべながら物騒なことを口走った。
「アレックス、だったらさっきは言い返さない方が良かったわね。」
「ああ、その手があったな。しまったことをした。」
「馬鹿ねえ、あの謂れのない暴言に対して怒った振りをして立ち去ればよかったのよ。そうすればあの大臣の立場はなくなったでしょうし、もしかしたら光の宝玉を借りることができたかもしれない。そう考えると惜しいことをしたわね。」
「・・・・・・。」
マリアの指摘にアレックスは憮然として黙り込んだ。そのまま無言で歩き続ける。しばらくして最後尾を歩くネイリーすれ違った老人に声をかけられた。
「もしそこのお方。よろしければ差料を拝見させて頂けませんか?」
「あの・・・それは僕に聞いているのですか?」
「そうですよ、お若いお方。そのお腰に履かれている剣、かなりの代物とお見受けしました。武器屋として興味があります。」
「武器屋?あなたはいったいどなたです?」
「これは大変失礼しました。私はこの町で武器工房を営んでおります一文字と申します。ここノイエブルクではそれなりに屋号が知れ渡っていると自負しています。」
一文字を名乗る老人が深々と頭を下げた。もっともそう名乗られてもアレックス達に心当たりはない。ローザライン、メタルマ、ローゼンシュタインの正規装備はメタルマで作られている。知らない故にどう返してよいか困った。
「それで返答は如何でしょう?」
「えっ、ああ、それは構わない。だけどここではちょっと・・・。」
「そうでした。往来で剣を抜くわけにはいきませんね。ではどうでしょう。すぐそこに当工房があります。そこまでご足労頂ければそれなりのおもてなしができます。」
「僕はそれで結構ですが、他の三人の了承も得て下さい。」
ネイリーは後ろの三人を振り返った。
「俺はいいぜ。できれば美味い飯と美味い酒があると、尚いいな。」
「・・・。」
聞かれるまでもなく即答したアレックスの全身を老人が見定める。次にマリア、ジギーと視線を移してから何か納得したような顔をした。
「ではできる限りの馳走を用意させて頂きます。お連れの方もよろしいですね?」
そう聞かれたマリアとジギーは互いに顔を見合わすと、老人の方に向き直してから無言で頷いてみせた。
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「ではこちらのお部屋でお待ち下さい。」
ネイリー達は想像していたよりずっと立派な屋敷に招かれた。先程の老人とは屋敷の入口で分かれて使用人に屋敷の中を案内された。案内された応接室には結構な数の酒やグラスが納められている棚がある。
「好きに手を出してもいいのかな?」
「駄目よ。主人が来るまで行儀よく待ちなさい。」
「やっぱりそうか。でもこれを見る限り武器屋って儲かるみたいだな。この屋敷もそうだし、ここに並んでいる酒も値の張る物ばかりだ。」
アレックスは棚の扉を開けると並ぶ酒瓶のエチケットを一つ一つ確かめる。そこに屋敷の主が入ってきた。
「それ程でもありませんよ。屋敷は初代からの物ですし、実際には武器だけではそれほど儲かりませんよ。おお、そうだ。どれでも好きな物をお取り下さい。」
「そうか、悪いな。さてどれにしようかな・・・ローザラインにローゼンシュタイン、連合王国のもある。だけどここはやはりノイエラント産の物にしよう。爺さん、銘柄とヴィンテージは任せる。」
「ではこれにしましょう。味は私が保証します。」
老人は酒瓶の一つを手に取ると使用人の一人に渡した。そして手振りでアレックス達を席へと促す。アレックス達は素直にソファーに腰をかけた。
「僕とジギーには別の物を。酒を嗜む趣味はありません。」
「承知しました。」
使用人達によって飲み物が机に並べられる。ネイリーは想像以上の待遇を疑問に思った。思わず疑問が口から飛び出る。
「どうしてここまでしてくれるのです?ただ一振りの剣を見るためだけに。」
「それはそちらの方がローザラインの騎士様だからです。それにメタルマの魔道士様、敬意を払わぬわけにはいきません。」
「何で分かった?オーバーコートで隠していたんだけどな。」
「隠していても分かりますよ。武器や鎧にくせがありますから。特にローザラインの竜の翼を模した鍔は目立ちます。それにそのミスリルローブ、他国には出していないはずです。」
そう言われたアレックスとマリアは指摘された場所を確かめた。アレックスの剣はともかく、マリアのローブはそれがミスリルローブとは見ただけでは簡単には分からない。それを見極めた老人の鑑定眼は確かなものを思われた。
「なるほど、よく分かった。でも何でこいつに目が止まった?素性が分かるような格好ではないと思うが・・・。」
「細身で軽く反った剣、おおよそ一般的な代物ではありません。それで中身を見てみたいと思ったのです。私の予想が正しければ片刃の剣ではないでしょうか?」
「驚いた、正解だ。ネイリー、見せてやれよ。」
「ええ、では失礼して・・・。」
ネイリーは家主と他の使用人に敵意がないことを示して腰から刀を外す。そして鞘ごと老人に渡した。手に取った老人は刃を上にした状態でそろりと鞘をずらす。二色のミスリルの刀身に皆の目が吸い込まれた。
「・・・これはミスリル、それも二種類のミスリルを使った剣とは想像以上です。一つ確かめたいことがありますの分解してよろしいですか?」
「元に戻せる範囲なら。」
「勿論です。では・・・。」
手馴れた手付きで刀が分解され始めた。目釘を抜き、刀身、鍔、ハバキ、切羽、柄とバラバラになって机の上に並んだ。
「やはり間違いないようです。これは当工房の創始者である初代一文字の作です。」
「何故分かるのですか?」
「ここに銘が彫ってあります。」
老人の指が茎の部分を指で示す。そこにはRの文字の下に一の文字が掘られていた。
「先程初代一文字の作と言いましたが正確には違います。弟子でもあり協力者でもあったリヒャルトとの合作で銘にそれが表れています。」
「リヒャルトって、もしかしてあのリヒャルトのこと?」
その名前を聞いたマリアが他の三人にはよく分からない質問を返した。
「そうです。魔王再臨の後、この地を去ってメタルマに渡ったとされるリヒャルトのことです。」
「おいおい、俺にも分かるように説明してくれ。」
「リヒャルトはメタルマの金属工業を立ち上げた者の名前よ。知らないの?」
会話に割り込んだアレックスにマリアが面倒くさそうに答えた。
「いや知らない。そこまでの功労者なら名前ぐらい残っていてもおかしくないと思うんだけど。」
「それはね、メタルマでの金属工業が波に乗った後、リヒャルトは何処かに姿を消してしまったのよ。残された者達は困ってその名を抹消したというわけだけど、王家だけは記録としてその名を残しておいた。だからアレックスが知らないのも無理はないわね。」
「王家?・・・・・おおっ!」
マリアとアレックスの不用意な会話を聞きとがめた老人がもう一度二人の顔を確かめ、大きな声を上げた。
「なるほど、今まで何処か見覚えがある顔だと思っていましたがそう言うことでしたか。魔王を倒しノイエラントを救った勇者アレフと王女ローザマリー、二人の肖像画によく似ておられます。」
興奮した老人はさらに大きな声を上げた。




