6つの宝玉
「と言うわけで魔王の島に魔王はいなかった。」
ノイエブルクに戻ったアレックス達は、再び主のいない王座に向かって謁見している。アレックスは事の成り行きを軽い口調で説明してのけた。
「なんたる馬鹿なことをっ!後の禍根を断つ為に退治してくるべきとは考えないのか!?まさか怖気づいたのではないだろうなっ!」
「何っ!言うにことかいて俺が怖気づいただとっ!こんなところで主無き王座を守っている奴に言われたくないわっ!」
ノイエブルクの国務大臣の言葉にアレックスが激高する。国務大臣の向かい側の近衛騎士隊長カールハインツが、マリアの後ろにて控えるマリアの顔色が真っ青になった。
「叔父上、お言葉を謹んでください。アレクサンデル王子は家臣ではありませんぞ。」
「止めなさい、アレックス。ここで口論しても何にもならないわよ。」
謁見の間に王子でもあるカールハインツが叱責する声が響く。アレックスを嗜めるマリアの声はそれにかき消されてアレックス以外の耳には届かなかった。
「これは失礼した。先の非礼、平にご容赦を。先の言葉に貴殿を責める意図はございません。」
「いや、こちらこそ言いすぎた。さっきの言葉は忘れてくれ。」
叱責された二人が白々しく互いに陳謝した。それで謁見の間にほっとしたような空気になり、しばらく無言の時が流れた。気まずい雰囲気を破るようにカールハインツが口を開く。
「そう言えば後ろの方は何処の者でしたかな?まだ紹介を受けていませんでした。」
「ああ・・・彼女はジークリッド、この荒れた海を渡ることのできる船を貸してくれています。」
アレックスはその質問に対する答えを少し誤魔化した。ネイリーのことを告げるか、一瞬迷ったのである。
「もう一人の方はどなたでしょう?どこか見覚えがある気がしますが。」
「えっと・・・どうしたものかな?」
アレックスは後ろを振り向くとネイリー達にだけ聞こえる声で呟いた。アレックスとネイリーの目が合う。ネイリーはアレックスを押しのけると一歩前に進み出た。
「挨拶が遅れました。私の名はコルネリアス、ローゼンシュタインの王子です。」
「何だとっ!」
ネイリーの名乗り上げに謁見の間がざわめく。立ち並ぶ騎士達が敵意に満ちた目でネイリーを睨んだ。
「それは真か?我が国に仇を成したと知っていてその名を名乗るのだな。」
「仇など成してはいません。我が国にその意思も能力もありませんでしたから。」
ネイリーはそう言いながら敵視する騎士達を見渡した。その目に少しも躊躇いはない。
「いい目をしている。どうやらその言葉に嘘はないようだな。」
「聖堂騎士は嘘をついてはいけない。それは神への誓い、故に我が国は偽って他国を攻めることはない。」
「信じよう。先のことは両国の過去の遺恨につけ込んだ策略であると私は考える。」
ネイリーとカールハインツ、二人の王子の視線が絡み合った。
「私も同様に考えます。我々が得た情報によると禍を成した者は魔界の門を開いたと聞いています。今は人間同士で争っている状況ではありません。」
「ふむ、それが本当なら確かに争っている場合ではない。してその者は何処にいる?何を企んでいる?」
「ローゼンシュタインの南、山脈を越えた何処かにいるとしか聞いていません。」
「そうか、ではこれからどうするつもりだ。まさか険しい山を登って確かめると言うのではなかろうな?」
「敵には空を飛べる魔物もいますので、そんな無謀な真似はしません。まずは精霊神の力を借りる為に6つの宝玉を集めます。」
「6つの宝玉だと?それは如何なる物だ。」
先のアレックスの説明ではこのことについては語っていない。始めて聞くことに疑問の言葉が自然と出た。
「炎、水、風、土、そして光と闇を合わせた6つの精霊の力を象徴する宝玉だそうです。その内の3つはすでに在り処が分かっています。」
「なるほど、かつてこの地を旅した勇者が集めし宝玉か。炎の宝玉はローザラインに、水の宝玉はメタルマに、そして光の宝玉はここノイエブルクにある。」
「その通りです。今すぐとは言いませんがいずれお借りすることになると思います。よろしいでしょうか?」
「それは私の一存では決められぬ。」
国宝でもある光の宝玉、その扱いは国王にしか決められない。国王不在の今、王子であるカールハインツが勝手に決めては問題がある。答えに困ったカールハインツは国務大臣の意見を求めて視線を送った。
「国宝の扱いとなると陛下の御意に従うのみです。」
「その御意が得られないから聞いているのです。他の宝玉が集まって尚、御意が得られない場合はどうするつもりですか?」
「ではまず他の宝玉を集めて頂きましょう。我が国も宝玉を差し出すのです。それぐらいは当然だと考えます。少なくともローザラインとメタルマの二つ、これが絶対条件です。例え陛下の御意がなくとも、国務大臣と近衛騎士隊長の名にかけて必ずお渡ししましょう。」
「分かりました。ではその二つの宝玉を集めて再びここに戻ってきます。その時にはノイエブルクの国王陛下に会えることを期待しています。」
国王が戻らない時は勝手に前例にないことをするわけで、それは今の地位を危うくする。そうならない方がよいと暗にネイリーは告げ、謁見の間を後にした。




