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魔王と神と

「よくぞ来た勇者王の末裔よ。お前達を待っていた。」


 威厳のある声が大広間に響いた。アレックスは腰から剣を抜き、盾を前にして構える。隣にいるネイリーも刀を抜いて両手で構えていた。後ろを見る余裕はない。


「ずいぶんと好戦的だな。お前達の祖先、勇者王はまず対話から始めたぞ。」


 玉座の主から呆れたような声が漏れた。構えは解いたが剣は持ったまま、アレックスが反論する。


「なんでお前がそんなことを知っている?」


「話をする気にはなったか。武器が気になるがまあよい。それより、何故わしがそれを知っているかだったな。それはわしがその場にいたからだ。」


「馬鹿なことを言うな。お前はどう見ても30そこそこ、200年前のその場にいたはずがないだろうっ!」


 からかわれたと思ったのか、アレックスが大きな声で怒鳴った。


「わしは魔王だからな、人間の常識は通用しないぞ。」


「何っ、やはりお前が魔王かっ!何を企んでいる!?」


 魔王、その名を聞いたアレックスは血相を変えると再び剣を構え直した。魔王を名乗った男はまだ涼しい顔をしたままだ。


「何も企んでなどおらぬ。それに何かを企むには力が足りぬ。」


「力が足りない?」


「ふっ、お前は素直だな。」


 アレックスの反応に魔王が失笑した。失笑しながらも感心しているようにも見えた。


「うるさいっ!質問に答えろ。」


「ふむ、答える義務はないがまあよかろう。わしはかつて魔王でもあり神でもあった。肉体は滅んでも魂は滅ぶことはない。そなた達の祖先に倒されたわしは別の身体にて復活した。だがその身体に魂が馴染むにはまだ時間が足りない。」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。神であったとはいったいどういうことだ?」


 アレックスはまたまた即質問を返す。魔王が再び笑みを浮かべた。


「本当にお前は単純で素直だな。ああ、そう怒るでない。質問に答えればよいのだろう。実のところ、わしはこの世界の者ではない。かつては別の世界の神であったが、この世界を統べた大魔王に対抗する為に力を分け与えた結果、身体を失いこの世界に落ちてきたのだ。その後はお前達も知っている通り、第2の魔王となり勇者に倒されることになった。」


「何で神が魔王になるんだよ?!」


「言い訳がましいのだが、先代のわしは大魔王の怨霊に取り憑かれていた。結果的に倒されることでその怨霊から開放された。」


「じゃあ戦う気はないのだな?仇討ちとか考えていないだろうな?」


「感謝こそすれ恨む理由などない。それにお前達は勇者王その人ですらない。ほとんど他人のお前達を討っても仕方がなかろう。」


「分かった。そっちがその気ならこちらも無駄な争いをするつもりはない。」


 アレックスはそう言うと構えを解いて剣を納め、ネイリーにも目で合図する。ネイリーが険しい顔のまま進み出た。


「僕も質問してよろしいですか?」


「構わぬぞ。」


「では誰が厄災の元凶なのでしょう?他にそれだけの力がある者がいるとは思えません。」


 ネイリーはまだ疑いの目で見ている。構えてはいないが刀は抜き身のままだ。


「南の大陸、高い山の向こうに力を感じるが、それが誰かまでは分からぬ。ただその者が魔界の門を開き、この世界に魔界の者を引き込んだ。その先に何を望んでいるか、それも分からぬ。」


「そこまで分かって何故動かないのです?堕ちたとは言え、かつては神であったのならそうするべきでしょう。」


「先程も言ったが力が足りぬ。それに完全体であったとしても、力を振るうわけにはいかない。ここはわしの世界ではないのだ。」


「では何もされないのですか?」


 納得できないネイリーがぶすっとしたまま詰問する。


「まあ助言ぐらいはできるな。例えばこの世界の神、精霊神の力を借りる方法とやらはどうだ?」


「おいおい、勿体ぶらないで早く言えよ。こっちは急いでるんだ。」


 かつての魔王とネイリーのギスギスした会話が面倒になったアレックスが割り込んだ。


「では精霊の力を宿す宝玉を集めよ。」


「精霊の力を宿す宝玉?もしかして国宝、炎の宝玉のことか?」


 勇者王が手に入れた炎と水の宝玉はそのままローザラインに持っていかれていた。その後ローザラインに炎の宝玉、メタルマに水の宝玉と分け与えられ国宝とされている。


「そうだ。地水火風、光と闇、その全てを精霊神の祠に捧げよ。それで精霊神と交信できるはずだ。」


「そうさせてもらう。他のは何処だ?知っているか?」


「光の宝玉はノイエブルクにある。本来はわしの物だがな。」


「「「えっ!?」」」


「まあそれはいい。他の宝玉は何処にあるかは知らぬ。自分で探すがよい。」


 アレックス、ネイリー、マリア三人の驚愕の声は無視された。


「まあいいや。もう他に情報がないなら俺達は行くぞ。」


「うむ、では行くがよい。そなた達の旅の無事をここで祈っている。」


「ああ、ありがとな。じゃあまた・・・。」


 挨拶もそこそこで、アレックス達の見ている景色が急に変わった。薄暗い謁見の間にいたはずの4人は気づくと太陽と風を感じていた。かつての魔王、神であった者の意地の悪い笑みが脳裏に浮かんだ。

 

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