魔導砲の試行
船員が港に降りた船にネイリーは戻っていた。先程聞いた話に衝撃を受けていたのだ。ローゼンシュタインに悪魔を引き込んだのは、味方である騎士によるものだったかもしれない。そしてその騎士達が再びノイエブルクを襲ったのかもしれない。そんな考えが頭によぎっていた。
考えてもどうにもならない。そんなことは分かっていた。だから余計なことを考えない為、没頭できることを見つけることにした。そして今、手には魔導砲が握られている。
「とりあえずParma Ignis(小火球)でいいかな。」
この魔法のアイテムを見つけてから幾らでも時間はあったが、なんとなく試すことはしてこなかった。それは後で見つけた仕様書に極秘とあったからである。誰もいない今、それを試してみようと思った。
《僕は魔力を2消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ
おお、万能たる力よ、小さき火球となりて敵を撃て!Parma Ignis(小火球)!》
仕様書の通りトリガーに当たる場所に人差し指を当てて魔法を唱える。発動したはずの魔法は吸い込まれたように消えた。
「作者が同じだけはある。これと同じような技術で作られているのかな。」
腰に佩いているミスリルの刀の柄に手を当てて呟く。ここ200年の研究でミスリルの加工自体は珍しいものではなくなっているが、これについては何も聞いていない。
「・・・さて何に向かって撃とう。」
極秘とされていることと合わせて何かすごいことが起こることが期待された。その期待がここ書斎で実験するべきではないと警告している。手にしていた魔導砲の砲口がふらつく。
コンコン。部屋の外からノックの音が聞こえた。
「誰だっ!?」
「・・・ぼくだよ。入ってもいいかな?」
ネイリーの剣幕に扉の向こうから遠慮がちな声が聞こえた。それで無意識に扉に向けられていた砲口の先を下ろす。自分でもすさんだ心に驚いていた。
「・・・どうぞ。」
扉が静かに開きジギーが入ってきた。薄暗い部屋に浮かぶネイリーの姿を恐れているように見える。ネイリーは無理に笑顔を作ってみせた。
「元気なさそうだったからさ・・・迷惑かな?」
「いや迷惑なんかじゃないよ。ちょっと思うことがあったけどもう大丈夫だと思う。」
「そう、ならいいけど・・・・?・・何隠しているの?」
ジギーが目聡くネイリーの背に隠していることを見つけた。
「いや隠すつもりはなかったんだけど・・・。」
そう言いながら魔導砲を前に出すと、その奇妙な物にジギーが目を輝かせる。説明を求めてネイリーに視線を合わせてきた。
「これは魔導砲、この船に隠されていた時の賢者様の遺品の一つだよ。魔法を魔法で撃ち出すらしい。」
「それ意味あるの?」
「分からない。だからこれから試すつもりだったけど、ここじゃ危ないかなと思っていたところだよ。」
「そうだね。じゃあ上に言って実験しよう。」
好奇心に笑顔を見せるジギー、ネイリーも作っていない笑顔を浮かべることができた。
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さっきは考えなかったが強い反動があるかもしれない。てすりに魔導砲当てて海に向かって構えた。
「真後ろには立っては駄目、危ないからね。じゃあいくよ。」
ネイリーは一言声をかけると魔法の詠唱を始めた。
《僕は魔力を2消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ
おお、万能たる力よ、小さき火球となりて敵を撃て!Parma Ignis(小火球)!》
砲口から熱線が飛び出た。海面に吸い込まれた熱線が海水を蒸発させる。もうもうと上がった湯気にネイリーとジギーは顔を見合わせた。
「すごーいっ!何、今の?Ignis(火球)?Framma(火炎)?Magna(大魔法)の奴?」
「いや、今のはParma Ignis(小火球)を同じ魔法で射出したものだよ。まさかここまでの威力になるとは思わなかった。」
「小火球であの威力かぁ、じゃあ大火球でやったらどうなるかな?」
ジギーが無邪気な疑問を口にした。ネイリーも同様なことを考えたが、先の仕様書の記述を思い出していた。
「僕には大火球の魔法が使えないよ。それに大魔法は使ってはならないと記してあった。これが耐えられない可能性があるらしい。」
「耐えられないとどうなるの?」
「分からない。でも小火球の魔法でこの威力だから、危ないことは止めておこう。」
「残念・・・じゃあ他の魔法だとどうなるのかな?」
「確かそんな記述があったような気がする。ちょっと調べてみよう。」
ネイリーは持ってきていた仕様書を開いてパラパラと捲る。それらしい記述を見つけて口に出して読む。
「電撃の魔法は先に込めた魔法の速度をあげる。より遠くまで届くようになり、更にその貫通力を上げるとある。やってみるかい?」
「勿論、貸してくれる?」
「ちょっと待って。さっきと同じ条件にする為に小火球の魔法を詰める。君には使えないだろう?」
「むうっ!」
ネイリーの言葉にジギー口を尖らせることしかできない。より強大な大魔法は使えるくせに相変わらず小魔法は使えずにいた。
「文句を言っているわけじゃないから怒らなくていいよ。」
《僕は魔力を2消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ
おお、万能たる力よ、小さき火球となりて敵を撃て!Parma Ignis(小火球)!》
一言ジギーを慰めると、小火球の魔法を魔導砲に詰める。そのままジギーの手に渡した。
「これで電撃の魔法を唱えてごらん。反動はないようだから心配はいらないよ。」
「うん、やってみる。」
《僕は魔力を8消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ
おお、万能たる力よ、電気となりて敵を撃て!Incursu(電撃)!》
電撃の魔法が完成し魔導砲の砲口から熱線が飛び出した。さっきより少なく湯気が上がり、次の瞬間海面が爆発するように盛り上がった。
「・・・何が起きたの?」
吹き上がった海水に濡れたジギーがネイリーに問うた。ネイリーは少し考えてから口を開いた。
「貫通力が上がると記してあっただろう。多分さっきより深い所で水が蒸発したのだと思う。水蒸気となった水が一気に海水を吹き上げた。これで今起きたことに説明がつく。」
「う~ん、なんとなくだけど分かったような気がする。やっぱりネイリーは賢いね。」
「・・・・・。」
ネイリーは賢いと言われたことには返事ができなかった。本当に賢ければこうしてここにいることはなかった、その思いが頭によぎっていた。
「他の魔法も実験してみよう。範囲魔法や空間魔法だとどうなるのか知りたい?」
「そうだね、じゃあやってみようよ。」
なんとなく提案したことにジギーが喜んで同意した。それから二人は火炎、旋風、爆発、冷気などの魔法を試行した。アレックスとマリアが城から戻ってきた時、満足そうな顔をした二人が待っていた。




