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アレックスの見識

「ねえ、アレックス。あなた、従軍経験があって?」


 謁見の間から退室し、先を歩くアレックスにマリアが質問した。


「あるよ。でも何でそう思った。」


「えっ、ええ。さっきの分析だけど、ずいぶんと立派な見識に驚かされたわ。正直、今までは只の無謀者かと見くびっていたかも・・・。」


 そう正直に打ち明けながらマリアは足を早めるとアレックスの隣に並んだ。


「へっ、間違っちゃいねえよ。俺は只の無謀者でいいのさ。」


「そう?只の無謀者にしては立派な論客だったわ。まさか戦場に残された鎧まで分析してしまうなんて、一国の王子には見えなかったわよ。」


「あれは受け売りだ。前にも言っただろう?前の近衛騎士隊長、その爺さんに一切を教えてもらった。こんな所で役に立つとは、聞いておいて損はしないみたいだ。」


「良い師匠をお持ちのようね。」


 アレックスの感心したような口調に、マリアが同意の言葉を口にした。


「はっ、何がいい師匠なものか。俺が初めて戦場に連れていかれたのは5年前、まだ10才になったばかりの頃だぞ。帝王教育とは言え、幾らなんでも早すぎる。」


「5年前?そんな頃に戦なんてあったかしら。うちといざこざがあったなんて聞いたことないし、まさか他の大陸まで攻め込んだのではないでしょうね?」


「いやいやいや、それこそまさかだ。国内に現れた野賊を退治しただけで大した戦でもない。まあ、山にそれなりの砦を作っていたからそれなりに大変な戦だったけどな。」


 マリアに詰問されそうになったアレックスは慌てて否定した。二つに分かれていた世界が繋がって以降、大きな戦争が起きた事例はない。その野心を持った者がいなかったわけではないが、海の障壁は大きくそれを可能とした国はない。


「ふ~ん、野賊ね・・・でも近衛騎士隊長が出張らなくてはいけない程の相手だったのかしら?」


「総勢114人、野賊にしては数が多かった。近衛騎士から8名、騎士16名、一般兵士72名を動員した大作戦になった。」


「あら?動員数が少なすぎると思うのだけど・・・。」


 戦をするなら少なくても同数、砦に篭る相手なら5倍は用意するべきである。その軍事上の常識を知らないマリアでも不足していることは分かった。


「俺も当時はそう思った。それでもローザラインに常駐する兵力の四分の一、動員できる限度だと後で気付いた。」


「なら大変だったんじゃない?」


「いや、そうでもなかった。一部の賊を捕えて適当な尋問の後に釈放、その尋問の間にその連中がこちらに懐柔されたとの情報を流す、その後は砦の中での反乱に乗じて殲滅、まるで手品みたいだったね。」


「ええっ?情報が流れていたなら砦には入れなかったはずよ。まさか砦も開いて入れたとでも言うの?」


「そいつらは砦に近づく前に殺されたよ。本当に反乱が起きたのか、こちらの手の者かは分からないがとにかく内側から崩れた。いや、おそらくこちらで用意していた者だな。今考えると、その後の手際が良すぎる。全部あの爺いの策略だろうな。」


 マリアの疑問にアレックスは当時起こったことを反芻した。前には理解できなかったことが改めて理解できていた。


「もしそれが事実なら恐ろしい人ね。敵でないことが幸いだわ。それでその話の何処が役に立ったのかしら、要点が分からないわ。」


「戦自体は見ているだけだった。だけど終わった後で死んだ兵士や野賊の見聞に付き合わされた。彼等がどう死んだのか、その原因は何なのかと逐一説明された。はっきり言って見ていられなかったが最後に言われた言葉だけは覚えている。戦に死人が出るのは仕方のないこと、だが死んだ兵士達に恥じる指揮はしていなかったか、彼等の遺体を見てそれを考えている。」


「深いわね、やはり良いお師匠様だったと思うわ。それで今その方は?」


「城で相談役をしている。国王である親父の頭が上がらない者の一人だ。」


「一人?他にも頭が上がらない人がいるわけ?」


 アレックスの意味あり気な言葉をマリアが聞きとがめた。


「お袋だよ。平時は女の言うことには逆らえないだってさ。一国の王の言うこととは思えないだろう?」


「さてどうかしら?私には何とも言えないわ。」


 マリアは肯定しようと思ったが、あえてぼかして答えた。


「まあいいや、そんなわけで死体は見慣れている。だけどそれを増やすようなことは許すわけにはいかない。」


「・・・あなた、結構良い王様になれるかもね。」


「何?」


「何でもないわ。さあ、船に戻ろりましょう。ネイリーとジギーが待っているわ。」


 聞こえていなかったのならそれでいい。なんとなくそう思ったマリアは船に戻ることを促すことで話を誤魔化した。何処か活気のない城下町を通りすぎ船へと急いた。


 

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