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ノイエブルク

「ローザライン王国王子アレクサンデル殿、メタルマ王国王女マレーネ殿、ご入来。」


 ノイエブルクの謁見の間、右左に並ぶ文官と騎士の間をアレックスとマリアは進み出る。王座の主はおらず、空っぽの王座だけが存在を主張していた。


「なんだ、結局会えずじまいか。」


 ここまでの待遇はかなり良かった。城下に入る門に迎えが来ていて、そこから最上等な馬車で城まで、さらに城には二人の来訪を歓迎する列が並んでいた。これならと乗り込んできたのだが、期待を裏切られた気分になったアレックスが呟いた。


「ちょっと、静かにしなさい。皆見ているわよ。」


「うげっ!」


 文句に声が大きくなるアレックスの横っ腹をマリアが肘で突いた。おかしな声を上げてアレックスが黙る。そのまま歩き空っぽの王座から数歩の所で立ち止まった。アレックスの目が説明を求め、右側に立つ偉そうな男を見た。


「誠に申し訳ありません。国王陛下は心労により臥せっています。要件は国務大臣である私と近衛騎士隊長が伺いますのでご容赦下さい。必ずお伝えしますので・・・。」


「心労ねえ・・・。」


 国務大臣の言葉には嘘がある、アレックスはそのことに気付いた。国務大臣の言葉に近衛騎士隊長の視線が泳いだのである。


「叔父上、言葉を飾っても仕方ないでしょう。」


「カールハインツ、お前は黙りなさい。客人の前である。」


「いいえ、黙りません。この際だから言わせてもらいますが、いつまでも現状を隠しておくことはできません。父上はお隠れになられたのです。」


 アレックス達の前で国務大臣と近衛騎士隊長が口論を始めた。アレックスにとってはどうでもいいことだが、現王の息子が近衛騎士隊長で、兄弟が国務大臣をしていることは理解できた。


「はい、そこまでにしましょう。非公式とは言え、他国の使者に自国の恥を晒すことはないでしょう。私達は互いの情報を交換できればよいと考えてます。お話させてもらってよろしいでしょうか?」


「こっ、これは失礼しました。話を伺いましょう。」


 このままでは埒があかないと判断したマリアが口を挟む。それに対して一周りは年の離れているであろうノイエブルクの王子が恐縮して頭を下げた。ちなみに叔父である国務大臣はそこから一周り以上離れている。


「ではまず第一に現在世界は未曾有の危機に陥っています。私の知る限り、メタルマ、ローザライン、グランローズ、ローゼンシュタイン、そしてここノイエブルク、その全ての地が魔物の脅威に晒されています。」


「ここノイエブルクだけではないのだな?」


「ええ、その通りです。しかもそれだけでなく海が荒れて船での往来が困難になっています。ノイエブルクだけと思われたのは無理もない話です。」


「なるほど、それはよい話を聞いた。父上に成り代わり御礼申し上げる。」


 再びノイエブルクの王子が頭を下げた。知りたかった情報の一つが聞けたのである。


「それともう一つだ。すでにローゼンシュタインは落ちている。一月程前の話だ。」


「なんと、それは本当か!?」


「ああ、本当だ。この目でしかと見て来た。城は半壊し、国王も亡くなったと聞いている。他所の国を攻める余裕はない。」


「ぬう、そう言われても信じられぬ。確かにあれはローゼンシュタインの物だ。」


 アレックスの言葉を聞いても信じられないようだ。おそらくノイエブルク側にも確固たる証拠があるのだろうことが予想された。


「そこまで仰られる理由を聞いてよろしいですか?」


「うむ、敵の襲来を撃退した後残されたのが、ローゼンシュタインの紋章の入った鎧を着た死体。あれを見たらローゼンシュタインが攻めてきたと思っても仕方あるまい。我が国とかの国には確執があることは知っておるであろう。」


 ローゼンシュタインはかつてはノイエブルクの飛び地、独立の際にはかなりの邪魔が入り、さらに望外な金額を要求したとされている。詳しい話は両国だけで他国には伝わっていない。


「その鎧を見せてもらっていいかな。こちらも言葉だけでは信じられない。」


「よかろう。しばし待たれよ。すぐに持って来させる。」


 近衛騎士隊長がそう言うと末席にいた近衛騎士が一同に礼をしてから立ち去った。


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 しばらくして謁見の間の大扉が開いた。数人掛りで運ばれてきた汚れた鎧幾つかが、アレックス達の前に並べられた。アレックスはしゃがみ込んで鎧の紋章を確かめる。


「間違いなくローゼンシュタインの鎧だ。Ⅳ-Ⅰ・・・4番隊隊長の物か。」


「だから言ったであろう。こちらとしても何の確証もなくは言わぬ。だがこうして証拠もあるのだ。我が国がかの国を誹謗したとしても、ローザラインやメタルマに文句を言われる筋合いはない。」


 アレックスの呟きにノイエブルクの国務大臣が苦情を口にした。


「まだ結論を出すのは早い。この鎧は投石器によって潰されている・・・こっちはクォレルが刺さった跡があるな・・・はは~ん、なんとなく分かってきたぞ。」


 アレックスは鎧のパーツを手に取る。板金鎧のフロントブレスト、右肩に近い部分が大きく凹み、左胸に5cmぐらいの穴が開いていた。


「どうだ、間違いなくローゼンシュタインの鎧であろう。」


「ああ、それは間違いない。だけど違うな。」


「何が違うと言うのだ?」


 アレックスの言葉の矛盾に国務大臣が苛立った声を上げた。


「この傷だとこの鎧の主は二回死んでいる。」


「どう言うことだ?」


「ちっ、面倒な話だ。見て分からないのかよ。ああ、分かったよ。説明すればいいのだろう?」


 思わずぼやいたアレックスは隣にいるマリアに睨まれた。仕方なく手にした鎧のパーツを見せて、説明することにした。


「左胸の内側には大量の血がこべり付いている。この胸の傷が致命傷だな。だけど右肩への打撃、おそらく投石器によるものだと思うが、これも致死に相当する。」


「それがどうした。胸に矢を受け、死ぬ前に右肩に投石を受けたかもしれぬだろう。」


「違うね。右肩の傷には血が付いていない。錆の具合からして最近付いた傷だ。つまりローゼンシュタインで胸に槍を受けて死んだ騎士の鎧が何故か、ここノイエブルクで投石を受けたと言うことになる。」


「何を馬鹿なことを!そんなことあるわけないだろう。」


 アレックスの説明が理解できなかったのか、苛立った国務大臣が怒鳴りつけた。


「それがあるんだな。例えばだが、お囮として死体から剥ぎ取った鎧を使う。矢を無駄遣いさせ、敵を誤認させることを目的とする。実際にここノイエブルクはローゼンシュタインを敵だと思っている。この策を仕掛けた奴としては満足だろう。」


「黒幕がローゼンシュタインである可能性も捨てられぬであろう?自作自演と言うこともある。」


 黙って聞いていた近衛騎士隊長が口を挟んだ。アレックスの説明したことについては、実際に城を責められた当事者として、頭に血が登っていたこともあって少しも気付かなかった。そのことが口調を少々弱くしていた。


「まあその可能性は捨てきれない。だけどこれを見てほしい。」


 アレックスは他の鎧を手に取ると切り傷のある鎧を手に取った。胸の部分に大きく三条の傷がある。


「鉄の鎧が爪で引き裂かれているみたいだ。こんなことができるのは強力な魔物しか考えられない。ここノイエラントに魔王が蘇った可能性もあると思っている。これからそれを確かめてくるつもりだ。」


「そなた魔王の島に渡るつもりか?」


「他に方法がない。そこに復活した魔王がいるなら倒す。そうでないならまた一から手がかりを探すしかないな。」


 当たり前のことのようにアレックスは言ってのけた。隣にいるマリアにも動揺は感じられない。それがどんなに困難なことか誰にでも想像できることなのにだ。


「どうやら本気のようだな。よろしい、ノイエブルクの近衛騎士も協力させてもらおう。」


「協力?国王不在の今、勝手に近衛を動かす訳にはいかないだろう。それより魔王の島から戻ってきても補給する場所が無くなっていては困る。この城を堅守しておいてくれればそれでいい。」

 

「そうか・・・分かった。そなたの忠告に従おう。だが死ぬなよ、私はローザラインやメタルマにそなた達の死を告げるつもりはない。」


「余計なお世話だ。ならちょっと行ってくる。朗報を待っていてくれ。」


 アレックスは軽く敬礼をすると踵を返して謁見の大広間を出て行った。後ろにマリアも続く。二人の背中に近衛騎士達の踵を会わせる音と鎧の金属音が聞こえた。

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