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ノイエハーヘン

 ノイエハーヘン、内陸にあるノイエブルクから徒歩で半日程の海岸線に存在している港である。ノイエラントと外界を繋ぐ役割をしていたこの港は、今は人もまばらにしかいない。波止場に停泊している船も十分な整備がされていなく、長いこと使われていないことが容易に知れた。


 録な誘導もないまま船は入港した。入港手続きは船長であるドラーフゲンガーに任せてアレックス、ネイリー、マリア、ジギーの4人で港町を散策することにした。すれ違う人はなく、建物の中からこちらを伺う気配だけは感じる。開店しているらしい宿屋を見つけてそこに入ることにした。猜疑心に満ちた人の視線が4人を待っていた。


「おいおい何なんだよ、この店は。客が来たと言うのにこれは無いだろう。」


 アレックスが真っ先に切れてみせた。もっともこれは演技でしかないがそれでも十分に効果はあったようで、一人の老人がアレックスの前まで歩み出てきた。


「当方の者が失礼しました。ですが半年以上も来る船もない港でして、怪しむなと言う方が無理な話にございます。」


「なるほど、やっぱりここもそうか。俺達が知る限りローザライン、メタルマ、グランローズ、ローゼンシュタインの各港も同じようなものだった。」


 何故かローゼンシュタインの名前が出た瞬間、老人だけでなく店の者達の顔色が一瞬曇る。その一瞬をネイリーは見逃さなかった。


「何か気掛かりなことでもありましたか?」


「いえ、あの、これは旅の方に話すようなことではありませんので・・・ご容赦下さい。」


 老人が言い淀んだ。険しい顔をしたネイリーが問い詰めようと一歩前に出る。アレックスはその肩に手を置いて止めるとと、近くのテーブルの椅子にどっかりと腰を降ろした。


「ネイリー、人に話を聞くならそれじゃ駄目だな。爺さん、とりあえず俺には酒、こいつらには適当な飲み物と食事を頼む。ここのところ禄な食事を取っていないから、とびきりの食事がいいな。ああ、金のことなら心配いらないぞ。」


 アレックスはそう言うと懐からゴールドの入った袋をテーブルの上に置く。ジャラリと音が立ちかなりの金が入っていることを予想させた。


「あの~、お客様のどちらの御仁でしょう?見覚えがあるような気がするのですが・・・。」


「ああ、俺はローザラインのアレックスだ。見覚えがあると言うのは多分アレフ一世のことだろう。よく似ていると言われていた。」


 その言葉を確かめる為に老人はアレックスの顔をまじまじと見る。しばらくして納得したのか一人頷いてみせた。


「なるほど、ここノイエラントでも高名な勇者王の伝説、その肖像画で見たことのあるお顔です。だとすると貴方様はローザラインの王子様と言うことになりますが?」


「まあ、そう言うことになるが、今は世界に何が起きているか調べている一人の者にすぎない。そこでだ、さっきの話の続きが聞きたいんだが話してくれるか?」


「新たなる勇者の伝説にお役に立てて光栄です。喜んでお話させて頂きましょう。」


「新たなる勇者の伝説ね~・・・。」


 思わぬ賞賛の言葉にアレックスが一言呟いた。どうやら照れているらしい、マリアはそう見て取った。しばらく無言の時が流れる。思い出したかのように老人が口を開いた。


「これは失礼しました。ではお話させて頂きます。5日前のことですがノイエブルクが魔物による襲撃を受けました。手勢はそれ程多くはなくすぐに鎮圧されたましたが、その魔物の中に人間が混じっていたと聞いています。」


「まさか・・・。」


「そのまさかにございます。戦場に残された鎧に刻まれた紋章は薔薇の紋章・・・」


「馬鹿なっ!そんなわけあるはずない。」


 老人の言葉をネイリーが遮った。とても信じられることではない。


「事実でございます。城の近衛や高官に聞いた話ですが、ローゼンシュタインが魔物と手を組んで世界を支配しようとしていると推測しているそうです。」


「ありえんな。俺は見てきたから知っているが、ローゼンシュタインはすでに落ちていて他所の国を襲える程の力はない。」


「それは真にございますか?」


「何だ、俺の言うことが信じられないのか?」


 アレックスの声が低くなった。流石に気を悪くしたようである。

 

「これは失礼しました。俄には信じられない話に口が滑りました。それでその情報はすぐにでも城に伝えた方がよいと考えます。殿下にその意思はございますでしょうか?」


「ああ、そのつもりだ。こちらにも聞きたい話はある。」


「ではそのように城に連絡しておきます。現時点では城下町に入るにも許可が必要です。お連れの方も同様に手配致しますか?」


 老人の視線がネイリー達3人に移った。現時点で誰かは分かっていないようである。アレックスは少し考えてから返事をする。


「いや、城に訪れるのは俺とそこのマリアの2人だけでいい。」


「ちょっとっ!僕も行く。」


 当事者であるネイリーは、自分のいない場所で話を進むことを恐れて口を挟んだ。


「ネイリー、今回は遠慮してくれ。話が面倒になる。」


「そうよ、今は無理をしない方がいいわ。アレックスに任せるのは心配かもしれないけど、私も行くから安心して任せなさい。」


「ぐうっ、仕方がない。マリア、君に任せる。」


 マリアも説得したことでネイリーが大人しく従った。不思議な光景に老人が首を傾げている。思わず疑問の言葉を口にした。


「あの~、こちらの二人は?」


「ああ、こちらはマレーネ、メタルマの王女だ。そっちの二人はまあ協力者と言ったところか。」


 今はまだネイリーの身分を明かすべきではない。そう判断したアレックスは微妙にぼかして紹介した。ネイリーは何か言いたそうな顔をしていたが、老人はそれには気付いていない。アレックスに並ぶ重要人物に気を取られていた。


「これはこれは大変失礼致しました。時期国王たるお二方へのご無礼お許し下さい。」


「いえ、お気になさらずに。それより時間がありません。先程の手配の話を進めて頂けますか?」


「そうでした。ではすぐに手配致しますので失礼します。」


 老人はそう言うと裏へと下がった。しばらくしてテーブルに食べ物や飲み物が運ばれてくる。


「ねえ、機嫌直した方がいいよ。皆近寄れなくて困っている。」


 不機嫌な表情を隠そうとしないネイリーをジギーが窘めた。何かに遠慮しているような気配はあるのは間違いない。


「それは僕のせいだけじゃない。文句があるならアレックスに言ってくれ。」


「悪いな。別にお前を軽んじたわけじゃない。それに次に行くのは魔王の島だ、俺達が城に行っている間に調べておいてくれ。古い文献を漁るのは嫌いじゃないだろう?」


「怒っているのは君に対してじゃない。何もできない自分に腹を立てているだけだ。やるべきことがあるならやる。確か船の書斎にそんな文献があった覚えがある。戻ってくるまでに調べておくよ。」


「それでいい。お前に感情のまま動かれると俺が困る。さて料理も並んだことだし食べるとしよう。」


 テーブルに並んだ料理は高級料理ではないが、航海中に食べている物よりはずっと美味しそうに見える。その料理を食べているうちにネイリーの険しかった表情が緩んでいった。


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