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魔王の城

 魔王の島、ノイエラントの中央に位置するこの島はかつて二度魔王の居城が存在していた。200年程前にアレックスとマリアの祖となる勇者アレフが魔王を倒して後は、一大観光地となっていた。しかし魔物が溢れる今は、元の魔王の島らしい雰囲気を醸し出している。


「船着場が無事で良かったな。だけどさ、この階段はないと思わないか?」


 断崖絶壁の下の船着場から長い階段が伸びている。ここを登らなくてはならないことにアレックスが言外に文句を言った。


「階段で登れるだけましだよ。君達のご先祖様はこの島に入る為に伝説のアイテムを使ったとされている。さらにここの対岸から三日程歩いたとあるけど、そっちの方が好みだったかな?」


「うわっ!それは勘弁してくれ。ここを登る方が遥かにましだ。」


 ネイリーの脅しにも似た説得にアレックスは階段の一段目に足をかけて登り始めた。その後ろにマリア、ジギー、ネイリーと続く。木で作られた階段はここ一年は使う者がいない為、雑草が伸びに伸びている。アレックスは腰の剣を抜いて適当に払いながら進むことにした。


「それ騎士の剣でしょ?そんなことに使っていいのかしら?」


「構わんさ。他に道具を持ってきていないし・・・。」


 そう言いながらもアレックスは後続が登りやすいように草を刈り続ける。100段程登って階段は折り返すことになったので休憩する為に立ち止まった。


「変わろうか?」


「いやいい。俺は誰かの後ろを歩くのは好きじゃない。」


「ならいいけど、先は長いよ。これまでの4倍はある。」


 最後尾のネイリーは断崖の上を指差してこの先の苦労を訴えた。


「ふん、地獄の行軍訓練に比べたらこの程度なんてことない。さあ、行くぞ。」


 アレックスが再び階段を登り始めたのでネイリーはこれ以上追及することを止めた。


「ねえ、地獄の行軍訓練って何?」


 ジギーは振り向くと小声でネイリーに質問した。


「年に一度やる三日三晩に渡る行軍訓練のことだよ。うちの国にもあったけど、ローザラインにも同じ訓練があったみたいだね。」


「それって大変?」


「大変だよ。十分な物資も持たずに三日三晩歩く。食べる物は現地調達、マントにくるまって仮眠を取るだけ。昔から伝わる訓練の一つだ。」


「うわあ、大変だねぇ・・・。」


「まあね、でもこれに脱落する者は騎士にはなれないし、ついていけなくなったら騎士を辞めないといけない。だから皆必死になる。ああ、話している間に少し遅れてしまった。少し急ごう。」


 先を進むアレックス達に追いつく為に急いで階段を上がる。全部で500段の階段を登った所で頂上に辿りついた。眼下にはノイエハーヘンに向かって出港した船が見えた。


 ---------------------------------


 魔王の城は朽ち果てて外壁のあちこちに穴が空いている。大きな正門も片方が外れていてその役目を果たしていない。一応その扉を通って中に入った。かつては迷路になっていたであろう城内は観光地化したことで順路が設定されており、なんの苦労もなく王座のある場所に辿り着いた。外壁はともかく構造的にはここで行き止まりとなっている。


「確か下に続いているんだったな。」


「ええ、そうよ。危険だから公開されていないだけで、この下に迷宮があることはアレフ一世の手記に記されているわ。」


「そうだったんだ、知らなかった。」


 源流を同じくするローザラインとメタルマと違い、ローゼンシュタインには伝わっていなかったらしい。思わぬ事実にネイリーが驚きの声を上げた。


「こっちでも公にはしていないから知らないのも仕方がない。さて地下への入口は何処にあるのか、探すぞ。」


 アレックスはブーツの硬い踵で床の石板を蹴り始めた。ネイリーもその真似をして床を蹴る。広い部屋だけに苦労が予想された。


「手記によると王座の後ろにあるそうよ。」


「そうなのか・・・じゃあこっちだな。」


 マリアの忠告に従いアレックスとネイリーは王座の後ろ辺りに移動した。二人で並んで石板の一枚一枚を蹴る。10分もしない内に軽い音のする石板を見つけた。


「ここみたいだな。」


 アレックスはしゃがみこむと石板の隙間にナイフの刃で詰まっている土を穿り始めた。同じくネイリーも手伝う。隙間が広がり石板が少し動き出した。ナイフを差し込んで梃子の原理を利用して石板を上に外す。暗闇に光が差込みうっすらと階段を照らし出した。


「出入りした様子はない・・・ここで魔王が復活したとは思えないな。」


「じゃあ入るのは止める?」


「いや他に手がかりがない。一応でも入っておこう。」


 マリアに返事をしながらアレックスは下への階段を降りる。下まで降りると暗闇で何も見えなくなった。


「暗いな。先が全く見えない。」


「なら明かりの魔法を使う。何処にかければいい?」


「ちょっと待ってろ。松明を出すからそこにかけてくれ。」


 アレックスは背嚢を漁って一本の松明を取り出した。階段を降りてきたネイリーが松明に手を触れて集中する。


《僕は魔力を2消費する、魔力はマナと混じりて万能たる力となれ

  おお、万能たる力よ、明るき光となりて闇を照らせ!Lux(明かり)!》


 松明の先端に光が灯り、暗闇の先を照らし出す。石で作られた迷宮が不気味な姿を現した。



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