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前世で磨いた推し活×事務スキルで、孤独な冷遇殿下を王太子に押し上げたら、重すぎる溺愛と執着で囲い込まれました  作者: 秋乃銀杏


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最終話・エピローグ あなたは私の一番の「推し」です!

翌年の復活祭の季節に、王太子フリードリヒと、コルンフェルト侯爵家の令嬢シャルロッテの婚礼が大聖堂で執り行われた。


 花嫁の純白のドレスには青灰色の刺繍が、花婿の礼装にはヘーゼル色の飾緒が施されていた。


「シャルロッテ様が、あれほどお美しい方だったなんて」

「昔は、地味で目立たない令嬢だと言われていたのに」

「本当は、あのように美しく、目を惹く方だったのね。ご自分で隠していらしただけで」


「――病める時も、健やかなる時も。この国が栄える時も、苦しむ時も」


 祭壇の前で、フリッツが私の手を取った。

誓いの言葉の後、司祭が促すのを待たずに、フリッツは小さく付け加えた。


「……一生、君の隣にいる。君が嫌だと言っても」

「嫌だなんて、言いません」


 小声で返すと、大聖堂の最前列で、兄様が吹き出すのを堪えているのが見えた。


 社交界では、しばらく「王太子妃様の装い」が流行した。

柔らかく編んだ髪、深いボルドーのドレス、そして大切な人の瞳の色の小物。


「……よくやったわね、シャルロッテ」


 祝宴で、お母様は扇の先で顎を叩き、ふんと鼻を鳴らして、お父様の腕にそっと手を絡めた。お父様は満足そうに顎を撫で、兄様とお義姉様は並んで拍手を送り、ヴィクトリア様は扇子の陰で微笑み、マクシミリアン殿下とマリー嬢は手を取り合って祝福してくれた。


「王都とコルンフェルトを結ぶ鉄道の最初の区間が、秋には開通しますぞ!」と公爵閣下が豪快に笑い、その隣でフォルクさんが「蒸気の方は、あと三年待て」と、煤のとれない手で無愛想に祝杯を掲げた。宰相閣下は片眼鏡を押し上げて「王太子妃殿下には、いずれ宰相府の帳簿も見ていただきましょうか」と、冗談とも本気ともつかない顔で言った。


 祝宴の途中、お義姉様が少しだけ頬を染めて、お母様に何かを耳打ちした。


 お母様の扇子が、ぴたりと止まった。

それから――お母様は、扇の先で顎を叩くのも忘れて、お義姉様の手を両手で包んだ。


「……本当に?」

「はい。秋には、お義母様に、孫のお顔をお見せできるかと」


(え……! お義姉様、赤ちゃん……!?)


「アルブレヒト! あなた、こんな大事なことを――」

「い、いや母上、妹の婚礼の日に言うのもどうかと……」


 慌てる兄様を久しぶりに見た。目を細めて喜んでいるお父様。

お母様は、ふんと鼻を鳴らそうとして――鳴らしきれずに、目元をそっとハンカチで押さえていた。


(コルンフェルト家、箱推し案件が、また増えた……!)


 宴の終わり近くに庭に出ると、フォルクさんが、煤だらけの小さな機械を据えていた。


「祝いの見世物じゃないからな。――進捗の報告だ」


 ぶっきらぼうに言って、フォルクさんが小さな釜に火を入れる。

しばらくすると、しゅう、と白い湯気が上がり、機械についた小さな車輪が、ことり、ことりと回り始めた。


「回った……!」

「まだ、自分の重さも運べん、おもちゃだがな」


 フリッツが、私の手を握って、その小さな車輪を見つめていた。


「……いつか、この車輪が、鉄道の上を走るんだな」

「はい。きっと」


 マクシミリアン殿下とマリー様の婚約も、同じ春に正式に発表され、ヴィクトリア様は約束通り、臣下として二人に祝福を贈った。


 そして、その春の終わりにヴィクトリア様は、ヴァルデン王国の王太子、レオンハルト殿下のもとへ嫁いでいった。


「シャルロッテ、手紙を書くわ。鉄道が国境まで延びたら、今度はあなたが会いに来なさい」

「はい! ……ヴィクトリア様、膝が浅くなりませんように」


 見送りの馬車の前でそう言うと、ヴィクトリア様は一瞬目を丸くして、それから声を立てて笑った。


「――生意気になったわね」


 国境へ向かう馬車の窓から、ヴィクトリア様は、扇子を開いて小さく振っていた。隣には、黒髪の王太子殿下が、ヴィクトリア様の横顔を、穏やかな目で見つめていた。


 ほどなくして、アドラークローン王国とヴァルデン王国の間で、国境まで鉄道を延ばす約束が交わされた。剣ではなく、麦と鉄の道具を運ぶ道を。

――ヴァルデンの宮廷では、聡明な新しい王太子妃が、その橋渡しに尽力しているという。


 ――そして、その年の秋。


 王都とコルンフェルト領を結ぶ鉄道の、最初の区間が開通した。

人々はそれを、麦の黄金色にちなんで「麦穂線」と呼んだ。


 初めての車には、村の野菜を籠いっぱいに抱えたミュールドルフの母娘と、王都の商人たち、そして――王太子夫妻が乗り込んだ。


「ロッティ、約束通りだ」


 動き出した車の上で、フリッツが私の手を取った。


「この道で、君をコルンフェルト領まで送っていく……一緒に、帰ろう」


 車窓――いいえ、屋根のない車の上から見える麦畑は、黄金色に揺れていた。

前世の電車よりずっとゆっくり、だけど優しい速さだった。


(いつか、フォルクさんの蒸気の車が、この道を走る日が来る。王都の人も、村の人も、もっと遠くまで、もっと速く)


(人生はゲームじゃない。エンディングも、セーブデータもない。……でも、だからこそずっと、ずっと先まで続いていくんだ。そして色々な景色をこれからも見ていく。 その時には、いつもフリッツが隣にいるんだ……)


「……ロッティ。何を考えている?」

「昔のことを、少しだけ思い出していました。……私、ずっとあなたのことを『推し』だと思っていたんです」


「推し?」

「一番応援したい『大切な人』という意味です」


 フリッツは少し考えてから、ふっと笑って囁いた。


「それなら、私も同じだ。君は、私の一番の『推し』だよ、ロッティ」


 額に、そっと唇が落ちる。


「――一生、君だけを推し続ける。覚悟しておいてくれ」


 甘くて、少しだけ重くて、どうしようもなく愛おしい声だった。


 この幸せは、明日もその先もずっと続いていく。

 秋の風が、二人の間を優しく吹き抜けていった。




                       ――完――


最後までお読みいただきありがとうございました!

★評価・リアクションをぜひお願いします。


その後を描いた番外編を5本用意しています。ブックマークをしてお待ちいただけると嬉しいです。

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