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前世で磨いた推し活×事務スキルで、孤独な冷遇殿下を王太子に押し上げたら、重すぎる溺愛と執着で囲い込まれました  作者: 秋乃銀杏


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第53話 市政対決の結果発表

 大議場の傍聴席で、私は手すりを握りしめていた。

隣にはお母様とお義姉様。少し離れた席に、ヴィクトリア様と――祈るように両手を組んだマリー嬢がいる。


 玉座の下には、深紅と金のマクシミリアン殿下と、深い青のフリッツ様。

一度だけ、フリッツ様が傍聴席を見上げて私をみた。目が合うと目元が、ふっと緩んだ。


(大丈夫。帳簿は、嘘をつかないです)


 やがて現れた陛下は、七月よりもさらに頬がこけていた。

それでも、その目には静かな光が宿っている。


「秋の納税の集計結果を、ご報告いたします」


 宰相閣下が、書類を読み上げ始めた。


「第一王子殿下の市政。王都の祭りにより、王都の税収は前年比一割五分増。王都の商人からの支持は、極めて厚い」


 議場が、小さくざわめく。


「――ただし、王都周辺の十二の町では、税収が平均二割減少。祭りに投じた予算を差し引けば、国全体の税収は、前年比でわずかに減少しております」


 硬い表情のマクシミリアン殿下が、唇を引き結んだ。


「続いて、第二王子殿下の市政。東部六村において、夏の病による死者は例年の四分の一以下。収穫は前年比一割二分増。井戸の改修費は、三年以内に回収できる見込みです。加えて、アイゼンベルク公爵家の協力のもと、鉄道の計画が進められております」


(やった!数字に出た……!)


「最後に、民の支持について」


 宰相閣下が、分厚い紙の束を掲げた。


「王都周辺の町々と、東部の村々から寄せられた嘆願書です。その多くが――第二王子殿下の市政を、自分たちの町にも望む、という願いでございました。加えて、王都の商人組合からも、鉄道を王都に通してほしいとの嘆願書が届いております」


(グスタフさんたち……! 本当に、出してくれたんだ)


(嘆願書……!?)


 ミュールドルフの、野の花をくれた女の子の顔が浮かぶ。

泥だらけで溝を掘っていた村の人たち。「殿下、やるねえ!」と笑った声。


(届いてた。ちゃんと、届いてたんだ……)


「――以上をもって、余は判断する」


 陛下の声に、議場が静まり返った。


「国をより富ませたのは、第二王子フリードリヒである。民の支持をより多く得たのも、第二王子フリードリヒである。余は、フリードリヒを王太子に推す。――議会の承認を求める」


 一瞬の静寂。そして、議場を揺るがす大きな拍手が起こった。


 お父様がゆっくり立ち上がって手を叩き、兄様が満面の笑みで拍手している。宰相閣下は静かに頷き、公爵閣下は腕を組んだまま、にやりと笑っていた。


(一年半前、「私がいなくても、誰も困らないよ」って言ってた人が……)


 頬を、温かいものが伝った。


「……はしたないわよ、シャルロッテ。こんなところで」


 差し出されたお母様のハンカチ。いつもの厳しい声が、かすかに震えていた。

横顔を盗み見ると、お母さまの瞳もほんのり赤い。


 議場の中央で、マクシミリアン殿下が、フリッツ様に向き直った。


「……負けたよ、フリードリヒ。いや、最初から勝負になっていなかったのかもしれないな。お前はずっと先を見ていた。僕は、目の前の笑顔しか見ていなかった」

「兄上……」

「おめでとう。お前が王太子なら、きっと良い国になる」


 ぽん、と肩を叩かれて、フリッツ様は深く頭を下げた。


 傍聴席で、マリー嬢がぽろぽろ泣きながら、それでも懸命に拍手している。


 王妃陛下が、フリッツ様の前に歩み出た。


「おめでとう、フリードリヒ。……あなたの成人の誕生日は、十一月八日でしたね。今年は王宮で、祝いの宴を開きましょう。これまで一度も開いてこなかった分まで盛大に」


(王妃陛下が……フリッツ様の誕生日を……!)


 見上げてきたフリッツ様は――今まで見た中で一番、泣きそうな顔で笑っていた。


♦


 散会の後、人の波が引いた控えの間で、ようやく二人きりになった。

扉が閉まった瞬間、何も言わずに、強く抱きしめられた。息が詰まるほどの力。腕が、かすかに震えている。


「……フリッツ様」

「少しだけ。……少しだけ、このままで」


 肩に顔を埋めたまま、掠れた声が言う。


「ずっと、誰にも選ばれないと思っていた。父上にも、この国にも。……それが、今日」

「選ばれたんじゃありません。フリッツ様が、ご自分の力で勝ち取ったんです」

「……君が、いたからだ」


 顔を上げた青灰色の瞳が、濡れて光っていた。両手で、頬を包まれる。


「君が、井戸の底から私を引き上げてくれた。――ロッティ。もう、何があっても離さない。王太子になろうと、王になろうと。君だけは、誰にも渡さない」


 二人の影が一つになる。

 深く、長く、確かめるような口づけに私はこたえた。


 控えの間の窓の外で、冬の始まりの風が、枯れ葉を高く舞い上げていた。

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