↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世で磨いた推し活×事務スキルで、孤独な冷遇殿下を王太子に押し上げたら、重すぎる溺愛と執着で囲い込まれました  作者: 秋乃銀杏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/68

第51話 王都の商人たちとの交渉

「……鉄道、でございますか」


 王都の商人組合の会館で、組合長のグスタフ氏が、太い眉をひそめた。


 長い卓を囲むのは、織物商、食料品の卸、宿屋の主人、鍛冶屋の親方――王都の商いを仕切る顔ぶれだ。その向かいに、フリッツ様と私。後ろには、兄様が控えている。


(ここにいる人たちは、マクシミリアン殿下のお祭りで一番儲けた人たち。……つまり、一番手強い相手)


「失礼ながら殿下。この夏の祭りは、我ら王都の商人にとって、またとない稼ぎ時でございました。殿下の井戸の話は立派なものと伺っておりますが、我らには縁遠い話でございますな」


 宿屋の主人が、腕を組んだまま頷く。


(予想通り。でも、ここからが勝負)


「祭りの二週間、皆さんの売り上げは大きく伸びたと思います」


 私は、持ってきた紙を卓に広げた。


「では、祭りが終わった後の、九月と十月はいかがでしたか」


 商人たちが、顔を見合わせた。


「……それは」

「祭りのために仕入れた品が、売れ残ったという話を伺いました。祭りに合わせて雇った人手も、祭りが終われば仕事がない。そして、王都の周りの町では、若い人が王都に出てしまって、市場が寂れています。――町が寂れれば、そこから王都へ品を買いに来るお客様も、減っていきます」


 織物商の女主人が、はっと目を見開いた。


「……確かに。近頃、周りの町からのお得意様が、めっきり来なくなりましたわ」


(数字は嘘をつかない。前世で、イベント特需の後の落ち込みを、何度帳簿で見たことか)


「鉄道は、お祭りのように一度に人を集めるものではありません」


 フリッツ様が、静かに口を開いた。


「毎日、人と物を運ぶ道です。コルンフェルト領の麦も野菜も、公爵領の鉄で打った鍋や鋤も、今より早く、安く王都に届く。皆さんは、それを仕入れて売ることができる」

「そして、人も運べます」


 私は、地図の上の線を指でなぞった。


「村の人たちが朝に王都へ働きに来て、夜には家に帰れる。王都で品を買って、村へ持ち帰ることもできる。宿屋のご主人、旅人の数は、きっと増えますわ」

「……ほう」

「それに、皆さんの品を、王都の外へ売りに行くこともできます。山の公爵領の町では、王都の品がとても高く売れるそうです。鉄道なら、運ぶ手間はずっと少なくなる」


 鍛冶屋の親方が、身を乗り出した。


「公爵領の鉄が、安く手に入るってことですかい」

「ええ。剣ではなく、道具の鉄が」


 会館が、ざわざわと揺れ始めた。


「しかし、そんな大掛かりな道、いつ通るんで?」

「まずは、馬に車を引かせる鉄道から始めます。鉄の軌道の上なら、馬一頭で普通の道の何倍もの荷を引ける。この国の馬と御者で、すぐに始められます」

「……馬で、ねえ」


 組合長のグスタフ氏が、私の広げた計算書を手に取った。しばらく黙って頁をめくり、やがて、眉間の皺がゆっくりとほどけていく。


「……この計算は、どなたが」

「私です」


 グスタフ氏は、まじまじと私を見た。


「コルンフェルト嬢。失礼ながら、侯爵家のご令嬢が、ここまで商いの数字をお読みになるとは思いませんでした」


(会計事務所で鍛えられましたので……とは言えない)


シャルロッテは、返事の代わりに、にこりと微笑む。


「祭りは、二週間で終わりました。でも、道は残ります」


 フリッツ様が、組合長をまっすぐに見た。


「私は、王都を一度だけ湧かせたいのではありません。王都を、ずっと富ませたいのです。――王都と地方が、一緒に」


 長い沈黙のあと、グスタフ氏は計算書を卓に置いた。


「……殿下。この組合として、鉄道を、王都にも通していただきたいと、宰相府に願い出てもよろしゅうございますか」


(……やった!)


 会館を出ると、夕暮れの風が冷たかった。


「ロッティ」


 人通りの少ない路地に入った途端、フリッツ様が、私の手を引いた。


「君がいなければ、あの人たちは、話も聞いてくれなかった」

「フリッツ様の『ずっと富ませたい』で、皆さんの顔が変わったんですよ」

「……二人で、だな」


 繋いだ手に、ぎゅっと力がこもる。


「ところで。組合長が君の計算書を褒めていた時、少しだけ――」

「妬けた、とおっしゃるおつもりですか」

「……よくわかったな」


 思わず吹き出すと、フリッツ様も、つられたように小さく笑った。

 路地の陰で、額に、短い口づけが落ちる。


「――それで、殿下」


 後ろから、兄様のわざとらしい咳払いがした。

シャルロッテは顔が赤くなるのを抑えられないのに、フリッツは飄々としている。


(フリッツ様、絶対わかってたよね……!最近確信犯だよ……!!)

(家に帰ってから兄様とお義姉様に、絶対からかわれる……)


「例の、公爵閣下の鉱山の技術者の件ですが。明後日、アイゼンベルク領へ発つ手筈が整いました」


(蒸気の技術者だ……)


「火を吐く鉄の化け物を作った、偏屈な貴族嫌い――でしたか。……口説き落とすのは、骨が折れそうですね」


★評価・ブックマーク・リアクションを頂けると、とても嬉しいです!

更新頑張ります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。