↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世で磨いた推し活×事務スキルで、孤独な冷遇殿下を王太子に押し上げたら、重すぎる溺愛と執着で囲い込まれました  作者: 秋乃銀杏


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
50/68

第50話 鉄の公爵の答え

(場違い感がすごいよ……。前世で例えてばかりだけど、平社員が取締役会に呼ばれたみたいな感じ?……)


 翌日、宰相府の会議室。

円卓を宰相閣下、お父様、改革派の貴族たちが囲んでいる。卓の端にはマクシミリアン殿下とフリッツ様。私は壁際の記録係の席に、兄様と並んで控えていた。


 マクシミリアン殿下の顔色はよくない。

それでも礼装を整えて、背筋を伸ばして座っている。


(マリー嬢が、支えたのかな)


 やがて、アイゼンベルク公爵閣下が立ち上がった。大きな手に握られているのは――私が清書した、革表紙の計画書。


「まず、皆に詫びねばならん。王都の祭りの資金の噂は事実だ。わしは隣国へ剣を売った儲けを、祭りに回した」


 会議室が、ざわりと揺れた。


「マクシミリアン殿下には申し上げておらなんだ。殿下は何もご存じなかった。――すべて、わしの独断だ」


(公爵閣下が……マクシミリアン殿下を庇った……?)


「剣を売ったのは、領民を食わせるためだ。我が領は山ばかりで麦も育たん。いずれは隣国へ土地を広げることも考えておった」


 公爵閣下が、計画書を卓にどんと置いた。


「だが、ここに別の道がある。第二王子殿下が持ってこられた、鉄道の計画だ。剣になっていた鉄を道の鉄に変え、その道でコルンフェルト領の麦を今の三分の一の費用で我が領へ移送する。……この十日、家の者と何度も検めた。数字に誤りはない」


 会議室の貴族たちが、身を乗り出す。


「鉄道は、麦と鉄だけのものではない。王都の者も、地方の者も、人と品を毎日行き来させられる。祭りのように二週間で終わる賑わいではない。……王都も、ずっと富む」


 王都に屋敷を持つ貴族たちも、顔を見合わせた後に真剣な眼差しになる。


「まずは、馬に車を引かせる鉄道から始める。蒸気はその先だ。――アイゼンベルク家は、この鉄道の事業に、全面的に力を貸す。資金も、鉄も、人手もだ。そして、隣国への剣の輸出は、今年限りで取りやめる」


「公爵が、剣の輸出を……!」

「これなら、保守派の麦も、改革派の鉄も活きる……!」


 お父様がゆっくりと顎を撫でて頷き、宰相閣下が満足げに片眼鏡を押し上げた。


(……通った)


(フリッツ様の計画が。私の計算書が。公爵閣下に、届いた……!)


「公爵閣下。ご決断に、心より感謝いたします」

「礼には及ばん。わしは、領民が得をする方を選んだだけだ。……それと、殿下。例の、わしの鉱山の偏屈な技術者の件だが」

「はい」

「あやつは、わしが命じても首を縦には振らん。蒸気の研究をさせたいなら――殿下ご自身で、口説き落としに行かれることだ」


 公爵閣下は、にやりと笑った。


(蒸気の技術者……!?)


 ふんと鼻を鳴らした公爵閣下が、ふいに壁際の私を見た。


「――そこの令嬢。あの計算書を作ったのは、そなたか」


(ひっ……!)


「は、はい、閣下」


 慌てて立ち上がってお辞儀をすると、琥珀色の瞳がぎらりと光り――にやりと笑った。


「軌道の保守費用まで入れた計算は、見事だった。コンラート、良い娘を持ったな」

「恐れ入ります」


(て、鉄の公爵閣下に名指しで褒められた……! お父様、すごく嬉しそう……!)


 その時、卓の端で、マクシミリアン殿下が立ち上がった。


「……公爵。僕を庇ってくれたんだな。でも、庇わなくていい。祭りの金がどこから来たのか、確かめもしなかったのは僕の落ち度だ」


 マクシミリアン殿下が、隣のフリッツ様に向き直る。


「フリードリヒ。お前は、ちゃんと見ていたんだな。村の井戸も、町の帳簿も、公爵の領民のことも。……鉄道の計画、僕も賛成だ」


 屈託のない、でも少し寂しげな笑顔だった。


「――兄上。ありがとうございます」


(赤と金の礼装と、深い青の礼装。……兄弟が真正面から向き合うのを、初めて見た)


「秋の納税の集計は、今月末に終わります。市政対決の結果は、十一月の初めに、陛下より議会で発表されましょう」


 宰相閣下の言葉で、会合は終わった。


 会議室を出て長い回廊を歩いていると、角を曲がったところで、ふいに手首をつかまれた。


 引き込まれたのは、柱と壁の間の小さな窪み。


「フ、フリッツ様……!」

「……よくやった、ロッティ」


 薄暗がりの中で、両腕に閉じ込めるように抱きしめられる。


「君の計算書が、鉄の公爵を動かした。……この国を、動かしたんだ」

「フリッツ様が届けてくださったからです」

「それでも、だ。……ただ、一つだけ。公爵が君を褒めた時、少しだけ妬けた」


(え、そこ!?)


「公爵閣下は、父と同じくらいのお年ですよ」

「年は関係ない。君を見て、君を褒める男は、全員だ」


 真顔のまま言い切って、唇を塞がれた。


 回廊の向こうを、誰かの足音が通り過ぎていく。息を潜めて、それが遠ざかるまで、私たちは柱の陰で、互いの鼓動だけを聞いていた。


(十一月初旬の結果発表まで、あと少し。……その前に、王都の商人の方々と、鉱山の偏屈な技術者さん。会わなきゃいけない人が、まだいる)


★評価・ブックマーク・リアクションを頂けると、とても嬉しいです!

更新頑張ります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。