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前世で磨いた推し活×事務スキルで、孤独な冷遇殿下を王太子に押し上げたら、重すぎる溺愛と執着で囲い込まれました  作者: 秋乃銀杏


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第5話 マリーの振る舞い

 夜会から二週間後、王妃陛下主催の春の園遊会が、王宮の庭園で開かれた。

柔らかな日差しの中、色とりどりのドレスが花のように行き交っている。


 シャルロッテは、兄嫁のヘンリエッテと並んで、天幕の端の席に腰を下ろしていた。


(園遊会、前世で言うところのガーデンパーティー……。いや、どっちかというと、社交界の品評会だよね、これ)


 なにしろ今日は、あの夜会以降で初めて大勢の貴族が顔を揃える場なのだ。

皆がそれとなく視線を向けている先は一つ……


 マクシミリアン殿下と、その腕に手を添えた、淡い黄色のドレスを着た少女だ。


(マリー嬢、来た……!実物かわいい……さすが公式ヒロイン、顔面偏差値が違う)


 思わず心の中で拝んでしまった。

男爵家令嬢の彼女は、今日が正式な社交デビューということになる。


 マリー嬢は、殿下に連れられて王妃陛下の前に進み出た。

王妃陛下への挨拶で、マリー様のお辞儀がぐらりと揺れている。


(ダメだ……膝が深すぎる)


周囲からは小さなさざめきが聞こえる。

王妃陛下は穏やかな微笑みを崩さなかったが、手にした扇子が、半分だけ開いたままぴたりと止まったのを、シャルロッテは見逃さなかった。


 その後も、マリー嬢は一生懸命だった。


給仕の侍女が紅茶を注げば「ありがとうございます!」と満面の笑みで頭を下げる。菓子皿を差し出されれば、「わあ、美味しそう! いただいてもいいんですか?」と目を輝かせる。


 侍女が困ったように視線を泳がせ、一歩下がる。


「あっ、あの、よかったら一緒に座りませんか? 立っているの、疲れませんか?」

「い、いえ、私どもは……」


 侍女の顔が、見る見るうちに青ざめていく。

少し離れたところで、年配の侍女頭が眉間に皺を寄せているのが見えた。


(あー……ゲームだと「使用人にも分け隔てなく優しいヒロイン」っていう、好感度アップの名シーンなんだよね)


 画面の中では、王子がそれを見て「君は本当に優しいね」と微笑み、ときめきのBGMが流れた。


(王宮の侍女たちは、厳格な序列と作法の中で働いている。客人に同じ席を勧められて座ってしまえば、後で叱責を受けるのは彼女たちの方だ。かといって断れば、殿下の連れの令嬢に恥をかかせることになる)


どちらを選んでも、侍女が困るのだ。

当のマリー様は、指を口元に当てて小首を傾げている。


(そのモーション、ゲームのまんま……かわいい……いや今はそれどころじゃない)


 周囲の令嬢たちが、扇子の陰でくすくすと笑い始めていた。


「……男爵家では、あのようになさるのかしら」

「妃教育は、まだこれからなのでしょうね」


 決して大きな声ではない。けれど、確実に聞こえる程度の声。

 シャルロッテは、少しだけ迷っていた。


(マリー嬢はマクシミリアン殿下のまだ正式ではないにせよ、いずれ婚約者候補になるだろう。何より殿下と思いあっている。第二王子の婚約者である自分が関わるのは、後々面倒なことになるかもしれない)


(でも……)


 あの夜会で、涙をいっぱいに溜めて「ごめんなさい」と言っていた顔を思い出す。

 この子は悪い子じゃない。ただ、知らないだけなのだ。


 シャルロッテは立ち上がり、何気ない様子でマリーの近くにある菓子台へ歩み寄った。


「まあ、この苺のタルト、とても美しいですわね」


 独り言のように言いながら、給仕の侍女に、ほんのわずかに顎を引いて目で合図する。侍女はほっとしたようにタルトを取り分けた。私は言葉を発さず、目元だけで微笑んで受け取る。


「あの……今の、どうやったんですか?」


 マリー様が、小声で尋ねてきた。


「お礼のお気持ちは、目元でお伝えするくらいがよろしいのですわ。言葉にすると、かえって侍女たちが恐縮してしまいますから」

「そ、そうなんですね……! 私、全然知らなくて……! あの、あなたは」

「シャルロッテ・コルンフェルトと申します」

「シャルロッテ様! 第二王子殿下の婚約者の方ですよね! わあ、覚えました!」


 ぴょこん、と小さく跳ねたマリー様に、周りがまたざわめく。


 内心で頭を抱えたが、本人はまるで気にしていない。

心底嬉しそうに、にこにこと笑っている。


 その笑顔を見ていると、なんだか怒る気にもなれなかった。


 やがてマクシミリアン殿下のマリー嬢を呼ぶ声がすると、彼女は「またお話ししてください!」と手を振って去っていった。


 席に戻ると、ヘンリエッテお義姉様が、笑顔でこちらを見ていた。


「シャルロッテ……今の、とても自然でしたわ。マリー嬢も助かったのではないかしら」

「いえ、差し出がましいことをいたしました」


 そう答えながら、シャルロッテは遠ざかる黄色のドレスを見送った。


(ゲームでは、あの子の優しさは、全部「正解」だったのに)


 選択肢を選べば好感度が上がって、王子に愛されて、ハッピーエンド。


 でも、この世界には、選択肢も好感度ゲージもない。

あるのは、何百年も積み重なってきた作法と序列と、それを見つめる大勢の目だけだ。


(これから、大変だろうな……マリー嬢)



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