第11話 誕生日、推しからの供給が過多すぎます…!
「おめでとう、ロッティ」
「誕生日おめでとう、シャルロッテ。……髪が、少し崩れていますよ。座る前に直しておしまいなさい」
「おめでとう、シャルロッテ」
(お母様、開口一番それ……! 相変わらず容赦ない……)
今日は私の十九歳の誕生日だ。
食卓には、領地で今年最初に採れた小麦のパンと、果物たっぷりのタルト。お父様、お母様、兄様、お義姉様――家族だけの、ささやかな晩餐。
(前世の誕生日なんて、決算準備の合間にコンビニのケーキ買って、推しのアクスタの前で一人で食べてたもんね……)
それに比べたら、十分すぎるくらい幸せだ。
「ロッティ。今年は、もう一人、客人がおいでになる」
ゆっくり顎を撫でたお父様に、お母様が片眉を上げた。
「あなた、わたくしは何も伺っておりませんが」
「……今、言おうとしていたところだ」
(お父様、お母様には頭が上がらないんだよね……)
扉が開き、執事が告げた。
「フリードリヒ殿下がお見えになりました」
(……えっ?)
いつもの濃紺の上着の殿下が、少しだけ緊張した顔で入ってきた。
「夜分に失礼する、侯爵。……アルブレヒト、無理を言ってすまなかった」
「なに、構いませんよ。妹の誕生日ですから」
(兄様が言ってた「楽しみにしておけ」って、これ!? 殿下がいらっしゃるなんて、聞いてない!)
反射的に立ち上がってお辞儀をする。
六年間の妃教育は、こういう時に裏切らない。
「殿下。わざわざお越しくださり、恐縮でございます」
「誕生日だと聞いたから。……つまらないものだけれど」
深い緑のリボンの包み。開けると、革装丁の本が現れた。
『南洋諸島植物誌』
(これ……! 春のお茶会で、一言だけ「いつか読んでみたい」って言った本……!)
「覚えて……いてくださったのですか」
「君が、読みたいと言っていたから」
本の間から、細い栞が覗いていた。金細工の枠に、小さな石が一粒。緑とも茶色ともつかない、柔らかな色。
「その石は……」
殿下が少しだけ言い淀んで、指先をきゅっと握り込んだ。
「君の瞳の色に、似ていると思って」
(…………え?)
(私の瞳の色!? 逆でしょ普通!? 推し色グッズって、ファンが推しの色を身につけるものでしょ!? なんで推しの方から私の色が来るの!? 公式からの供給が過多です!! 運営さん、ありがとうございます!!)
膝から崩れ落ちそうになるのを、妃教育で鍛えた体幹が必死に支える。
「――あ、ありがとうございます、殿下。一生、大切にいたします」
「……ほう。瞳の色、ねえ。殿下は、そういうことをなさる方でしたか?」
「アルブレヒト。……黙っていてくれ」
殿下の耳が、ほんのり赤い。お義姉様が扇子の陰で「まあ」と笑い、お母様はしばらく殿下をじっと観察してから、ふんと鼻を鳴らした。
「……存外、見どころがおありのようね」
(お母様の「存外見どころが」、絶対褒めてるやつ……! 合格ラインに乗った……!)
少しだけ晩餐に加わった殿下を、玄関先まで見送る。
「改めて、誕生日おめでとう。シャルロッテ」
「ありがとうございます、殿下。……本当に、嬉しかったです」
遠ざかる馬車の音を聞きながら、本を胸に抱きしめる。栞の石が、玄関の灯りにきらりと光った。
(……推しが、尊すぎるよ)
(推すと決めたのは私なのに。応援して、布教して、陽の当たる場所に押し上げて、推しを幸せにするのは私の役目なのに、逆に推しから幸せを貰ってる――)
(よし!殿下のお誕生日は、十一月八日)
(今度は私の番。推しの生誕祭、全力でお祝いしてみせますから……!)
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