第四話:「潮鐘修道院の日常」
第四話:「潮鐘修道院の日常」
1. 断崖の目覚め、潮風の聖域
アルディア大陸の南東端、フェルナ群島。そこは王都の華やかさからも、教団の権威からも見捨てられた、いわば世界の行き止まりだった。荒れ狂う海と険しい断崖に囲まれたその地の端に、しがみつくようにして建つ白亜の建物がある。
**「潮鐘の修道院」**。
かつては女神の栄光を称える巡礼地の一つであったろう、その外壁は、長年の苛烈な潮風によって表面の石灰が剥げ、ところどころに血管のような深い亀裂が走っている。鐘楼に吊るされた鐘は赤錆び、木製の窓枠は風が吹くたびに「ひゅう、ひゅう」と、まるで老人の喘鳴のような頼りない悲鳴を上げた。
だが、それでも。
水平線から昇る朝日に照らされ、飛沫を上げる波涛を背景に佇むその姿には、中央神殿の腐敗した豪華絢爛さとは一線を画す、汚れなき美しさが宿っていた。
――ゴーン、ゴーン。
重厚だがどこか乾いた鐘の音が、修道院の朝の訪れを告げる。それは祈りの始まりであり、同時に過酷だが温かな日常の始まりの合図でもあった。
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2. 賑やかな朝の攻防と、隠せぬ曲線
「リシェル、また寝坊ですか。朝のお祈りはもう終わってしまいますよ。ほら、起きてください」
「んぅ……あと五分……いや、あと一時間……女神様だって、育ち盛りの修道女には睡眠が大事だって教典のどこかに書いてたはずぅ……」
食堂の隅にある、座面のすり減った古い長椅子。そこで芋虫のように身をよじらせているのが、修道女**リシェル**だった。
十七歳。淡い桃色の髪を寝癖で跳ねさせ、幼さの残る愛嬌のある美しい顔立ちをしている。だが、その身体つきは修道服という慎ましい装いを嘲笑うかのように豊満だった。彼女が寝返りを打つたびに、Hカップという規格外の質量を湛えた双丘が、薄い布地を限界まで押し広げて重たげに揺れる。
「……セレディアが、私とおかわり分で二人分祈っておいてよぉ。私はその分、夢の中で女神様と面談してくるから……」
「駄目です。今日こそは遅刻させませんからね」
「あと五分……」
「昨日も同じことを言ってました」
「人類は同じ過ちを繰り返す生き物なんだよ……」
「開き直らないでください」
呆れ顔でリシェルの肩を揺らしているのは、修道女**セレディア**だ。潮鐘修道院を支える中心人物であり、子供たちからは半ば“お母さん”扱いされている。
燃えるような赤銅色の長髪が朝日にきらめき、その美貌は「聖女」と呼ぶに相応しい清廉さを放っている。しかし、彼女の身体もまた、リシェルに負けず劣らず――あるいはそれ以上に暴力的なまでの肉感を宿していた。
セレディアがリシェルを覗き込もうと屈むたび、Iカップという圧倒的なバストが修道服を内側から猛烈に突き上げ、細い腰との対比によって、女神像も霞むような凄絶な曲線を描き出す。本人は全くの無自覚だが、その立ち姿そのものが、見る者にとっては一つの「試練」になりかねないほど官能的であった。
「今日は子供たちの洗濯物も多いですから、早めに動きますよ。潮が引いているうちに貝も拾いに行かなきゃ」
「はーい……あいたた、腰が重い……。ねえセレディア、なんで私のお尻はこんなに重力に素直なのかなぁ」
リシェルが渋々と起き上がった拍子に、その豊かな臀部がテーブルの端を強打した。
――がたん!
「あ」
無惨にも床へ散らばったのは、前日に苦労して干しておいた貴重な小魚の籠だ。
「リシェル……」
「ご、ごめんなさい! すぐ拾う!三秒ルール適用で! 砂がついただけだからセーフ、セーフ!」
「まったくもぅ」
「うぅ……」
セレディアは額に手を当てて天を仰いだ。だが、その口元には、慈愛に満ちたくすぐったい笑みが浮かんでいた。中央神殿から見放され、飢えと孤独に凍えていた数ヶ月前に比べれば、こんなドタバタとした日常さえ、今の彼女たちにとっては得難い幸福だった。
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3. 「お姉ちゃん」の災難と、禁じられた熱情
潮鐘修道院は、今や行き場を失った孤児たちの避難所――孤児院としての役割も兼ねていた。王都の腐敗、度重なる飢饉、そして増え続ける野盗の被害。荒れ果てた王国の縮図が、この小さな庭に集まっている。
「リシェルお姉ちゃーん! 大変だ、助けてー!」
中庭から、泥だらけの少年たちが裸足で走ってきた。
「なになに、今度は誰の服を破いたの?」
「違うよ! 洗濯物の山を崩しちゃって、誰の服かわかんなくなったんだ!」
洗い立ての服が山積みにされた籠を指差して、五歳くらいの少年トーマが半べそをかく。
山積みになった服。
誰の服かわからなくなっている。
リシェルは腕を組んで唸った。
「ふむ……これは高度な事件だね……」
リシェルは「やれやれ」と笑いながら、豊かな胸元を揺らして洗濯物の山に手を突っ込んだ。
「これはミナの。こっちのパッチが当たってるのがトーマの。穴の補修跡でわかる。はい、これはキミのだね、これで文句ないでしょ」
「おぉー! さすがリシェルお姉ちゃん、魔法使いみたいだ!」
「すごい、天才だー!」
子供たちが歓声を上げる。
「ふっふっふ、もっと褒めていいんだよ? 私はやればできる女なんだから!」
リシェルが鼻高々にふんぞり返ると、その重厚な双丘が制服の布地を限界まで引き絞り、無防備なほどに「ボヨン」と大きく跳ねた。
「わぁー! リシェルお姉ちゃん、やわらかーい!」
「ぷにぷにだー! こっちもこっちも!」
無邪気な子供たちが、まるでお気に入りのクッションに飛びつくような勢いでリシェルの胸元に抱きついた。小さな手がその豊かな膨らみを無造作に掴み、むにゅりと深く押しつぶす。
「あ、こら、そこは……っ!?」
リシェルの口から、自分でも驚くほど甘く、熱を帯びた吐息が漏れた。
彼女は蒼術の適正こそ高いが、セレディアと同じく精神干渉や感覚干渉への耐性が極めて低い体質だった。たとえそれが悪意のない子供たちの無邪気な接触であっても、柔らかな中心を強く圧迫され、指先が窄まりのあたりに触れるような感覚が走ると、脳の奥が痺れるような快感に一気に飲み込まれてしまう。
「ひゃうん……っ、あ、ダメ……そこは、あんまり、強く……っ」
顔を瞬時に真っ赤に染め、リシェルは膝の力が抜けそうになるのを必死に堪えた。触れられるたびに全身の皮膚が粟立ち、下腹部の奥からせり上がってくる熱い痺れが、彼女の理性を白く塗りつぶしていく。
「お姉ちゃん、お顔真っ赤だよ? お熱あるの?」
心配そうに覗き込んできたトーマの手が、さらにぐりぐりと、リシェルの柔肉を揉みしだく。
「んぅぅ……っ! あ、ち、違うのぉ……女神様がね、ちょっと、暑いって……はぁ、はぁ……」
リシェルは潤んだ瞳で必死に視線を泳がせながら、崩れ落ちそうになる身体をなんとか支え、子供たちを優しく、しかし必死に引き剥がそうと身悶えした。その様子を見ていたセレディアが、不思議そうに首を傾げる。
「リシェル? 本当に顔色が……。どこか具合でも悪いのですか?」
「だ、大丈夫だから! セレディアはこっち見ないでぇ!」
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4. 届かぬ恩人への憧憬と、美化された司祭像
昼時。中庭には大きな土鍋が用意された。立ち上る湯気が、潮風の中に食欲をそそる香りを広げる。
「わあ、今日のスープ、お肉(干し肉)の破片がいっぱい入ってる!」
「黒パンも新しいやつだ! 叩いても音がしない!」
子供たちが目を輝かせて器を差し出す。具材は依然として質素だが、数ヶ月前まで「お湯に塩を溶かしただけ」のような食事で凌いでいた彼らにとって、これは王侯貴族の晩餐にも等しい。
「ふふーん、凄いでしょ。中央のクロード司祭様がまた支援金を送ってくれたんだからね!」
リシェルが誇らしげに言うと、子供たちから歓声が上がる。セレディアは一人、遠い大陸の方角へと視線を向けた。彼女の懐には、今朝届いたばかりの、あの味気ない定型文の手紙が入っている。
(クロード・ヴァレンティス様……)
一度も会ったことのない、自分たちの恩人。見捨てられた辺境に、惜しみなく資材と資金を投じてくれる慈悲の権化。セレディアの中で、クロードという人物像は、今や神聖な光に包まれていた。
きっと、教義に精通し、常に穏やかな笑みを絶やさず、病に苦しむ者にそっと手を差し伸べる……若き聖者のようなお姿に違いない。
「ねえ、セレディア。クロード様ってどんな人だと思う?」
リシェルがスープをすすりながら、いたずらっぽく聞いてくる。
「そうですね……。きっと、とてもお優しくて、人格に優れた、光のようなお方なのでしょうね。もしかしたら、剣も魔法も使いこなす、騎士のような司祭様かもしれません」
セレディアが頬を微かに赤らめ、夢見るように答えると、リシェルはニヤリと笑って断言した。
「私はね、絶対に『おじいちゃん司祭』だと思うな。腰が曲がってて、白いおヒゲが地面まで届きそうなくらい長くて、杖をつきながら『フォッフォッフォ』って笑うの」
「えっ?」
「だってさ、これだけ見返りも求めずに尽くしてくれるの、絶対孫を見る目のおじいちゃんだよ。あと、頭はこう、ツルッとしてて。夕日に反射してピカピカ光ってるのよ。だから支援金も、自分のカツラ代を削って送ってくれてるんだよ、きっと!」
「もう! リシェル、それは流石に失礼ですよ! そんなわけないでしょう!?」
セレディアが珍しく声を上げて突っ込み、中庭は爆笑に包まれた。子供たちも「ハゲ司祭様ー!」とはしゃぎ回り、修道院はかつてないほどの明るい活気に満たされる。
その穏やかな喧騒の中、セレディアは心の中でそっと呟いた。
(どんなお姿でも構いません。貴方様が守ってくださるこの日常を、私は何があっても守り抜きます)
自らの血筋に眠る宿命も、その身体に宿る膨大な魔力の価値も、まだ何も知らない少女。彼女の祈りは、今日も灰色の空の下を歩く「冴えない司祭」のもとへと運ばれていく。
(第四話・完)




